業務邁進
——— 夜が明ける
本日も朝が来た。 今日も無事に夜を生きて超えられた。 どんなにつらいことがあっても朝日を見れば、命を繋げられたことを意味している。
バレッツバルガス時代からヒルベルト商会まで荒事が多く、危険な目にも幾度となくあって来た。 故にこうして朝日を拝めるのは、ダイゴにとっては決して普通のことではない。
そして今朝の朝日は、今までの朝日とは一味違う。
「誰かに叱ってもらわないと、前に進めないなんて俺もまだガキってことか。 しかし、ガキであっても筋は通さねーとな。 一生懸命生きてそして死ぬのが漢だよな……」
配送が始まる。 フォーチュナの倉庫から、幹線ルート57を抜けて、1日を掛けてパボニスに到着する。
パボニスで一泊になるが、先々の市街戦を考えれば、流石に夜の街に繰り出すテンションには、ならなかった。
*
翌日のパボニスの依頼者へ向けての配送は、日常業務のように障害なく進む。
手順通りにお届け先の倉庫に納品が終わる。
カーゴ車両は、ここで荷物が減ったこともあり一台にして4名で車両に乗り込む。 ただし一人は保険としてカーゴのコンテナ側に乗り込むことになる。
今回の保険係は、鄭に決定する。 カーゴのコンテナ内で武装して待機する。
全員がバイザーメットを装着して、問題のベルナールに向かう。
≪野郎ども。 メインイベントだ。ここから先は気を抜くなよ≫
≪了解≫
≪あいよー≫
≪了解≫
車両が動き出す。 パボニスから1日かけてマリネリスの断崖を目指す。 道中多くの難民キャンプが見える。
ただの天幕が無数に見え、傍から見ても衛生面も劣悪に感じる。 唯一の救いは、この辺りは比較的温暖であることぐらいだろうか?
道行くトラックの前に出て物乞いする姿も数多く見受けられる。
≪……これか≫
≪ダイゴ。 また難民達が立ちはだかっている≫
≪小銭をバラ捲いて追っ払え。 そうすれば道を開ける≫
車両の窓を開け、小銭に札を混ぜばらまくと一斉に難民が車両の前からばらまかれた金の方に群がる。
≪尊厳が……≫
アリエフが、その状況を眉間に寄せながら見ている。
≪悪いが感傷に浸っている暇はないぞ。 今は急いでいる。そして彼らを全員救うことなんかできやしない。 宇宙最強のAIを持ってしても我々は無力なのは知っているだろう≫
≪……≫
≪先に進もうアリエフ。 気持ちも分かるが、俺たちは進むしかない≫
≪……車両を出します≫
荒廃し、治安が悪い地域を抜けていく。 道中、銃撃も受けるも、強装甲用カーゴのため、自動小銃程度の弾は容易に弾く。
速度を出しながら危険な道を進んでいく。時には窓を開けて威嚇射撃を行っていく。
≪ここまで戦火が、きているのかよ! ≫
鄭の通信が入る。コンテナだけあって、被弾の音が響いているようだ。
≪ロケット砲が無いだけましだろう! ≫
バルティスからの応答である。
運転席には、怒号が飛び交いながら車両はまずの目的地に進んでいく。
*
多少の小競り合いがありつつ、それらを越えてテンペ大陸とティファー大陸を隔てる大渓谷、マリネリスの断崖に到着する。
マリネリスの断崖。 テラでいえば、大地地溝帯などが、近い地形になるだろう。
もし、難民がここをこえるのであれば、命がけの逃避行になる。 平均の幅は、200kmほどあり高低差も登山の領域である。
またテンペ大陸とティファー大陸の境ということもあり、治安管理がないに等しく、山賊などの無法者が多いため、文字通りの無法状態になっている。
しかし、そんな危険な道を通らずとも全幅数kmほどの場所もあり、現在はそこに橋が掛けられている。 それなりの交通料金と身分証を示せば、通過可能な安全地帯も存在する。
多くの物流業者や人々は、ここを使って安全に両大陸を行き来きしている。
といっても、今は内戦中ということもあり、検問が強化され難民はここを通過できない状況である。
あの天幕の難民は、検問が強化される前に通過したか、この危険極まりない断崖を突破した人々であろう。
そんな検問にヒルベルト商会一行が、通過の手続きをしている。
検問官は、威圧的にこちらに詰問してくる。
“お前ら! この先に何の用だ”
バイザーメットを外し、ダイゴは書類を示す。
「そう興奮するな。 行先はここだ」
“ベルナール。 それにこれは、|ノクティス・ラビントス《タニア連合王国》のサインか……”
「ああ」
“虐殺の手伝いか? ”
一人の検問官から徴発的な言葉が投げかけられる。
しかし、そこはダイゴ。 心が揺れることはない。
「そんなところだ。 戦争は金になるからな」
“チッ外道が……”
「でっ通してくれるのかい? 戦が終われば難民も戻れる。 早期決着は、お前さん達にも願ったりかなったりだろう?」
“通してやれ”
”了解です”
“通行料は、1万マリベルだ”
「法外だろ! 」
“この状況だ、 値段でふるいにかける。 金がない奴が、出て行っても入ってきてもらっても困るからな”
金を払うと、ゲートのバーが上がる。 同時に検問官が、開けた窓から話しかけてくる。
”多くの惑星間貿易商が、この橋をわたってベルナールに向かっていったが、帰って来たのは数%だ。それも人数を減らして。 せいぜいミイラ取りに成らぬように気を付けることだな”
「ご忠告感謝するよ」
カーゴが動き出し自然の国境線である、マリネリスの断崖を進む。
地溝帯のエリアで緑豊かな森林であるが、崖エリアは岩がむき出しである。
数十億年を経て積み重ねられた幾層の地層の断崖の岩肌は、赤褐色と断崖の凹凸によりできる濃紺を帯びた深い影、日の光で黄土色の地層が、黄金色に反射し鮮やかなコントラストが視界を埋め尽くす。
「凄い景色だな」
バルティスが呟く。
「ほんとですね。 観光で来てみたいものです」
アリエフからの返答がある。
ラジオからは、戦況状況ばかりである。
≪まったく俺だけカーゴ内ってどうゆうことだよ! マリネリスの風景すら楽しめないのかよ≫
鄭が愚痴る。
≪すまんな。 しかし保険は必要だろ? カメラ映像だけで我慢してくれ≫
車両は進む。マリネリスの雄大な景色を見ているとこの先の内戦など小さなことにすら思えてい来る。場所はこれだけあり、土地もいくらでもある。
どうして、その中で争うのか。 全て自分の物できるとの思い込みであれば、この雄大な自然を自分のものできると考えるのであれば、それは傲慢以外の何物でもない。
「世知辛いな」
「同感ですよ」
アリエフも同じ感情をもっているのだろうか。 目の前に広がるのは、マールス人類の歴史を遥かに凌駕する時の記憶。
その時の記録に新たな時を刻みつけるため一台の車両が、戦場に向かって走り抜ける。




