テンペ大陸 配送業務
マールスのスペースステーションに到着する。 本来であれば軌道エレベータでエリスからテンペ大陸に向かうのが定石であるが、発注者が、速達便を要望しているため今回は、シャトル便で直接テンペ大陸のアルゴスに向かうことになる。
シャトル便での惑星降下は、早く目的地につけるものの、シャトルを宇宙に戻す分の費用が加算されるため、軌道エレベータ費用よりも割高になる。
数時間でアルゴスの地上宇宙港に到着する。ここにはマスドライバーがあり、シャトルで降りても、多少は安価な費用に抑えられるのが特徴になる。
地上の重力を感じながらダイゴ達がコンバットスーツ装備で地上に降りる。 入国ゲートでは、驚きを持たれたが、目的地と内容、それに惑星間貿易商であるとことを伝えるとすんなりと入国が出来た。
全員コンバットスーツ装備に道中合羽のスタイルである。バイザーメットこそ取っているが、その立姿は一般人が見てもタダモノじゃない感が出ている。
事前に積み荷が終わったカーゴに乗り込む。 車両は2台。 通常配達分から始まる。
1台には、鄭とアリエフ、もう一台には、バルティスとダイゴが乗車し、ヒルベルト商会のマールスでの運搬が始まる。
--- 鄭とアリエフ 車両
マンダリン色の建物が目に栄える。 太陽の色を取り入れて国家のシンボルにした街づくりは観光として、そして筆頭国家としての経済、権力、として軌道エレベータが出来て勢いが落ちたと言われた現在においてもその地域を確保している。
「相変わらず、賑やかな都市国家ですね」
カーゴのハンドルを握るアリエフから感想が、洩れる。
昼間に人が歩き、笑顔が見られる。 車両や愛玩動物も存在している。 硝煙や血の匂いがしない空間。
「アルゴスは、往々にして安定が続いているからな。 人々に活気があるのは、平和な証拠さ」
「確かにそうですね。それにここには、平和が流れている。 いい街です」
「同感だ。 生きている街だ」
フロントガラス越しに飛び込んでくるのは、整った街路樹と清掃が行き届いた歩道が見える。間違いなく落ち着いた地域であることは、分かる。
昼間のアルゴスの幹線道路は、一般車両とともに経済基盤である物流トラックが脈動し、動き続けている。ヒルベルト商会もその血流の一滴になる。
アリエフのハンドルを握る手には、エンジンの振動すら響いてこない。コンバットスーツが緩衝材として機能している証拠だろう。
信号が赤になったようで、前のダイゴ達のカーゴが停止する。 それに続くようにアリエフもブレーキを踏む。
「向こうのカーゴにカナベラルロボテクス社の製品が、あるんか?」
「ええ」
「そうか……」
バイザーメットを外しているため、鄭の顔に眉間に皺が寄っていることが分かる。
「気持ちは分かりますよ」
アリエフの穏やかな表情も硬くなる。
歩道には、せわしなく歩を進めるビジネスマンや、ショッピングを楽しんでいるのか色鮮やかな紙袋を提げた家族連れが、川の流れのように途切れることなく続いている。
隣の車線には、地域配送用なのか小型トラックが、鄭の視界に入る。
「あんなトラックのような荷物を運びたいよな」
「ええ。地域の配送用でしょうね。 しかし、そのような業務の利益には限りがある。 宇宙船を、セレンを維持するにはそれなりに費用が掛かりますからね」
信号が青になったのか車両が進みだす。
「業が深い仕事だな」
「今更ですよ。それにしてもティファー大陸からの難民は、こちらにこないんですか? 」
「ここまでは来ないさ。 こちらに来るには、海上ルートが最も安全だが検閲もありそもそも距離が遠すぎる。 難民の多くは、アルシア山の麓か、マリネリスの断崖を越えたテンペ大陸側のクサンテ辺りにいるらしい」
「マリネリスの断崖を越えるのですか……タニア政府は、ここまで住民を蹂躙して何がしたいんですか? 」
「よくある粛清だろ? 狂った為政者が被害妄想に囚われ、反抗分子を徹底的に根絶やしにする。 事実、自由を与えた結果、地方の貴族が力を持ち過ぎたとの考察もある。 クーデターの恐れがあったとかなかったかな」
「そうであったとしても……」
アリエフが一旦考えて、話題を切り替える。
「王都のノクティス・ラビントスの兵力は、地方貴族と対峙できるほど巨大ではなかったと思いますが、ここまでの快進撃の秘密は? 」
「次期国王候補のルゥルゥ・ノークティア。二つ名、炎王子率いる特殊部隊の戦力が圧倒的のようだ」
