第十九話 山小屋
馬車の中は薄暗かった。
窓には分厚いカーテンが掛けられていて、外の景色はほとんど見えない。
わずかに差し込む光だけが、車内をぼんやり照らしていた。
セシリアは向かい側へ座るシャルロットを見つめる。
彼女はずっと黙ったままだった。
膝の上で細い指を握り締めて俯いている。
馬車が揺れるたび、その金髪がかすかに揺れた。
「……シャルロット様」
セシリアが遠慮がちに声を掛ける。
反応は遅かった。
「何?」
掠れた声。
「どこへ向かっているんですか?」
「……少し静かな場所よ」
曖昧な返事だった。
セシリアは困ったように眉を下げる。
「ルカス様についてのお話って……」
「あとで話すわ」
またそれだけ。
会話は続かない。
セシリアは膝の上で手を握る。
なんだか落ち着かなかった。
馬車へ乗った時からずっと、妙な違和感が胸の奥にある。
シャルロットの様子がおかしい。
痩せていた。
やつれていた。
それに、どこか怯えているようにも見える。
まるで何かに追い詰められているみたいに。
「……」
セシリアがもう一度シャルロットを見ると、暗い車内の中の彼女の横顔は驚くほど青白かった。
唇も色がない。
あまりにも弱々しくて、以前の気高いシャルロットとは別人みたいだった。
どうして。
何があったの。
聞きたいのに、聞いてはいけない気がした。
馬車は長い間走り続けた。
ガタガタと揺れる音だけが響く。
どれくらい経ったのかわからない。
最初は明るかった外の光も、少しずつ赤く染まり始めていた。
沈黙が苦しい。
セシリアは何度か口を開きかける。
けれどシャルロットの顔を見るたび、言葉が引っ込んだ。
――怖い。
そんな感情が、少しずつ胸に広がっていく。
やがて。
馬車がゆっくりと停止する。
「……着いたわ」
シャルロットが小さく言う。
セシリアは緊張しながら馬車を降りた。
ひんやりした空気。
辺りには木々が広がっている。
空は赤く染まり、もうすぐ日が沈みそうだった。
目の前には古びた山小屋がある。
人の気配はほとんどない。
静かすぎる。
「ここ……どこですか?」
セシリアは不安げに尋ねる。
シャルロットは少し間を置いて答えた。
「シッティン家の領地にある山小屋よ」
ぶっきらぼうな声。
セシリアは思わずシャルロットを見る。
その瞬間、ぞくりとする。
シャルロットの顔色が、馬車の中よりさらに悪くなっていた。
真っ青だった。
呼吸も浅い。
まるで今にも倒れそうだ。
なのに、その瞳だけは、何かに追い詰められたように揺れている。
「シャルロット様……?」
セシリアの声が震える。
胸騒ぎがする。
帰りたい。
今すぐルカスのところへ戻りたい。
でも。
シャルロットはふらつきながら山小屋の扉へ手を掛けた。
「入りなさい」
低い声。
セシリアの背筋に冷たいものが走る。
夕暮れの山は静かだった。
静かすぎて、その沈黙が、余計に恐ろしかった。




