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辻ノ瀬学園中等部3年4組 三橋優輝(2)

「七瀬、ここにいた」

 金髪にピアスの七瀬の後ろ姿は、強烈に優輝の視覚を刺激していた。振り向こうともしない七瀬に、嫌気が差すようなことはなかった。優輝は、黙って七瀬の正面に廻り込んだ。

 適当な距離を開けて、ベンチに座る七瀬の隣に落ち着いた。七瀬は、やはり優輝を見なかった。特に気にせず、優輝は公園全体を見渡した。広い公園には、幼稚園児から小学生くらいまでの子供が、ところどころに複数固まって騒いでいる。今よりずっと幼い頃から、優輝が加わったことのない友達の輪だった。

 母親らしき女性と連れ添っている、小さな子供が優輝の目に留まった。せいぜい4歳か5歳程度の、歩き方もどことなく不安定な女の子だった。少女は砂場に直に座り込んで、女性と共に山を作っていた。目に余るくらい平和な光景だと、優輝は感じ取る。平和な世界には、時々、吐きたくなるほど嫌気が差してしまう。優輝は目を閉じて、静かに息を吸い、吐き出した。

「なんか用かよ」

 目を開く。横を向いてみると、七瀬は猫背で俯いていただけだった。なんとはなしに優輝は空を見上げた。

「別に用はないけど」

「じゃあ、なんでいるんだよ」

「ここだと思ったから」

「適当なこと言うな」

「適当じゃないよ」

 七瀬は口を噤んだ。空から視線を正面に戻すと、優輝は言葉を次ぐ。

「家を飛び出したら、七瀬、行くとこないんじゃないかと思って」

「意味わかんねえ」

「僕も今住んでる家を出たら、行くとこないから。おんなじ行くとこない者同士、考えることも同じかと思った」

「お前と一緒にすんじゃねえよ」

 無意識のうちに、優輝の視線は七瀬の横顔に引きつけられた。幾秒かの沈黙を挟んだ後、優輝は、小さく口を動かす。

「そうだね」

 ベンチは、ちょうど木陰になっていた。風は吹かず、涼しさなど毛ほども感じられない。8月も後半に入っているというのに、この暑さは、いったいどこまで続くのだろうか。考えただけでも、優輝をうんざりさせるには事欠かなかった。

「そういや、お前ってさ」

 うん、と優輝は相槌を打つ。七瀬は顔を上げていなかった。

「家族っていんの」

「なんで」

「中途半端な時期に、辻ノ瀬に編入してきただろ。それだけでもちょっと怪しいのに、前の学校のことはあやふやだし。本当のこと言えよ」

「家族は、いる」

「どこに」

「どこかに」

「だから、適当なこと言うな」

 適当じゃないよ、と押すのは無意味だろう。答える代わりに、優輝は曖昧に言葉を濁す。これ以上を問うのも面倒になったのか、七瀬はなにも言わなかった。

「七瀬の親は?」

「親なもんか、あんな奴ら」

 優輝の問いかけに、七瀬はあっさりと答えてくる。七瀬の出した答えは、優輝の予想通りの内容だった。血肉を分けた自分の子供に、即刻「親ではない」と言い捨てられる。親としてどういう気分なのだろうか。親になったことのない優輝にはわからなかったが、想像するのは容易だった。否定されて喜ぶ人間など、最低限、優輝が生きてきた15年間の中には存在していなかった。

 七瀬の声音は、いつになく低かった。教室では常にへらへらとにやけているのを知っている分、繊細な七瀬の姿は、優輝の目に印象深く映った。

「あんなの親なわけないだろ。漫画なんかでは、どんな親でも好きで慕い続けるキャラなんて珍しくないけどさ。いろいろドラマを経て、結局は家族仲良しっていうやつ。俺、ああいうのって嫌いなんだよ。そんなことあり得ないって、俺自身がよく知ってる」