「数では無くて? 」
「最新のコンバットスーツとテクノロジーを駆使した近代部隊による殲滅戦だ。 市街戦に持ち込まれたら間違いなく敗北決定とのことだ」
「……ガラスの雪ですか……」
「ああ、破壊された建物のガラスが道に積もり、その上を歩くと軋む音がきこえるところらから付けられた名前だ。オシャレだが外道の所業だよ」
「しかし、屋外から……! 」
「そうだ。 屋外からの攻撃では、通常ガラスは建物内部に散らばる。 屋外にガラスを飛び散らせるのは屋内からの攻撃だ。 そして屋内には、おろらく非戦闘員もいるだろう……」
「……」
「それだけでもこの特殊部隊の展開速度、鏖殺具合、外道っぷりが分かるってもんだ」
「内戦場所とは聞いていますが、そこまではとは」
「といっても、今回は虐殺側がお客様だ。 安全はそれなりに保証されているだろう。 それにこちらは、最新の第七世代のコンバットスーツだ」
「行く前から気が滅入りそうですね。とりあえず……音楽でも聞きましょうか」
アリエフが、徐にラジオを付ける。
≪アルゴスネットワーク。 ここまでに入った情報をお届けします。 まずは、アルゴスの灯台島の跡地に建設予定の宿泊施設に関して、海洋ホテルの代表が、反対派の住民に対して説明会を行っています≫
「なんだこれ? 」
「あの大灯台跡地の事だと思いますよ。 ホテルにするらしいですけど、そこまでに続く橋を公金でかけるらしくて、税金の無駄使いとかで住民が猛反発しているようです」
「そりゃあそうだろ? 」
≪説明会は非公開ですが、住民に対して一定の理解が得られる提案があったようです。 これによりアルゴス議会で検討中の統合リゾート法案可決に弾みが付いた形になります≫
「法案とホテルが関係するのか? 」
「まぁ色々利権があるんでしょ?」
「……」
≪続いては、大陸南部で問題になっております、移民政策に関してです。 ガラスの雪から難民に対して、マリネリス断崖近隣の都市国家が、追加の支援策をアルゴス政府に求めてきております。
難民増加に伴う周辺治安の悪化と伴に住民にもタニア連合王国へ好感度も下がってきています。
南部地域はタニア連合王国との貿易により経済を支えられている面もあり、南部地域の政府は難しいかじ取りを仕入れらております≫
「避難民に金を出すと税金の無駄づかい。出さないと治安悪化とタニア連合王国への嫌悪感増加による貿易障害ねーほんとかよ」
「ボイコットじみたことになるんでしょ」
「なるほど」
≪タニア連合王国内の情報になります。 ラビントス軍は依然としてベルナール地域周辺への攻撃を実施しておりますが、それを迎え撃つ、辺境伯スキュリアル家の攻防が続いていおります。
ベルナール近郊は、アルゴス文官府より渡航禁止令が出ています。 タニア連合王国への渡航する際は、政府の渡航安全情報を確認し対応してください≫
「そうなりますね」
「俺たちは危険区域にいかないといけないところが、つらいところだな」
報道が終わると、ラジオから軽快な音楽が車内に流れだす。
「マールスらしい音楽だな。 まずは、フォーチュナからだ――血を見るのは……暫くさきだな」
*
車両は進む。まずは丸一日をかけてテンペ大陸の結節店であるフォーチュナに到着する。 大陸の交差ロとも呼ばれ、多くの車両と人でごった返している。
ヒルベルト商会が一向が宿泊地に突く頃にはすっかり辺りは暗くなっている。
「ここが本日の宿か」
バルティスが車両を降りながら言葉に出す。
「ああ。 いつものところだ」
ダイゴが応える。
鄭も宿泊所を見る
「モーテルか。 コンバットスーツ装備のままであると、こういう場所がいいよな。他の客に気をつくわくなくていいし 」
「アリエフ頼む」
ダイゴから指示が飛ぶ。
「了解です」
こういう時、4名の中で最も温厚そうなアリエフが事務手続きに当てられることが多い。 ダイゴやバルティスでは押し入り強盗のようであり、鄭では詐欺師に見られるようである。
手続きも終わり、それぞれの部屋に入るが、時間が長短に関わらず一度ダイゴの部屋で仕事のミーティングが恒例である。
そのため一同が、ダイゴの部屋に集結しミーティングが始まる。
「それで朝になったら早速納品先に俺達のカーゴの物資を届ける訳か? 」
「ああ。 納品は明日の朝だ。 多少早く案件を済ませて、出来るだけ早くフォーチュナを立ちたい」
「それでそのまま、ルート57でいつものパボニスか? 」
