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エピソードどんぐり1

 ここは『びっくりどうぶつランド』にある『おどろ木おのの木おおさわ木の森』。お魚とフカフカの毛布が大好きな短足茶トラ猫のうどんちゃんと、たくさんの動物たちが暮らす、平和で賑やかな森です。


 ある晴れた日の午後、うどんちゃんは森の中にとても日当たりが良い切り株スポットを見つけたので、短い足を身体の中に丸め込み、日向ぼっこをしていました。暖かい陽射しに包まれ、ついうとうととまどろみ始めたときのことです。森の奥の木の葉が揺れ、サクサクと落ち葉を踏みしめる音が聞こえてきました。うどんちゃんがうっすら目を開けると、目の前には森で一番の親友・たぬきの姿が。


「うどんちゃん、うどんちゃん!」


 たぬきは元気よく呼びかけます。


「いいものを見つけたんだ!」


 うどんちゃんは短い前足を精一杯突き出しながら伸びをして起き上がると、少し警戒しながらたぬきに聞きました。


「……今日はどうしたの?」


 たぬきは得意げに胸を張り、じゃーん!とばかりに両手いっぱいに持ったモノをうどんちゃんに見せ付けてきます。


「どんぐりだよ!」


 うどんちゃんは短い前足を揃えてちょこんと座り、首を傾げました。


「これ、食べられるし、遊べるんだ!」


 うどんちゃんは困惑しました。正直、どんぐりには興味がありません。川で捕れる新鮮なお魚を食べることや、フワフワの毛布を短い前足でフミフミする方が好きだったのです。しかし、たぬきの目はうどんちゃんが喜んでくれるだろう、という期待に満ちています。


「うどんちゃんも、これで遊んでみない?」


と言いながら、たぬきは嬉しそうにどんぐりを転がし始めました。その仕草を見て、思わず微笑んでしまううどんちゃん。

 しかしうどんちゃんは内心で(どんぐりはどうでもいいんだけどな……)と思いました。でも、たぬきの笑顔を見ると無下にすることもできません。仕方なく「……少しだけなら……」と言って短い前足を差し出し、どんぐりを一つ受け取りました。


「やった!うどんちゃんもどんぐり仲間だね!」


と、たぬきは飛び跳ねるように喜びました。うどんちゃんはどんぐり仲間にカウントされたことについては不本意ながらも、たぬきの反応に心が温かくなりました。

 さて、うどんちゃんはもらったどんぐりを短い前足の上で転がし、どうしようかと考えます。そしてしばらくたぬきの様子を観察したあと、その動きを真似て少し遊んでみることにしました。それは思ったよりも面白くて、どんぐりを追いかけては短い足で転がすうちに、いつの間にか夢中になっていました。


「ねえ、うどんちゃん、もっと遊ぼうよ!」


たぬきは嬉しそうに次々とどんぐりを転がしてきます。うどんちゃんも短い足でたぬきの転がしたどんぐりを追いかけ、夢中で遊びました。二匹の笑い声が森中に響いています。

 しばらくすると、うどんちゃんは「どんぐりは必要なかったけど、たぬきと遊ぶのは楽しいな」と思いました。たぬきと一緒に過ごす時間が何よりもかけがえのないものであり、自分を嬉しくさせることに気づいたのです。

 日が傾きかけた頃、たぬきは新しいどんぐりを見せてきて、「うどんちゃん、見て!このどんぐり、特別だよ!」と自慢げに言いました。「形が丸くて、ツヤツヤしてるんだ!」


 今まで夢中でどんぐりを追い回していたうどんちゃんですが、たぬきの言葉にふと我に返ります。


「うん、すごいね……」


 冷静になってみるとうどんちゃんはやっぱりどんぐりが必要なかったので、心の中で「やっぱりどんぐりは必要なかったな」と思いはじめました。でも、たぬきの嬉しそうな顔を見ているとやっぱりどんぐりが必要なかったとしても、「やっぱりどんぐりは必要なかった」と伝えるのが忍びなくなり、やっぱりどんぐりが必要ないことを伝えるべきか困り果ててしまいました。


「うどんちゃん、これもどう?あれもどう?」


 どうやってやっぱりどんぐり必要ないと伝えるべきか考えている間も、たぬきは次々にどんぐりを差し出してきます。結局、うどんちゃんはたぬきからたくさんのどんぐりをもらってしまうことになりました。うどんちゃんは(どんぐりは必要ないのに、もらうのは申し訳ないな……)と思いながら、運ばれてくるどんぐりを短い前足で受け取り続けます。


「ありがと、たぬき。でも、やっぱりどんぐりは……」


 覚悟を決めて言いかけたところで、たぬきの笑顔がふと目に留まりました。彼の無邪気な笑い声に、うどんちゃんは言葉を飲み込みます。


「うどんちゃんが喜んでくれるなら、どんぐりがいくらあってもいいよね!」


そうたぬきは言い、またどこからともなく新しいどんぐりを出してきました。


「まあ、そうだね……」


と、うどんちゃんは苦笑いしつつも、たぬきの気持ちを大切にしようと思い、一方心の中では(本当にどんぐりは必要ないんだけど……)とも思うのでした。

 その日、うどんちゃんはたぬきと遊び続けながら、たくさんのどんぐりをもらいました。うどんちゃんにとって、どんぐりそのものはやっぱり必要ないものでしたが、たぬきの笑顔が何よりも大切であることを学んだ一日でした。

 帰る時には短い前足いっぱいになったどんぐり。それを見たたぬきは、とても嬉しそうににっこりと笑いました。そしてその笑顔を見たうどんちゃんは、胸が温かくなり(どうしよう、やっぱりどんぐりは必要ないな……)と、大切なことに気が付くのでした。


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