 そんな綺麗すぎる家族像は、そういう世界を知らない人間の単なる妄想に過ぎない。七瀬は、そう言い切った。説得力というより、七瀬の言葉はよりリアルだった。優輝は反論することなく、黙って七瀬の話に耳を傾けた。

「だから、俺にとっての嘉兄は特別だった。でも、嘉兄、あんなに俺のこと嫌ってたなんて」

「信じられない?」

「信じたくない」

 七瀬の意思は、優輝の心内を直接叩くようだった。「信じたくない」。耳朶で同じ言葉がリピートする。音にすれば短いのに、七瀬のその一言には、陰鬱な重苦しさが滲んでいる。

 こういうときに、左巻きのカタツムリが必要なのか。必要らしい。他人事のように、優輝はそれを思い返す。

「俺、あのとき死んでたほうがよかったんだ」

 死、という単語が優輝の耳にまとわりつく。思いつくままに、優輝は訊ねた。

「なにそれ」

 七瀬が鼻を啜る音がした。繊細な姿に多少違和感を覚えたものの、中学生離れした金髪とピアスが象徴するほど、七瀬は、派手で騒がしい人間ではないのだ。少し七瀬と話をすれば、それはわかる。だが優輝は、直接七瀬の脆さを目撃したことはなかった。

「俺、殺されかけたんだ。嘉兄の友達で、すげえ柔道強い人いるんだけどさ。その人に首を絞められて、俺、本当に死ぬと思った」

「どこで?」

「家。夏休みのちょっと前、嘉兄が学校休んでた日の夕方」

 怖かった。ぽつりと、七瀬はそう言葉を紡ぐ。すぐに七瀬は、怖かったけど、と言い直した。

「その人が言うには、嘉兄にとって一番邪魔になってるのが俺なんだよ。それ以上のことはなにも言ってないけど、あのときの形相ったらなかったな。本当に殺意剥き出しで、俺がいる限り嘉兄は幸せになれないって言わんばかりでさ」

「すごい人がいるんだね」

「今思えば、あの人、こうなることがわかってたのかもな。結果的にあの人の言ったことは間違ってなかったし、俺も思い当たる節があったから、あんなに必死になって反論してたわけだし」

 溜息混じりに声を伸ばすと、七瀬は、両手を頭で組んだ。先ほどとは打って変わり、七瀬の声は軽快だった。明るければ明るいだけ、虚しく痛々しい七瀬の声が、優輝の鼓膜を刺す。何故、七瀬は笑顔を保とうとするのか。七瀬の兄も本音を暴露したと言うのなら、何故今まで、笑顔を保ち続けてきたのだろうか。優輝には、わからないことだらけだった。

 七瀬の話は続く。そのとき七瀬を助けたのは、ほかでもなく、七瀬の兄だった。七瀬を殺そうとしていた来客は、七瀬の兄がその場に介入したことにより、あっけなく手を引っ込めた。警察に通報して事件証明を挙げなかったことにより、七瀬の兄も、七瀬を殺そうとしたその相手も、普通に学校に通っている。優輝にしてみれば、かなり異質な事実構成だった。その一連の出来事が過ぎ去った後、時間がある度にいろんなことを考えた、と七瀬は言う。

「俺が嘉兄の邪魔してるってことは、前からわかってた。俺さえいなけりゃ、嘉兄だって普通に人付き合いできてたんだよ。でもさ、だって、あの親なんだぜ。親が親じゃない兄弟で、3歳離れた弟なんだ。そりゃ、兄貴を頼るようにもなんだろ」

 不定形な笑い声を転がして、七瀬は、不意に空を仰ぐ。金色の髪と銀色のピアスが、今の七瀬が纏う、なんとも言い難いオーラを増幅させている。七瀬のそんな姿を視覚して、そう理解しても、優輝の表情は変わらなかった。

