告白
[登場人物]
富野瑛亮(18)高校三年生
三家蒼太(19)高校四年生
小和瀬薫(19)高校三年生
「このあと二人、時間ある?俺らカラオケ行くけど、薫と富野も来ない?」
「え!行きたい!瑛亮も行こ!もう皆で集まれるの、今日で最後かもしれないよ?」
「そうだね、行こっか。」
カラオケに行くのも、中二のときに行ったのが最後。大部屋に入ったのは初めてだった。先輩の誰かが、皆が知っていそうな曲を数曲入れて皆で歌い、歌の上手いひとに歌をリクエストして、皆で盛り上がる。その流れで、何度か「歌って」と端末を渡されたが、遠慮するふりをして全部薫へ回した。本当はただ単に、人前で歌う自信がなかったからだけど、薫は乗り気で受け取ってくれて助かった。
地元を離れてしまう三家先輩の周りには、絶えず誰かがそばにいて、一緒に歌を歌い、写真を撮っては、皆がそれぞれ送別の言葉をかける。先輩ばかりの場所で、自分はつい、そこへ近づくことも遠慮していた。
別れの時間が近づき、歌わないひとたちを中心に、それぞれがテーブルのお菓子や食べ物を片付け始め、その横で、先輩の一人が全員に声をかけて集金し、会計の準備をする。BGMのように流れていた曲がアウトロに差しかかって、フェードアウトしていく後ろで、誰かの鼻をすすって泣く声がした。部屋にいるほぼ全員が、ほとんど同じタイミングでそれを聞いて、瞬時に部屋の空気が変わる。その声の主は、薫だった。さっきまで、楽しそうに三家先輩と一緒に歌っていたのに、今は先輩に慰められながら、俯いて泣いている。それは、今まで一度も見たことがない薫の姿だった。
「大丈夫だよ、別にそんな遠くへ行くわけじゃないんだから。俺も長期休みとかはこっち帰ってくるし、いつでも会えるって。」
「……うん。」
自然と薫の周りにひとが集まって、先輩たちは、予定を合わせて会いに行こうと言いながら、泣いている薫を慰める。薫のもとへ一歩、駆け寄った彼らより先に踏み出していれば、と後悔した。この中で、きっと誰よりも薫と一緒に学校生活を過ごしてきたのに、大事な場面で友達としての役割を果たせない。自身の不甲斐なさを感じた。
レジで会計を済ませ、先輩たちは名残惜しそうに別れて帰っていく。自分は、薫に何も声をかけられないくせに、置いて帰ることもできなくて、最後まで店の隅で立ち尽くしていた。ひとがまばらになってくると、三家先輩のほうから、こちらへ来る。
「富野、今日はありがとうな。四年生も頑張ってな。」
「はい。あ……卒業したら、今のバイト先で正社員になれそうなんです。それをずっと、直接伝えたくて。」
「本当に!?すげーじゃん!おめでとう。」
三家先輩は自分のことのように喜んでくれた。自分は小さく首を横に振る。
「あの日、先輩が声を掛けてくれたから、俺はこんなふうになれたので。本当に、ありがとうございます。」
深々と頭を下げて、先輩へ最後の感謝をする。大人数の中では、遠慮してなかなか言い出せなかったから、言えるタイミングができて、内心、安堵していた。
「俺はなんもしてないよ。富野が頑張った証だよ。……じゃあ、俺そろそろ行くわ。薫、もう大丈夫?」
「大丈夫。蒼太くん、ごめんね。……瑛亮も、ごめん、待っててくれてありがとう。」
「うん。」
薫が三家先輩から離れ、先輩は笑顔でこちらに手を振る。
「じゃあ俺行くわ。薫も、目標に向かって頑張れよ。」
先輩が薫の頭を、髪がぐしゃぐしゃになるくらい撫でて、薫はそれを迷惑そうに退ける。薫は髪を直しながら手を振った。三家先輩が店から出て行くのを二人で見送って、薫がふうっと息を一つ吐く。
「僕たちも帰ろっか。待っててくれてありがとね。瑛亮。」
「ううん。」
最寄りの駅まで歩く途中で、薫が話したいことがあると言って公園へ寄った。すぐに暮れていきそうな夕日を見ながら、ブランコの外側を囲う柵に、二人で腰掛ける。三月の中旬でも、まだこの時間は寒くて、柵に触れた手に鉄の冷たさがしみた。
「なんか。もう気軽に、蒼太くんと会えないって思ったら、急に寂しくなっちゃって。迷惑かけてごめんね。」
「いや、俺は別に。薫を置いていくのは心配だったから。」
「そっか。瑛亮は、優しいね。」
「そんなことないけど。」
薫は俯いて、数秒の沈黙が続く。たった数秒のことなのに、これから何を言われるのかと考えているせいで、とても長い時間続いているように感じた。
「あのね。これは、瑛亮にだけ話すけどさ。僕ね、好きだったの……蒼太くんのこと。僕、ゲイだから。」
息をするのも忘れるくらい、薫の言葉は重たかった。その場の時間が止まったかと錯覚するくらい、薫の言葉は、自分にとって強い衝撃だった。
「……ごめん。今まで言えてなくて。こういうの、ひとに話すの初めてで。なんか、瑛亮なら、言ってもいいかなって思ったっていうか。言っておかなきゃって、ずっと思ってたんだ。」
「薫、話してくれてありがとう。薫は、すごいよ。」
何も答えないでいるのは、薫を不安にさせるからと、どうにか絞り出した言葉だった。
「すごい……のかな。本当のことだし、本当の僕だから。言うのは、勇気がいったけど、瑛亮だから大丈夫だった。あ!僕が蒼太くんのこと好きだったのって、出会ってほんの、二、三か月くらいだけだからね!あんなに明るくて、優しいひとが、僕の恋人だったらどんなに幸せだろうって思ってただけ。……僕もさ、ノンケなんか、当たり前に無いって分かってるから。すぐ諦めついたし、大丈夫。だから瑛亮も安心して?瑛亮に迷惑かけるようなことはしないから。それで、できればね。これからも友達でいてくれたら、嬉しいなって。」
「そんなことで友達辞めないよ。」
「ほんと?……よかった。」
薫が自分を信頼して、勇気を出して話してくれたのに、自分だけ逃げるなんてできなかった。安堵する薫の隣で、自分も覚悟を決める。言うと決めたあとも、自分の心臓の音が耳まで届くほど、緊張していた。
「俺は……ばれてたのかと思って、びっくりしたんだ。」
「ん?」
「前に、もう死んじゃって会えないけど、好きなひといるって言ったの、覚えてる?」
「あ。中学の同級生?」
「そう。あれ……男だから。」
[次回更新]3月24日 火曜日 23時予定




