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  作者: 木々


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違和

[登場人物]

富野瑛亮(18)高校四年生

小和瀬薫(19)高校四年生

「え?ええ!?じゃあ、瑛亮も……?」

薫は驚き、腰掛けた柵から勢いよく立ち上がる。自分は薫の顔から、思わず目を逸らした。

「あ、いや……。自分でも、それはよく分かんなくて。あいつのこと好きだって気づくまで、普通に異性しか興味無かったから。でも今は、あいつのことしか考えれないっていうか。それ以外に興味無いから、そうなのかな……とは、なんとなく思ってたけど。」

「今も好きなんだよね?」

「うん。好きだよ。」

薫は何も言わず、柵の上に座り直して、大きく溜め息をつく。何かまずいことを言ってしまったのかと思って、薫の顔を見た。薫は視線だけをこちらに向ける。

「……それってさ、死ぬほど一途じゃん。」

「そうなのかな、よく分かんないけど。」

「いいなぁ。そんなに好きなひとがいて。僕もそんなに誰かに想われてみたいよ。ていうか、中学でその出会いとかやばくない?羨ましすぎる。僕も勇気出して告白したらよかったのかな。いやー……でも無理だよねー、普通。あーあ!羨ましい!」

三家先輩との別れを寂しがっていたのが、遠い昔に感じるくらい、薫は明るさを取り戻していた。ずっと秘めていたことも言えて、すっきりした気持ちもあるのだろう。そんな薫を見て、ふつふつと小さな怒りが沸いている自分が、とても嫌だった。

「でも。何も言わずに、突然そいつはいなくなった。学校の屋上から飛び降りたから。それで、俺は学校行けなくなった。」

「え……?」

薫は口を閉ざす。下を向いている自分には、足元にある地面の砂しか見えなかった。

「あ……ごめん。そんなこととは知らず、好き勝手に言い過ぎちゃった。それは本当に、つらい経験だったよね。いや……僕なんかが、分かってあげれることじゃないか、ごめん。」

薫に悪いことをしたという罪悪感はあった。でも、葛西のことを話してしまうと、自分を制御できなくなる。悲しいとか寂しいとか、今この瞬間までを含めた、巨大な後悔の波が押し寄せて、周りのことを何も考えられなくなる。感情の波に押し流された自分は、そこで黙っていることしかできなかった。

「あのさ……僕の話、聞き流してくれていいんだけどさ。僕、中一のとき、学ランの詰襟が首に当たるのがすごく嫌だったのね。上から下まで真っ黒なのも嫌だし、金色のゴツゴツしたボタンも、大嫌いだったの。」

薫の声は、耳を通って脳へ到達する。話の内容は気になりつつも、相槌さえうまく返せなかった。

「小学生ときは何にも思わなかった。クラスの女の子がスカートだろうが、ズボンだろうが、別に何とも。僕が背負ってたランドセルは、おじいちゃんとおばあちゃんが選んで買ってくれたやつで、自分で色も選ばなかったから、そんなに愛着無かったし。でも中学に入って、毎日この制服を着ろって言われるとね、なんか、急に思うの。なんで僕は、この真っ黒い学ランを、着たくもない制服を、毎日毎日着なきゃいけないんだろうって。」

自分は顔を少し上げて、髪の隙間から薫の表情をちらりと見る。眉間にしわを寄せ、悲しみと怒りが混ざったような顔をする薫。今の自分と、同じだった。

「自分は男だって分かってるのに、認めたくなくて。性別の欄も男に丸付けるけど、それはどっちかにしか属せないから。でも制服って、自分の性別を周りに決めつけられて、当てはめられて、強制されてるみたいに感じた。道歩いてても学校にいても、学ランを着てたら周りは僕を、男だって判断できる。自分で決めるのはいいけど、誰かに決められるのはすごく嫌だった。かと言って、女の子になりたいかって言われたら、別にそうじゃない。……お姉ちゃんのセーラー服、隠れて勝手に着たこともあったけど、それ毎日着ろって言われても、別にしっくり来ないし。」

薫はこちらを見る。

「変でしょ?僕って、変なの。その変と、ずっと一緒に生きてる。」

薫の大きな瞳の中には、涙が溜まっていた。

「だからね。学校卒業したら家を出て、自分がしてみたい格好をする。一度思いっきり、女の子みたいになってみる。それで少しでも、僕の中の変が変じゃなくなったらいいなって思ってる。」

薫は涙が滴り落ちる前に、目を擦る。薫の言うことを、全部理解できたわけではないけれど、痛いほど思いは伝わった。自分のせいで、薫は話すつもりのなかったことまで話すはめになったかもしれない。申し訳ない気持ちと、薫のことをより深く知れて嬉しい気持ちが、入り混じる。

「薫。話してくれてありがとう。」

薫は目元を赤くして、首を横に振った。

「瑛亮が好きだった子は、どんな子だった?」

「……変わってるやつ。中三のとき、初めて同じクラスになって、五月の、修学旅行が終わったあとくらいに告白された。」

こういうことを話すのは、なんとなく気恥ずかしくて、薫の顔から目を逸らした。

「えっ。えっ、ちょっと待って。じゃあ、付き合ってたってこと?」

「いや、付き合っては、ない。そのころの俺は異性が好きだって思ってた。本当にバカで、なにも考えてなかった。たぶん、好きとかもよく分かってなかった。なのにそいつとは、変な……誰にも言えない関係性だった。」

膝の上で拳を握る。葛西との関係は、今まで誰にも話せたことがなかった。あれから三年以上経って、ようやく話せるようになったのは、少しずつ過去に折り合いがつけられてきたからだろうか。

「そっか。瑛亮は、いつからその子のこと好きになったの?」

「……死んでから気づいた。だから一度も、直接伝えたことはない。当時の俺は、あいつのことを私欲に使っただけなんじゃないかって。そんな俺が、あいつを死なせたんじゃないかって、今でも後悔してる。」

話しながら、声が震えた。葛西の死には、まだ折り合いがつけられない。このまま一生、この罪を抱えて生きていくほかにない。葛西の存在を過去にしないで、自分が死ぬまで、抱えて生きていく。それでしか、今生きている自分を肯定できなかった。

「ごめん、また余計なこと聞いちゃった……。」

「いや、大丈夫。薫に話せてよかった。薫の目標、俺も応援してるよ。」

「ほんと?ありがとう。蒼太くんがなりたい自分をイメージすれば頑張れるって、教えてくれたから。僕はその言葉で、今も頑張れてる。」

薫は恥ずかしそうに、髪を耳にかけた。その仕草はすでに様になっている。少なくとも自分は、そう思った。

「薫、似合うと思う。髪も今のが似合ってるし。」

「うるさい。僕より恋愛経験あるからって、僕のこと口説こうとしないで。」

「そういうつもりじゃなかったけど……。」

薫は堪えきれず笑う。その笑顔は、普段通りの薫の姿だった。

[次回更新]3月27日 金曜日 23時予定

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