「だけど、そんなの言いわけだよな。結局は、親の不在に託けて、料理も洗濯もなにもかも、嘉兄に頼りっぱなしだった俺が悪い。親がいない以上、俺には嘉兄しかいないと思ってた。でも、その論法なら、親がいなくて兄貴もいない嘉兄の行き場はない。俺、今の今まで気付かなかった」

「それはそう、かもしれないけど」

「けど、なんだよ。適当言うなって言ってるのがわかんないのかよ、人形みたいなツラしやがってよ!」

 唐突に襟元を引き寄せられて、優輝は思わず声を詰めた。優輝の胸元を捻り上げる七瀬の右手が、すっと優輝の視界を侵食する。七瀬の腕は、真っ青だった。無意識に、優輝は空を見上げた。残酷なくらいの快晴で、座っているだけでも汗ばむというのに、七瀬の腕は不思議とさっぱり乾燥していた。七瀬は、自宅からここまで走ってきたのではなかったのか。明らかにおかしい事態に、優輝は、不覚ながら戸惑ってしまう。

「いつでも澄ました顔して孤立してるお前には、わかんないだろうな。俺が生きてる俺の世界において、嘉兄は絶対的な存在なんだよ。その絶対的な存在に拒まれたらどうなるか。崩壊だぜ。俺の世界は崩壊した。崩壊した以上、存続するに足るわけがねえよ。こんな俺の世界、もう必要ねえんだよ!」

 声を荒げ、七瀬は、力任せに優輝の襟を揺さぶる。優輝の肌が、公園全体の空気が、警戒心を帯びて波立ってくる。大人も子供もすべて含めて、人の視線が、自分と七瀬のふたりに集まっている。揺れる優輝の視界の端に、砂場に直に尻をついていた少女と、その母親らしき女性が映った。女性は異形を見るような顔で、また少女は、赤色の小さなスコップを片手に持ったまま、硬直して優輝を見つめ続けている。女性は七瀬に照準を合わせているようなのに、あの女の子は、僕だけを見ている。かもしれない。あの女性には七瀬が加害者で、女の子には僕が被害者と映っているのか。第三者の視点を考えることはできても、今の優輝には、それを事実と捉えることは不可能だった。

 この前のハイスペースランド、楽しかったなぁ。前触れなく、七瀬が呟く。寂しそうな微笑みが、もともと整った七瀬の顔立ちを更に引き立たせている。

「ほんとに楽しかった。三橋は、楽しくなかったかよ。嘉兄は、楽しくなかったんだよな」

 七瀬は目を伏せた。詩的だった。七瀬の確実な魅力、淫靡なその影に、優輝は完全に目を奪われていた。

「俺、死んだほうがよかったんだ」

 弾けたように、優輝の自我が覚醒した。優輝は、一度七瀬の青白い右手を見据え、七瀬自身の目を見る。

「落ち着いたほうがいい」

「俺、いないほうがいいんだ。嘉兄のためにも、俺、いないほうが」

「七瀬」

「あのときに殺されるべきだったんだ。あの人は、なんにも間違ってなかった」

「それは違うと思う。現に、キミのお兄さんはキミを助けたんでしょ」

「でも俺は、死ぬべきだった」

 だったら、キミは最初から誰にも助けられない。そんな言葉が、思考回路を無視して、優輝の口から飛び出そうになったときだった。青白い七瀬の顔が、途端に優輝の目に留まる。七瀬の左目から、続いて右目から、一滴ずつ、それは崩れ落ちる。そうなる前兆はいくつもあったのに、優輝には、酷く突飛で、衝撃的だった。声が喉に引っかかっている。息が苦しいから、いい加減で襟を離して欲しい。場違いな願いを脳内に並べたその瞬間、優輝は理解した。それを理解したのは、強制的な現象だった。安易なその答えが、優輝の見る優輝の世界に、安易に君臨した。。