「そうだ。 明後日の朝の納品予定だ。 ここまでは、ラッキースター号内のブリーフィング通りに予定調和ってところだろう。 襲撃がなければなとの条件付きだがな」
「あると思うか? 」
バルティスが、ダイゴに質問をする。
「ラジオからだとガラスの雪の難民が、強盗になっている事案も発生している。 よって南部に向かうほど強盗の発生率は高いとみていいはずだ。 パボニス辺りは、問題ないが、クサンテではひと悶着があるかもしれない」
「その件もラジオから流れてきましたね。 地域によっては難民への風当たりも強く、受け入れ反対や難民キャンプ地への投石や破壊行為もあるといっていましたよ」
アリエフが、言葉を継いでいく。
「当然と言えば当然か……」
「内戦で身内をなくし、焼け出されれば失うものもない……難民の気持ちは分かる」
ダイゴの呟きにより、重い沈黙が部屋に満ちる。
しかし、会議は途中である。 暫く後、バルティスが再び会話の流れを再開させる。
「それでバポニスの配達を終えたら、メインイベントのベルナールの前線司令部への配達か」
「ああ、ラビントスの部隊も前線を広げ過ぎて兵站が間に合っていない。 故に民間組織かつ信頼の置ける惑星間貿易商を雇ったってところだ。 事実多くの惑星間貿易商が今回の内戦に投入されている」
「戦争は金になる。 歴史が、月日が、いくつ過ぎようとも変わらぬ、原則ですね。 反吐がでますよ」
いつもは温厚なアリエフが、顔をしかめている。彼の故郷、大月氏国も新しい資源が見つかり、その分配をめぐり内乱状況に陥った。
彼はその最前線で指揮し戦い自軍を勝利に導いたが、国民やその他に多くの被害が出ている。
本来であればその戦争の勝利の果実を受ける身でありながら、安定のためと称して地域住民の惨殺を実施、その罪悪に潰されそうになりこうしてここにいる。
「今回の配送は、マリネリスの断崖を越えるルートになる。 超えたら内戦のまっただなか。 両軍から襲われる」
「司令部の旗を付けてもか? 」
「偽旗作戦と思われるのが関の山だ。 我々の安全地帯は、マリネリスの断崖以降は司令部しかない」
「了解だ」
バルティスが、納得する。
「危険手当は弾んでくださいよ」
鄭の軽口が多少場を和らげる。
「であれば、ここから緊張感を持っての行動ですね。 本日は早めに就寝します」
アリエフのまじめな回答で、短いブリーフィングはお開きになる。
*
部屋にはダイゴが一人になる。
「内戦で身内をなくし、焼け出されれば失うものもない……か。ヒルベルト商会は、バルティスもいる――」
コンバットスーツの衛星回線をつなげる。
セレンから返信がある。
*** ☎ 通信開始 ***
≪何か御用でしょうか。ダイゴ≫
≪今回のミッションは理解しているな≫
≪はい。作戦内容もすべて提示しています。 かなり危険度の高い業務です≫
≪俺にもしものことがあったら、バルティスに頼ってくれ≫
≪もしものこと、とは? ≫
≪俺が、死亡。行方不明。その他判断を下せなく事態だ≫
≪……≫
≪それとあの息子にも多少財産を分け与えてくれ。 こんなダメ親父だが……やはり息子だし……≫
一旦、ダイゴの声が詰まる。改めて言葉に出すと、いかに自分が逃げているかを実感する。
≪……≫
≪くっそ! 柄にもないことを……≫
ダイゴが天井を仰ぐ。自分の不甲斐なさに行き場のない怒りが湧いてくる。
≪それは、本人に言ってください。私の業務ではありません≫
≪お前! AIだろ! ≫
冷徹なセレンの返答に激高するダイゴ。
≪あんたこそ漢だろ! うじうじしてないで、さっさと仕事片付けて戻ってきなさい! ≫
しかし、いきなりの不明な反応でダイゴの思考が固まる。
ありえない。すでに自我は完全にないはずである。
しばらく、沈黙が続く。
≪セレン? ≫
≪どうかしましたか? ≫
≪いや……さっきのは≫
≪さっきの? ダイゴにもしものことがあったら、ヒルベルト商会の指揮権は、バルティスに移譲。 息子のタツマに財産を分けるとの内容は、了解しました≫
≪……それが憶えている内容なのか? ≫
≪ログは、そうなっています≫
≪そうか……その内容は撤回だ。 自分の口で伝える≫
≪了解しました。 危険な任務ですが御武運を≫
*** ☎ 通信終了 ***
「……何なんだ。一体」
ダイゴの困惑もありつつ、今までの憂鬱とした状況から何故か救われた感情が胸を打つ。そんな些細でありながらも奇跡のような異常事態を経ながら夜は更けていく。




