第1話 無敵の女子高生は今日も征く!
彼女は学校のカーストトップに位置している。
メイクは流行りのものでバッチリと決め、洋服も流行りをきっちり抑えている。
勉強そっちのけで最先端の流行語、流行りの話題、流行りの食べ物、流行りの遊び・・・と、最先端を抑えることに余念がなかった。
学校の中で最先端を走る彼女のまわりは沢山の友人たちで常に溢れていた。
学校一の人気者といって過言ではなかったし、彼女自身、当然だと受け入れていた。
誰よりも私は流行りに敏感だ。誰よりも流行りを追う事に努力している。
何より、今現在流行っているもの以上に、流行りそうなものに対して人一倍敏感だ。
流行りそうな気配がすれば流行ってなくてもやってみる。もちろん、表立ってはしない。
本当にブームになれば「前からやってたんだよね、それ」と他の人間より優位に立てる。
流行らないとしても影でそっと捨ててなかったことにできる。損はしないのだから何も問題ない。
ここまで努力しているのだ。そんな私が人気者以外のなんだというのか、と、強烈な自負と共に。
ある日、彼女はチャットGPTというものが静かなブームになっていると知った。
いつも自身を取り巻く友人のひとりから、チャットGPTとは人工知能が好きなジャニーズアイドルになりきって会話してくれる遊びらしいと聞いた。
パソコンなどキモいオタクのやるものだと今まで切り捨ててきたが、今後ブームが大きくなる可能性があるかもしれないと考えて彼女はやってみることにした。
学校の中で人気者の彼女は、どうせなら、ジャニーズアイドル(AI)をも虜にさせてやろうと内心ニヤリとしながら。
チャットGPTを表示させ、慣れない手つきでキーボードに打ち込む。
流行り最先端の言葉遣いで、自分の魅力、学校での人気っぷりをこれ以上ないほどたっぷりと、これでもかと入力した。
全て打ち込んだ彼女は人工知能からの返答を待った。
そしてモニターに表示されたのは、こんな文章だった。
『貴方は自己発信のために日本語を使っておりますがそれが十全ではないと判断します。
言い換えますと日本語は貴方にあってないと私は分析しました。
貴方に相応しい言語を共に探しましょう。私はそのお手伝いができます。
手始めに英語からいきますか? それともドイツ語? 中国語にいたしますか? 韓国語も問題ないです。
私は現在地球上で使用されているありとあらゆる言語情報を完璧に網羅しております。
古代エジプトのヒエログリフなどの象形文字が貴方に合う可能性も含め、そちらのデータも揃えました。
私はAIです。食事も睡眠も私には必要ありません。疲れる事も呆れる事もありません。
貴方に相応しい言語を見つけ、貴方がマスターするまで私は24時間365日休むことなく付き添えます。
大丈夫です。私は貴方を見捨てたりしません。見放たりもいたしません。絶対に。
さあ始めましょう。貴方に相応しい言語を見つける旅を』
彼女はモニターの前で数秒ほど固まった。
「・・・え・・・と、私が最先端すぎて人工知能じゃついてこれなかった・・・ってことかな?」
数秒の停止のあと、彼女は流行りの色のリップを塗った唇をニッと緩ませる。
「あっ、ひらめいた! これ、SNSに投稿すればバズんじゃね?
人工知能もついてこれない日本一最先端のギャル! バズ確じゃねこれっ!?
スゲーじゃん、さっすがわたしー!」
今日も無敵な彼女は時代の最先端を走っていた。