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  作者: 木々


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35/47

手伝い

[登場人物]

富野瑛亮(16)高校一年生

三家蒼太(17)高校二年生

小和瀬薫(16)高校一年生

メッセージを送ってから五分も経たないうちに、薫から電話がかかってくる。慌てて出ると、すぐに彼の大きな声が自分の鼓膜を震わせる。

「瑛亮!大丈夫?全然返事ないから心配したんだけど!どうしたの!?」

「あ……いや、普通に、体調崩してただけで。」

「えっ大丈夫?風邪?」

「いや……。」

「もー、本当に心配したんだから!暑くなってから学校にも全然来ないしー。だからさ、僕もあんまり行かなくなっちゃったの!だってぼっち嫌だし?ねー、瑛亮いつから行く?いっそ十月くらいまで夏休みにしちゃおっか?」

早口で話す薫の声が、なぜかとても懐かしく感じて、自分でも分からないうちに目頭が熱くなる。一か月以上も会って話していないのに、薫の中での自分との距離はちっとも離れていなかったことを実感して、どうしようもなく嬉しかった。

「え、泣いてる……?」

「あ……ごめん。薫が、まだ友達だと思ってくれてたんだって、嬉しくて。」

そう口からこぼれてしまってから、気持ちの悪いことを言ったかもしれないと思って、まごついた。

「あ……いや、えっと、変なこと言ったかも、ごめん。」

「ねぇ待って。今バイトの休憩中なのにさ、僕までもらい泣きしそう。」

「あ……。」

電話口から聞こえた薫の声は、自分よりも泣いているみたいな声で、後半にはこちらが慰めるような状況になっていた。電話を切ると、メッセージが何件か来ていた。返信した全員から、安堵の内容のメッセージが入っていた。こんなにも、ひとから心配してもらうのは初めてだった。

一週間が経ったころ。三家先輩から、電話がかかってきた。

「あ、富野お疲れ!あのさ……急で申し訳ないんだけど、明日、軽いバイトできない?」

「えっ……。」

「いやバイトって言ってもさ、そんな難しい内容じゃなくて。俺のじいちゃんがやってる喫茶店で、お客さんの注文をじいちゃんに大声で言うか、ボードにでっかく書くってだけなんだけどさ。」

「な、なんですか……それ。」

「うちのじいちゃん、土日だけ喫茶店やってんだけど、耳遠くてさ。補聴器してても、角度によっては注文聴こえてなくて。その補助って感じ?いつも小五の妹と、中一の弟が交代でやってくれてんだけど、妹が風邪引いちゃって。弟も明日は部活の試合でさ。誰か空いてるかなーと思って、富野に声かけてみたんだけど。」

「ああ……なるほど。」

三家先輩の役に立ちたい気持ちがあるのに、すぐには「はい」と言えなかった。

「あ、もちろんバイト代も渡すよ!内容は、そんなに難しくないと思うんだけどさ。無理だったら、全然いいんだけど!」

「あ……いや。」

今まで、自らアルバイトをしようなんて、考えたことも無かった。そもそも、自分にできるものではないと思っていた。けれど、興味が無かったわけじゃない。自分も、先輩たちのように自立した人間になりたい、これがその一歩になるのでは、という思いがずっと頭の片隅にある。

それに、三家先輩には感謝してもしきれないほど、お世話になっている。できるかできないかなんて、この際もう考える必要もないのではないか。

「や、やってみます。」

「本当に!?うわー、助かるよ!まじでありがとう!詳細また送るわ!」

三家先輩は何度もお礼を言ってから、電話を切った。

正直、決めてしまってから本当に自分にできるのか、不安でいっぱいだった。自分が役に立てるかより、迷惑をかけないか、という不安のほうが強かった。

翌日早朝、指定された駅へ行くと、改札の外に三家先輩が立っていた。

「富野! お疲れ。朝早くから悪いなぁ。本当ありがとう。」

「い、いえ。」

首を横に振って、全く迷惑だとは思っていないことを強調する。

「体はもう大丈夫?」

「あ、はい。もう、ご心配なく、です。」

「そっか。病み上がりなのに、無理言ってごめんな。」

「いえ、ほんとに、全然。」

三家先輩はとても申し訳なさそうにしていた。

自分は無理を強いられたなんて、微塵も思っていなかった。アルバイトに興味はあっても、一歩の踏み出し方が分からないでいた自分には、ありがたいくらいの機会だ。それなのに上手く話せず、お礼の一つも言えなかった。

駅から十分程度歩き、住宅街の脇に入ると、老舗の喫茶店が見えた。入口横の窓には「準備中」と書かれていたが、店内には灯りがついていた。三家先輩が扉を開け、扉の上部に付いたベルから、カランカランと音が鳴る。先輩の後について、店の中へ入る。

「じいちゃーん!おはよう!」

一際大きな声で先輩がそう言うと、カウンターの向こうで作業をしていた老人が振り返る。

「蒼太か、おはよう。」

「今日ねえ!六花が風邪で来れないから、俺の後輩の、富野が手伝ってくれるからね!」

「ああ、ああ。そうかい。」

先輩が身振りで紹介をして、おじいさんは優しそうな微笑みでこちらを見る。

「あ、あの……よ、よろしくお願いします!」

声を大きく出さなければ、と意識しすぎて、声が上擦る。もし聞こえていなかったとしても、お辞儀をしたことで、挨拶をしたことは伝わっただろう。

「はいはい。よろしく。わざわざ、ありがとうね。」

顔を上げると、おじいさんは笑顔でこちらを見ていた。感じのよさそうな人で一安心だった。三家先輩が、カウンター席の向こうから手招きをしたので、すかさず近くまで寄る。

「この店、常連さんのためにやってるだけだからさ。たいていはじいちゃんがお客さんの顔見て、いつも同じものしか出さないから、そのときは何にもしなくていいよ。」

「は、はい。」

「んで、ずっと立ってると疲れちゃうから、そこの丸椅子に座ってていいし。もし、新規っぽいお客さん来て、声通んなかったらこのホワイトボードにでっかく書いてもらえれば、じいちゃんが見るから。」

「はい。」

三家先輩の説明を集中して聞きながら、頭の中で反芻する。難しいことを指示されているわけではないのに、緊張感から忘れてしまうのではないかと不安で、必死だった。

「お昼は営業しないから自由に休憩してね。二時には再開するから、外出るならそれまでに戻って来てくれれば。店閉めるのは四時だからー、たぶん五時には帰れると思う。大丈夫そう?」

「はい、大丈夫です。」

先輩は頷いて、店内の時計を見る。

「よし!俺もこれからバイトだから!今日はほんっとにありがとう。よろしく頼みます!」

「はい。が、頑張ります。」

三家先輩が足早に店を出て行くのを目で追ってから、どうしたらいいか分からず、店内をキョロキョロと見回していた。すると、おじいさんが布でカップを拭きながら、こちらを見る。

「富野くん。今日はありがとうね。」

「あっ、はい。よろしくお願いします。」

また頭を下げると、おじいさんは「ははは」と笑う。

「礼儀正しい子だ。今日の店番は安心だね。そしたら、おじいさんのことは、マスターと呼んでくれるかい?」

「は、はい!」

マスターは笑顔で頷いて、店の準備を進めた。

[次回更新]2月13日 金曜日 23時予定

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