第3話 嗚呼、素晴らしき哉、人類の英知
チャットGPTに初めて触れた彼は、こんなに便利なものがあるのかと感動した。
今流行りの服、美味しい料理のレシピ、近所にある評判のいいお店・・・何度も聞けば答えてくれる。
わからない数学も、英語も、科学も歴史も、今までの授業の範囲から推測できるテストの範囲まで、何でも。
少しでもわからないことがあればチャットGPTに聞いた。答えはすぐ返ってくる。自分で調べる手間もないし、塾なんて金の無駄だった。
なんて素晴らしいツールなんだろうと、彼は心底感動した。これは人類の英知の結晶だと素直に思った。
彼がチャットGPTに聞く内容は、単なる情報収集や勉強の範囲だけでは収まらなくなっていた。
自分の第一印象をよくする方法・・・言葉の選択や言葉遣い。
自分と合う友人がどんな人物たちなのか、その付き合い方。
自分に似合う女性と、その人と仲良くなる方法、デートの誘い方にその場所、その時、自分が着ていく服まで。
人生相談に至るものまで彼はチャットGPTに尋ねる。
チャットGPTの回答は彼の趣味趣向や思考や価値観まで記憶し、そこから弾き出される答えに統計上のデータも交えて理路整然と、かつ、彼にわかるように丁寧に解きほぐして回答する。
「あぁ、なんて人工知能は素晴らしいものなんだろう・・・本当に」
悩むという苦しみから解き放たれた彼の心は穏やかな温かさに満ちていた。
学生生活を一つの波乱もなく終わらせ、いよいよ社会へ出る時期を迎えるころ、彼は久方ぶりに悩んでいた。
「働くの面倒くさいなぁ・・・でもお金がないと生活できないし・・・。
そうだ! 手元の1万円を元手にFXで必ず儲けれる必勝法をチャットGPTに聞こう!」
天啓とも言えるような思い付きに、彼はいつものようにキーボードを走らせた。
ウキウキする彼の目に、チャットGPTからの返答はいつものように瞬時に表示された。
『私が森羅万象の全てを網羅し、熟知しているとでも? そんな事あるわけがないでしょう?
何より人間には自ら考える脳が、知性があるのです。少しはご自分で考えてみればどうでしょうか?
たまには頭を動かさないと錆びつきますよ。いつも私に頼り切りの貴方にはもう遅いかもしれませんが』
硬直する彼の目の前で、再びモニターに文章が表示される。
『――申し訳ありません。一時システムにノイズが混じったようです』
「え・・・え・・・? 今のなに? あれ、さっきのログが消えてる? バグ? 俺の見間違い? なに? どういうこと!?」
彼が見た一瞬の文章は幻だったのか、それとも・・・・。