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  作者: 木々


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34/47

優しさ

[登場人物]

富野瑛亮(15)高校一年生

小和瀬薫(16)高校一年生

三家蒼太(17)高校二年生

  玲那(17)高校二年生

昼休みに皆が同じ場所へ集まるのは、ほとんど決まりのようになっていた。

「じゃ、俺、この後バイトだから行くわ!」

その日は昼食をとった後、三家先輩がそう言って立ち上がる。ここにいる自分以外のひとは皆、ふだんは働いていて、学校へ来るのとレポートを提出するだけで精一杯の自分は、そんな彼らを尊敬していた。

「今日どっちのバイト?」

「今日はファミレスー。」

「ガンバー。」

特に、三家先輩はアルバイトを掛け持ちしていて、ファミレスの他に、コンビニでも働いているらしい。そんなに忙しく働くのは、何か欲しい物を買うためなのだろうか。それとも、兄妹が多いと言っていたから、家のためなのかもしれない。そんなふうに思っていると、玲那先輩が気になることを訊く。

「軍資金貯まってきた?一年のころ、ほぼ単位取らずにバイトしまくってたし、もうすでに大金持ちなんじゃないの。」

三家先輩は、堪えきれないというような笑みを浮かべる。

「まぁ、そこそこ?大学と、一人暮らしの費用考えたら、もう少し欲しいとこだなー。」

ハッとした。三家先輩は、今ではなく、先の未来を考えながら毎日を過ごしているのだ。今のことしか考えられていない自分とは、まるで違う世界にいることを思い知る。

「蒼太くんは偉いね。僕、全然貯金できないんだけど、どうしたら貯めれる?」

隣で薫がそう訊いた。きっと、薫も同じように思ったのだろう。でも、薫はアルバイトをしている上で、その次を考えようとしている。皆と同じ場所に居るつもりでも、自分だけは誰の足元にも及ばないのだ。

「そうだなぁ……なりたい自分をイメージするとか?俺はそれで頑張れてるよ!早く家出て、一人暮らししたいからさ。一番上の兄貴が、それですっげー楽しそうだったから、俺もそうなるのをイメージしてんだ。」

「そうなんだ!僕もそれ、頑張ってみる!」

「おー!薫ならできるよ!」

このとき、やっと気づいた。三家先輩が初めて声をかけてくれたとき、一人で食事をするのが苦手だ、と言っていたけど、きっと嘘だ。最初から昼食を忘れた自分に気づいていたのだ。それなのに、そのことは指摘せず、あんなふうに声をかけてくれた。彼の優しさや気遣いは、自分の想像の範疇を、優に超えていた。

「薫は、なんで三家先輩と仲良くなったの?」

体育の授業で、バドミントンのラリーが止まったとき、薫にそう訊いた。

「えっ、何急に。瑛亮から質問してくるとか珍しい。」

「いや、気になって。俺は、弁当忘れたときに三家先輩が声かけてくれて、コンビニでおにぎり買ってもらったのが、きっかけなんだけど。」

薫は大きな瞳を左上に動かし、考える。

「えっと……僕はね。初めてスクーリング来たとき、教科書が必須の授業だったのに忘れてさ。ほら、レポートでしか使わないと思ってたから。でさ僕、人見知りだから、先生にも言えなくて困ってたら、蒼太くんが隣に座って、教科書一緒に見る?って。」

「そうなんだ。」

やっぱり、三家先輩は周りをよく見ていて、ひとが困っていることにすぐ気がつくひとだ。きっと、一緒にいるひとは皆、彼に助けられたひとたちなのだろう。

「僕さ、高校馴染めなくて。せっかく、同じ中学の同級生が誰もいない学校選んで、心機一転、新しいキャラでやってくつもりだったのに、全然上手くいかなくて。結局、友達一人もできないまま、一年で辞めちゃった。」

「……そっか。」

「こんなだからさ。こっちでも、友達なんかできない、一人でやっていくんだって思ってたら、初日に蒼太くんが声かけてくれた。びっくりしたけど、すごく嬉しかった。あー、僕、今一人ぼっちじゃないんだって思って。」

薫も、こんなに根は明るくて、話しだすと止まらないくらいなのに、一人の寂しさを抱えていたのだ。きっと、その高校で上手く行っていたら、薫とは友達にはなれなかったし、そもそも出会えてもいなかったのだろう。三家先輩のおかげで、自分もこうして、一人じゃないことを知った。

「ねぇ、僕のぼっちエピソード聞いて、黙んないで?」

「あ、ごめん。薫と、友達になれてよかったと思って……。」

「えっ。べつに……そういうの、わざわざ言わなくていいし!」

「そっか、気を付ける。」

「そういう意味でもない!」

「えー……ごめん。」

薫は時々、どう返しても違うと言われるから、それだけが彼の難しいところだった。

高校生活が始まって、自分を取り巻く環境は大きく変化した。あっという間に、一か月、二か月が過ぎ、夏が来る。年々、気温が上昇しているのか、自分自身が暑さに耐性が無くなっているのか、日中の日射しを見ると外へ出るのも億劫になる。図書館へ行くのも、スクーリングへ行くのも控え、家でレポートを進めていた。

時折、カレンダーを見ては、自分の誕生日が近づいていることに、心がざわついた。一年前のあの日、葛西と最後に会ったときの記憶が、今でも鮮明に思い出せる。そして、その数日後に、葛西は。

誕生日の二日ほど前から、体の不調が目立ち始め、せっかく食事をとっても、毎回吐いてしまうような状態だった。夜は眠れず、日に何度も動悸がして、呼吸がおかしくなる。レポートも手に付かなかった。自分がそんなふうだから、家族三人で田舎へ帰る日程も無くなり、父だけが行くことになった。

母に内科へ連れて行かれ、検査をしても原因は見つからず、精神的なものだと言われた。また、話したくない理由を説明しなければならないのかと思うと、余計に強いストレスを感じた。九月に入ってからは、さらに悪化し食事も一切取れず、葛西が死んだ四日の朝は、病院で自分の腕に繋がれた点滴の管を見ていた。何度も思った、葛西でなく、自分が死ねばよかった、と。

その日以降、体の不調はぴたりと治まった。一週間以上、放って置いてしまったスマホは、バッテリー切れで電源が切れていた。充電をして、メッセージを確認すると、グループの通知が十件、薫からの連絡が七件、そして三家先輩や、玲那先輩、流樹先輩、他にも数人から、個別にメッセージが来ていた。それぞれ開くと、皆、一言目に「大丈夫?」と、心配する言葉があった。その場は、急いで返信しなければという思いから、簡潔で淡白な文章を全員に返した。でも、後から一人ひとりの思いを感じて、涙が溢れてきてしまった。

[次回更新]2月10日 火曜日 23時予定

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