繋がり
[登場人物]
富野瑛亮(15)高校一年生
三家蒼太(17)高校二年生
玲那(17)高校二年生
昼食を食べ終えたころ、玲那先輩がある提案をした。
「蒼太、この子もグループ入れたげなよ。」
「あー!そうだな。富野、スマホ持ってる?」
三家先輩はそう言って、ポケットからスマホを取り出し、画面を操作していた。自分も、言われてすぐにリュックからスマホを取り出す。
「これ、俺のIDね。友達追加してもらったら、グループ招待するから。」
先輩はスマホ画面にQRコードを表示させ、こちらに向けた。何のことか分からず戸惑っていると、先輩は一度、画面を閉じる。
「アプリ、入れてない?そしたらね、この青いアイコンで、検索して……これ!このアプリインストールしてみて。」
三家先輩は、何も分かっていない自分に、一から丁寧にやり方を教えてくれた。言われるがまま、スマホにアプリを入れ、アカウントの作成が完了すると、グループトークの一員に追加してくれた。
「よし!これでいつでも連絡取れるから。何かあったらグループでも、個人でも、好きなときにメッセ送っていいからな!」
「あ……ありがとうございます。」
そのころ、ちょうど昼休みは終わり、三家先輩の周りにいたひとは、それぞれ午後の授業へ散り散りになった。
目的が達成できたから、今日はこれで帰ろうとも思ったが、午後の最初の授業が体育だったことを思い出し、せっかく来たのだから、と体育館へ向かった。この日も、軽く体を動かす程度の内容だった。今度は、教師に言われる前に、バドミントンのラケットを取りに行くと、誰かが駆け寄って来るのが視界の端に見える。
「あ、やっぱりさっきの!」
「えっ。」
「同じ学年なんだよね?えっとー、富、富永くん……?だったっけ?」
「あ……と、富野です。」
声を掛けてきたのは、三家先輩のグループに居た、小柄な男子。皆で居るときは目立つことをせず、声もちゃんと聞いていなかったから、すぐには分からなかった。
「あ、ごめん!富野くんだった!名前覚えるの苦手で……ごめんね。僕、小和瀬薫。」
「あ、えっと、富野瑛亮です。」
「瑛亮くん!名前のが覚えやすいから、名前で呼んでもいい?」
「あ……はい。」
「じゃあ、僕のことも薫って呼んで。」
「は、はい。」
二人で話すと、想像以上に明るくエネルギッシュな様子に思わず戸惑い、ほぼ初対面から彼の名前を呼び捨てにするのは少し躊躇いがあった。
「同学年って言っても、僕、高校辞めてこっち入り直してるから、たぶん一個上だけど。」
「あ……そうなんですね。」
「あ!……他の子に歳上ってばれるから、敬語じゃなくていい!」
彼は自分だけに聞こえるような声で囁いた。
「ていうかさ、この前の日曜日も体育出てたよね?」
「あ、はい。」
「僕その時、一緒だったよ!壁沿いで気配消して座ってたらさ、先生に声掛けられて、ぼっちばっか集められてさぁ……。だから今日は、一緒にやらない?」
「あ……自分で、よければ。」
彼の大きな瞳が輝いて、笑顔になる。
「よかった!やっとぼっちから解放されるー!これからよろしくね。」
ただ一緒に体育を受けるだけで、こんなにも喜んでもらえるなら、いくらでも付き合う。その日を境に、薫とは体育の授業で毎回一緒にいるようになった。
体育以外でも、色んな授業に三家先輩のグループのひとがいて、顔を見ると皆、気さくに挨拶をしてくれた。授業は別々の席で受けていても、自分は一人ではないと感じられるのは安心感に繋がった。
「瑛亮はさ、バイト何してる?」
バドミントンで軽いラリーを続けているとき、薫がそう訊いた。
「いや、してないよ。」
「えーしてないんだ!欲しい物買ったり、どっか遊びに行くときとか、毎月お小遣いじゃ足りなくない?」
「欲しい物無いし、遊ぶことも無いから、別に困らないよ。」
薫は驚いた顔で動きを止める。打ち返されなかったシャトルが、体育館の床に落ちる。
「欲が……全然ないんだ。」
「あ、無い……ね。」
おかしなことを言ってしまったのだと思って、目が泳いだ自分に、薫は早口で話し始める。
「羨ましい!その感覚、少し分けて欲しいくらいだよ、僕なんか欲しい物ばっかり!行きたいところもいっぱい!バイトしてもさ、出ていくばっか!」
「意欲があるのは……いいことだと思うけど。」
薫は、一歩先にあるシャトルを全く拾おうとせずにいるので、代わりに自分が拾い上げる。
「瑛亮はさ、休みの日何してんの?」
「え、レポート。」
「そうじゃなくて!それ以外の時間だよ。」
「本読んだり。ごはん、食べたり、風呂入って……寝てる。」
薫は険しい顔で考え込んで、いつになってもラケットを構えなかった。
「……基本の生活以外は、ずっと本読んでるってこと?」
「そう……なのかも。でも、本読むの遅いから。」
「読書できるひとってさ、なんか賢そう。こうやって毎回一緒に体育受けてるけど、僕と瑛亮、根本から気が合うことはなさそうだよね。」
「そう……なのかも。」
困った顔でそう答えると、薫は口を尖らせる。
「そこで乗られるのは、ちょっと寂しいかな。」
「あ、ごめん……。」
薫は今までに出会ったことのないタイプで、毎回予想できないリアクションと、豊かな表情が、いつも見ていて飽きなかった。
家に帰っても、スマホがあることで、孤独感からは遠ざかっていた。グループトークで誰かが発言をするたび、スマホに通知が来て、それに誰かが返信して、短い会話が終わる。ここに参加して知ったのは、メッセージ上では流樹先輩が饒舌であること、三家先輩はよく誤字をすること、薫はグループで発言することはほとんどないのに、自分と二人のトークでは、ほぼ一方的にメッセージを送ってくること。特に、薫が気軽に送ってくれる他愛のない話題は、少し嬉しかったりした。
ここでの会話は、誰かと常に繋がっていられる安心感や、実際に会っていないのに、メッセージの内容やスタンプだけで、そのひとの人となりを知られるのが、すごく新鮮で、面白かった。
でも、ふとしたときに、それらの感情を体験するのは、葛西と一緒がよかった、と考えて、寂しくなる。時々、鍵で机の引き出しを開け、中身を眺める。自分だけが楽しく過ごすのは、葛西に申し訳なくて仕方なかった。
[次回更新]2月6日 金曜日 23時予定