「そうだよ。結局一番悪いのは、お前だったんだ」

 声がした。優輝のものでも七瀬のものでもない、もうひとつの声だった。顔色が悪いのは七瀬もそうだが、今現在、優輝の目の前、七瀬の真後ろに立っている彼のほうが、優輝の目に色濃く焼きついた。身に覚えのある、制服姿だった。日鐘第二高校。優輝は、その固有名詞をすぐに思い出した。彼の顔色からは、七瀬よりも遥かに時間を重ねて憔悴した様子が窺える。目の下の黒っぽいクマも、それに真実味を帯びさせている。

 彼は突然、右手を振りあげた。その手に、刃の短いナイフが握られているのを、優輝は見逃さなかった。突発的な警戒信号が、優輝の爪先から指先までを内側から叩く。脳が揺れそうな、強い振動が優輝の中で弾けていた。彼が右手を振り下ろした。優輝は咄嗟に、自分の襟元の七瀬の腕を両手で掴んだ。そのまま優輝は、腕の勢いで、七瀬ごと全身を後ろに引いた。本当に咄嗟の行為で、七瀬の腕が酷く冷たいことも気にならなかった。身体を引いた反動で、優輝はベンチから地面に滑り落ちた。ついて七瀬の身体も、地面に叩きつけられた。彼のナイフの刃先が、ベンチに当たった先から砕け散る。破片が飛んで、彼の片頬を擦った。細く短い切り傷から、じわりと血が滲む。彼はそれを、指で拭った。なんのことでもないように、彼は平然と優輝を見据え、七瀬を見据えた。彼のふたつの眼球を、優輝はじっと捉え返す。虚ろな彼の双眸からは、正常な人間らしいくっきりとした色が見受けられなかった。

 公園内で、甲高い女の声がひとつ響いた。それを皮切りにして、集団で凝り固まるそここから、様々な悲鳴が上がる。そうだ、悲鳴だ。優輝の脳は、いやに冷静だった。目線を少し動かすと、砂場の少女を、未完成の山も赤いスコップもそのままにして、母親と思しき女性が抱いて走り去っていく様子が見えた。公園の全体図としては確実に混乱しているのに、そんなふたりの光景を捉えられただけで、優輝は、胸を撫で下ろしそうになった。

「こんなんじゃダメか。やっぱ刺殺よりも絞殺のほうがいいかな」

 ナイフを持っていた右手を見つめ、彼は、落ち着き払った声で言う。彼の左腕に、優輝の目は留まる。肘下から手首まで、彼の左腕には、幾重にも包帯が巻かれていた。包帯の上から自分を傷つけたのか、真っ赤な血が点々と白さの上に滲んでいる。この人が、七瀬を殺そうとした張本人だ。最初からあった優輝の直感に、問答無用の確信が上乗せされる。

 ナイフの柄を無造作に投げ捨て、彼は、視線をぐるりと一周させた。そこで彼は、投げやりに口角を吊り上げる。

「ちょうどいいよな。今度こそ、少年院にでもぶち込んでくれれば」

 彼の姿を捉えた七瀬の瞳孔が、大きく開く。それを楽しむように、彼は、再度微笑んだ。

「俺を知ってるだろ、七瀬弟。やっぱりお前が元凶だから、俺、殺さなくちゃいけないと思って」

「いきなり、なんなの」

 優輝が問うと、彼は、額に手を当てた。微かな秒数だった。そしてすぐに、優輝と七瀬を見据え直した。

「七瀬弟の友達? それなら、すぐに縁切ったほうがいい。俺、もう殺しちゃうから」

「どうして」

「なにもかも、そいつが原因なんだ。邪魔するなら、一緒に殺すよ」

 七瀬の声が、小さく優輝の耳に届く。大宝寺泰雅。彼の名前のようだった。特別走った様子がないことにも関わらず、大宝寺は時折、荒く呼吸を乱している。正気、ではないのか。下手に動くことも得策とは思えず、優輝は、その場で静止している。

