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  作者: 木々


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13/33

交換条件

[登場人物]

富野瑛亮(15)中学三年生

葛西愁吾(14)中学三年生

先に葛西が店内へ入って、出てきた店員に二人だと伝えた。ボックス席へ案内されて、ドリンクバーを二人分注文する。

「富野くん、何がいい?」

葛西はそう言いながら席を立つ。

「ん?」

「飲み物。喉乾いてるんでしょ。僕が一緒に取ってくるけど。」

そんなふうに訊かれたのは初めてで、少し戸惑った。しかし、それを悟られないように努める。

「え、あ。じゃあ、コーラ。」

「分かった。」

葛西がドリンクを取りに行った直後。ふと、彼と二人でここに居る状況が恥ずかしくなって、同じ中学の奴が近くにいないか、周りの座席を見回した。ひとまず、知った顔がいないことに、胸を撫で下ろす。

飲み物を両手に、葛西が戻って来て、テーブルにそれらを置く。丁寧にストローまで持ってきていた。

「お、サンキュー。」

「うん。」

向かい側に座った彼の、自分の前に置いた濃い茶色の飲み物が目に入った。

おそらく烏龍茶だろう、と思った。それを見て「ドリンクバーで烏龍茶を選ぶ奴がいるんだ」と思ったが、それを言うと、また得意の皮肉で返されそうだと読んで、黙ってストローの包装紙を破って、コーラを飲んだ。

葛西も烏龍茶を一口飲んで、自身のトートバッグの中から夏休みの宿題として出されたワークの束を取り出した。

「富野くんのことだから、僕は迷いなく、五教科全部持って来たけど。」

「分かってんじゃん。」

それを見て、こちらもテーブルの上に五教科分の課題を置いた。

「どこまでやったの?」

「まだなんもやってない。」

「まだ一つも手付けてないの?夏休み、もうすぐ終わるよ。」

「いやだって。塾の課題がめっちゃ多いもん。こっちまで手回らなかったんだって。」

「本末転倒だ。」

「いや、塾の課題やってさ、学校の宿題までやるなんて、一日にできる量じゃないじゃん。無理だって。」

「それは富野くんの勉強時間が、みんなよりも短いからじゃないの。」

葛西の言葉を無視して、彼の前に重ねられた一番上の冊子を手に取る。

「これ、理科からでいいや。見せて。」

葛西は大きくため息をついて「どうぞ」と言った。それから、呆れた顔で本を読み始めた。

その後はひたすら、宿題として指定されたページの解答欄に、答えを書き写す作業を始めた。すらすらと書き続ける手元を、葛西は手に持った本越しに見ていた。

「字、きたないね。」

「読めればいいだろ。」

「僕には読めないけど。」

「いいから、お前は本読んでろ。」

「分かった。」

葛西は「ふふっ」と笑って、言われた通り手元の本に視線を戻した。

理科のワークが半分くらい終わったところで、ひと息つく。ストローで吸い上げたコーラが、コップの底で音を立てた。ちらっと、本を読む葛西の顔を見る。

「それ、面白い?葛西ってさ、なんでそんな読書が好きなの?」

「好きじゃないよ。」

その返事に、思わず顔をしかめた。

「なんだそれ。じゃあなんでいっつも本読んでんの?」

「現実よりは、こっちのほうが退屈しないからかな。」

「へぇ。俺、漫画くらいしかちゃんと読んだことない。」

「ふーん。」

葛西は本を閉じ、テーブルの上に置いた。そして、真っ直ぐに目を見てくる。

「富野くんは、誕生日に一緒に過ごす人、僕でよかったの?」

「え?別に誰でもよくね。」

「宿題見せてって言うの、僕じゃなくて、吉沢さんにお願いすればよかったじゃない。」

彼は結構、真剣な顔でそう言っていた。

勝手に花音との進展を望む葛西に、少しだけイライラしながら、もうほとんど入っていないコップの中身をストローで吸った。

「えー、やだよ。」

「かっこつけてるの?」

「別に。」

コップを傾け、コーラの風味がするだけの、小さくなった氷を口の中へ放り込む。その風味は、口の中で少し転がしただけでどこかへ消えていく。

「僕にはかっこつけないんだね。」

「する必要ねーし。」

「僕にはダサい頼み事もできると。」

「んー、うん。お前には、どう思われても、別にいいやって感じ。」

「そう。」

葛西は軽く口元を緩めた表情で、こちらに向かって手を差し出した。

「飲み物。何がいい?エイちゃん。」

「え、あー……。うわ!それ二度と使うなって言っただろ。」

あまりにも自然に、葛西がその呼び名を使うから、つい受け入れてしまいそうになった。

葛西は目の前で口元を押さえて、笑いを堪えている。

「それで、どうするの?」

「何あったっけ。俺、自分で取りに行くからいいよ。」

「そう。」

席を立ち、溶けかけの氷が入ったコップを手に、ドリンクバーコーナーへ向かう。ドリンクのラインナップを一通り見てから、カルピスとオレンジジュースを、ちょうど半分くらいずつ混ぜて注いだ。

戻って席に座ると、葛西が興味深そうに、手に持ったジュースを見る。

「何にしたの?」

「カルピスとオレンジジュース。」

葛西が不思議そうな顔をする。

「どういう意味?」

「え、混ぜた。」

「は?」

葛西の顔が、怪訝な表情に変わっていく。

「え、混ぜない?普通に美味いよ。飲んでみる?」

葛西は毒でも飲むみたいに、ジュースを一口飲んだ後、目を見開いてこちらを見た。

「……え。美味しい。」

「だろ?お前にも同じの作ってきてやるよ。」

「うん。ありがとう。」

得意気に同じものを作って、葛西の前に置いた。

そしてまた、ワークの解答をひたすら書き写し、途中で昼食を挟んでから、また書き写す作業を繰り返した。

三教科を終えたところで、疲労感は限界に達し、テーブルの上に突っ伏せる。

「やっと英語終わった。あーもう無理。」

葛西は本をテーブルに置き、目の前にワークが二冊あることを確認する。

「まだ国語も数学も残ってるけど。」

「えーもう無理、絶対無理。数学は自力でなんとかなりそうだけど、国語は無理。葛西、国語だけ貸して。」

「それっていつ返してくれるの。」

「始業式に返す!」

「そう。じゃあ、仕方ないから貸してあげる。」

「まじ!助かる!」

国語のワークを手に取ろうとしたとき、葛西も同時にワークの上に手を置いた。

「でも、交換条件ね。」

「え。えー……何。こわいんだけど。」

葛西は視線を泳がせてから、珍しく言いづらそうにしていた。

「なんか。富野くんと、夏らしいこと、したい。」

「は?なんか、めんどそう。」

「あ。貸してあげないけど。」

葛西がワークを自分のほうに引き戻す仕草をして、慌ててワークを手で押さえる。

「うそうそ、ごめん。今の無し!するする!夏っぽいこと!」

葛西はにんまりとして、ワークから手を離した。

「じゃあ。このあと少し、付き合って。」

「うん。」

何をするか分からない葛西の提案に、付き合うのは不安だったが、自力で国語のワークをやるよりは、断然ましだった。

[次回更新]11月28日 金曜日 23時予定

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