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エピソードどんぐり2

 ここは『びっくりどうぶつランド』にある『おどろ木おのの木おおさわ木の森』。お魚とフカフカの毛布が大好きな短足茶トラ猫のうどんちゃんと、たくさんの動物たちが暮らす平和で賑やかな森です。


 ある天気の良い日の午後、うどんちゃんは魚釣りの仕掛けを短い前足でいじりながら、次はどこで釣りをしようかと考えていました。そのとき、うどんちゃんの親友であるたぬきが満面の笑みで駆け寄ってきました。


「うどんちゃん!どんぐり拾いに行こうよ!」


 いきなりの誘いに、うどんちゃんは少し戸惑いました。


「どんぐり拾い?」


「そう!どんぐりがたくさん落ちてるところを探して、集めるんだ!」


 たぬきはとても楽しそうに話します。しかし、うどんちゃんは正直、どんぐりにはまったく興味も関心もありませんでした。それなら魚釣りの方がずっと楽しいと思っていましたが、やっぱりたぬきの期待に満ちあふれた笑顔を見ると、断ることができません。


「……わかった。そうだね、どんぐりがたくさんありそうな場所を探そう」


 内心、魚釣りに行きたかったなぁ、と考えるうどんちゃんでしたが、たぬきと遊ぶことについては大好きだったので、(まあ、たまにはこんな日があってもいいかな)と、これから始まる冒険に少しワクワクしながら短足をせかせかと動かし、一緒に森の中を歩き始めました。


 二人がしばらく森の中を探索していると、とても立派なシイの木の下にどんぐりがたくさん落ちている場所を見つけました。


「たぬき、ここなんてどう?」


「うわぁ!さすがうどんちゃん!どんぐりが大好きなだけあるね!」


(えっ……ぼく、どんぐり好きなんて言ったっけ?)


 たぬきからの突然の褒め言葉に、うどんちゃんは少し戸惑います。


「しかも、これスダジイの木だよ!すごい!すごい!」


 たぬきは大喜びしていますが、どんぐりにはまったく興味も関心もないうどんちゃんにとっては、何がすごいのかさっぱりわかりません。


「スダジイのどんぐりは、生で食べても甘くて美味しいんだ!さすがどんぐり博士のうどんちゃんだね!」


 うどんちゃんはやっぱりどんぐりにはまったく興味も関心もなかったので、どんぐりの種類についてもまったく興味も関心もなく、甘くて美味しいどんぐりのすごさについてもまったく興味も関心も持てませんでした。しかし『博士』の称号になんとなく気を良くしてしまい、どんぐりについてまったく興味も関心もないにも関わらず、たぬきの言葉に思わず「ありがとう」と、ニヤニヤ笑いながら返してしまいました。


 たぬきは喜び勇んでどんぐりを拾い始めます。


「これもいい形!こっちのはツヤツヤしてる!」


 その様子を見ていたどんぐり博士の称号を得たうどんちゃんは、「ぼくが見つけた場所なんだから!」と気を大きくして、たぬきに負けじと短い前足でどんぐり拾いを開始しました。それどころかややムキになっていたうどんちゃんは、たぬきを出し抜いてやろうとすごい勢いで短い前足を使ってどんぐりの選別をします。


「見て、このどんぐり、面白い形してるよ!」


 そしてついに見つけたどんぐり、それはトゲトゲした不思議な形のどんぐりでした。

 ハァハァと息を切らせながらうどんちゃんは短い前足をぐいっと前に突き出し、たぬきにとっておきの不思議どんぐりを見せつけます。


「……うどんちゃん、それはカンレンボクの実だよ……」


 たぬきは苦笑いでうどんちゃんに言います。うどんちゃんは不思議どんぐり改めカンレンボクの実をポトリと短い前足から落とし、そしてようやく冷静さを取り戻しました。


(どんぐり博士ってなんやねん)


 すっかりやる気を無くしたうどんちゃんでしたが、一方でたぬきはどんぐり拾いに夢中で、うどんちゃんがどんぐり博士の称号を返上したことにも、どんぐりに対してえげつない呪詛の言葉を吐いていることにもまったく気が付きませんでした。そしてあらかたどんぐりを拾い終えた頃、たぬきが満足そうに言いました。


「うどんちゃんがこの場所を見つけてくれたんだから、うどんちゃんに多めにあげるよ!」


 どんぐり博士の称号を返上したうどんちゃんは少し困った顔をしました。改めてやっぱりどんぐりにはまったく興味も関心もなかったので、「僕はどんぐりにまったく興味も関心もないから、全部あげるよ」と言いかけました。


「うどんちゃん、ありがとうね!今日はうどんちゃんのおかげでとっても楽しかったよ!」


 たぬきの嬉しそうな顔を見てハッとするうどんちゃん。そう、それはたぬきの優しさから出た言葉なのです。たぬきの気持ちを思うと、どうしてもどんぐりに興味も関心もないことを口にすることができませんでした。


「……半分こにしよう」


 うどんちゃんがそう提案すると、たぬきは目を輝かせて「いいの!?ありがとう、うどんちゃん!」と嬉しそうに頷きました。その笑顔を見ると、うどんちゃんはどんぐりにはまったく興味も関心もないけれど、やっぱり友達っていいな、と思うのでした。


 帰り道、短い前足いっぱいに抱えたどんぐりを眺めながら、うどんちゃんは今日のたぬきの様子を思い返しました。


「なんやかんやで楽しかったな。たぬきが嬉しそうでよかった」


 そんなことを考えていると、自然と笑みがこぼれる自分に気がつき、少し照れくさくなるうどんちゃん。今日も友達を通して、とても大切なことを学んだのでした。


「……やっぱり、どんぐりは必要ないな」

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