 突然大宝寺は、両手で激しく髪を掻き毟った。隣で七瀬が息を呑んだことが、優輝にはわかった。

「邪魔なんだよ。お前が邪魔なんだよ。お前がいなけりゃ、七瀬は楽になるのに。お前がいなくて七瀬が苦しんでなかったら、俺もこんなに七瀬を気にかけることなんてなかったのに。そしたらあいつも出てこなかったのに。七瀬の友達に、変な感情抱くこともなかったはずなのに」

 大宝寺は、両の掌を、そっとこめかみから離した。目線を下げ、彼は左腕に巻かれた包帯に触れる。点々と赤が滲むその包帯を剥ぎ取るように、大宝寺はそれを引っ掻く。爪が触れる個々の箇所から、色を落とすように、真っ赤なそれが浮かんでくる。

「お前さえいなかったら。お前が、最初から七瀬の世界にも俺の世界にも存在してなかったら、こんなことには」

 必死の思いで抑え込んでいることは、優輝にもわかった。抑え切れない分が、溢れ出ているのだ。空白から無理矢理搾り出すような、そんな呻き声にも近い音を、大宝寺は吐き出す。声としては静かなのに、取り巻くオーラは壮絶だった。精神が圧倒される。大袈裟ではなく、優輝は単純にそう思う。

「俺は、普通の生活ができたはずなのに」

 後頭部を、思い切り殴り飛ばされたような衝撃が優輝を揺さぶった。大宝寺の掠れた声は、嗚咽とも受け取れた。この人は苦しんでいる。助けを求めている。そうとわかるのに、今ここで一体どうすればいいのか、優輝にはひとつとして思い当たらなかった。公園の内側から、どんどん人が去っていく。外側には、どんどん人が集まっていく。野次馬。優輝は、内心で毒づく。平和ぼけしたバカどもが、なにかのドラマの収録とでも勘違いしているとしか思えなかった。

 人垣をかき分けて、ひとりの男性が近付いてくる。「キミ、少し落ち着きなさい」。警察官のようだったが、パトカーが到着した様子もなく、サイレンの音も優輝は聞いていなかった。巡回中の警官と思われた。

 一瞬、空気が変わった。あ、と、優輝の息が止まる。咄嗟に優輝は身体を捻った。最初の姿勢のままで、七瀬は、呆然と大宝寺を見続けている。ダメだ。七瀬をどけなくちゃ。あんな警察は頼りにならない。優輝が七瀬に手を伸ばした瞬間、優輝の身体は、まったくの反対方向に吹っ飛んだ。視界の隅に、唐突に七瀬の首に指を持っていく大宝寺が見えた。片腕を地面に擦って、優輝は、素早く身体を起こす。目の前の光景が、信じられなかった。人の首が絞められている。七瀬の首が。七瀬が、首を絞めるその手を掴んでいる。抵抗はしている。無意味だ。手を引っかかれて血が流れても、大宝寺は、表情ひとつ変えていなかった。なにがどうなっている。あの人は、いつの間に僕を突き飛ばして、七瀬に迫った。理解し難いことばかりが、容赦なく優輝の精神を追い込んでくる。

 あの警察は。優輝は、反射的に、ついさっきの警察を視線で探した。突飛すぎる事態に頭がついていかないのか、唖然と突っ立っているだけだった。やっぱり、警察は頼りにならない。周りの野次馬は、もっと頼りにならない。なんとか自分で、あの人を止めるしかない。とにかく、七瀬と大宝寺を引き剥がさなくては。後方から聞き慣れた声が聞こえたのは、優輝が一歩踏み込んだ、そのときだった。

「詩仁!」

 そう叫ぶその声に、優輝は、はっとして振り返る。人混みを無理矢理割って駆け込んでくるその姿に、覚えがないはずがなかった。なんだかよくわからないけど、ラッキーか。優輝は小さく舌を出し、場違いながらも、微かに頬を緩ませた。





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