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【SF 空想科学】

最後の人類と最後のロボット

作者: 小雨川蛙

 

 人の愚かさの果てに大きな戦争があった。

 それにより、今やこの星に生きているのはまだ三つになったばかりの一人の少女と一つのロボットだけだった。

 ロボットは少女の誕生日に両親からプレゼントされたものだった。

 しかし、もうその両親もこの世には居ない。

 故に少女は常日頃からロボットに話していた。

「お願い。私を独りにしないで」

 その言葉を聞いてロボットは無機質で冷たい体をギクシャクと動かしながら彼女を抱いて答えた。

「ご安心を。私が生きている限り、あなたを独りにいたしません」


 少女は人生をかけてこの星に他の生き残りがいないか探した。

 しかし、どれだけ探しても人間どころか、ロボットさえもなかった。

「私とあなたは不幸にも生き残ってしまったのね」

 そう呟いた後、彼女は恐ろしくなり、またロボットに対して言った。

「お願い。私を独りにしないで」

 中年となった主に対してロボットは頷いた。

「ご安心を。私が生きている限り、あなたを独りにいたしません」

 その答えを聞いてロボットの主は何かを言おうとしたが、そのまま言葉を飲み込んだ。

 先のことはまた、その時になって考えれば良いと思ったからだ。

 いや、思おうとしたからだ。


 そして、ロボットの主が恐れていた時が来た。

 彼女は今や老齢となり、死にゆこうとしていた。

 故に彼女は知っていた。

 自分が死ねばロボットはたった独りになってしまうと。

「ごめんなさい」

 主はそう言ってロボットに謝罪した。

「独りにしないでと言ったくせに、私があなたを独りにしてしまうなんて」

 しかし、ロボットは無機質な冷たい体をギクシャクと動かして彼女を抱いて答えた。

「ご安心を。私が生きている限り、あなたを独りにいたしません」

 硬い。

 あまりにも硬い機械に抱きしめられている内にロボットの主は永遠の眠りについた。

 それと同時にロボットもまた動かなくなった。

 命のない星で最後の命がついに消えた瞬間だった。

 ・

 ・

 ・

 遥か未来になり、この星に降り立った人間によく似た種族が奇妙なものを見つけた。

「こりゃ、棺桶か?」

 その言葉通り、隙間だらけの物体の中身に骨が見える。

「いや、よく見ろ。ロボットだ、これは」

 そう言って隊員たちが無造作に骨と完全に壊れたロボットを引き離す。

「何て原始的な構造だ。人工知能さえ搭載されていない」

「これじゃ、単語を機械的に繰り返すだけじゃないか」

「ロボットと言うよりはおもちゃだな、これは」

 彼らの見立ては正しかった。

 実の所、これはロボットではなくただのおもちゃだったのだ。

「この骨の主は相当の年寄りだったらしい」

 骨を調べていた隊員の言葉に、他の者達がやるせないため息をついた。

「そうか。なら、最期の時をこんなおもちゃと過ごしたんだな」

 彼らはしばし目を瞑り、哀れな末路を迎えたであろう骨の主のために祈りを捧げた。


 自分の傍らに居たのがただのおもちゃであると知らずに逝けた少女の幸運は誰にも知られることはなかった。

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