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光石鷲獅子

 追いかけた先には巨大な縦穴があった。首が痛くなるほど見上げると、ずっと上に白い光が見えた。外の光だ。この長い縦穴は空と繋がっているようだ。


「鷲獅子はあの穴から出入りしていたのですっ‼ だから見つからなかったんだぁ」


 俺と同じように空を見上げている双子は、吐息をもらし、自然が作りだした雄大な景色に心を打たれているようだった。子供にいいものを見せられて、こちらも嬉しくなってきた。


 空から降り注ぐ光はダンジョンの底にサークルを描いていた。


 俺たちが来た方向とは反対側へと血痕は続いていた。俺とラトリスは大人としてそちらへ意識を向けていた。すると光のサークルを挟んで向かい側の闇のなかから鷲獅子がヌッと出てきた。


 やはり蒼白い色合いの毛と羽をしている。美しい怪物だ。前の二足は鋭い鉤爪を誇り、後ろの二足は太い獅子のものだ。鷲獅子のおでこには蒼く輝く石がはまり、首元は血で汚れている。


 あれは先ほど俺が傷をつけた個体で間違いなさそうだ。


「お前が伝説の光石鷲獅子か。立派だな」

「ピヤァァァァア‼」


 甲高い鳴き声。声に共鳴するように光石が激しく輝きだした。


「先生、強い魔力を感じます。なにか来ます」


 ラトリスが言う。一番弟子の予言通り、光石鷲獅子のそばに蒼い光塊が宙に3つ生成された。ヤマアラシの背にあったような鋭利な棘になると、それらはビュンッと勢いよく飛翔してきた。


「魔法は嫌いなんだ」


 飛んでくる棘たちを刀で斬りはらう。

 我ながら上手い。いい感じに軌道が逸らせた。


 だが、魔法の棘はまだ宙を泳いでいた。

 すぐに消失しない? 持続力がある。厄介な魔法だ。


 俺に穴を空けることに失敗した棘たちが俺の後方へ飛んでいった。

 

 俺は背後へ視線をやる。棘の射線の先、セツとナツがいた。まずい。──そう思った時に動いてくれる頼れる一番弟子。ラトリスは子狐たちへ襲いかかった棘たちをブロードソードで斬りはらった。


 パシャ。その瞬間を写真家は逃さない。

 セツは臨場感たっぷりの絵を撮影した。


「わぁーい、すごい一枚が撮れたのですっ‼」


 呑気な子だ。俺たちのことを信用しきっているな? まったく。


「ラトリス、子どもたちは任せる」

「はい、こっちは大丈夫です、先生は鷲獅子を」


 全幅の信頼を預けられるというのはいい物だ。

 それが弟子ならなおのこと。俺は喜びに満ちていた。自分の弟子とともに戦えることを。命を預けあえるこの瞬間を。


「ピヤァァア‼」


 光石鷲獅子がいななき、前足をおおきく振りあげた。

 立ち上がった高さは俺の身長の倍はあるだろうか。普通に立っているだけでも、顔の位置が俺よりずっと高いというのに。迫力がありすぎだ。


 そのポーズのまま光石鷲獅子の身体が淡い蒼光をまとった。


 背中のおおきな翼がはためいた。大量の空気を一回の羽ばたきで押しのけ、ふわっと浮きあがる。先ほど撃ちだしたものと同質の棘を宙に7つも生成した。己を中心に凶器たちを衛星軌道に乗せたまま今度はこちらへ向かって急降下してきた。


 異様な速度、異様な動き。

 魔法の棘をまとうことによる対応難易度の上昇。


 なんと賢い魔法生物なのだろう。

 戦術を有しているとは。


 よく見よ。棘のほうが鷲獅子よりも前にあって、先に俺に到達するようになっている。剣で魔法をしりぞければ、巨獣の質量に砕かれる。巨獣に意識を向けすぎれば、魔法に体を貫かれる。これは回避するのが安定だが、果たしてそれは許されるのか。


 俺は直観のままに対処することにした。

 身体にあたるだろう棘5つを2回の斬撃でしりぞける。

 俺がとったのは魔法への対処。その代償を俺は払うことになった。


 光石鷲獅子の突進が人間の脆い体を破壊しようとしてくる。


 通常、致命的なダメージになる。けれど、俺にはぶつかった後から始まる技術がある。理合。それは相手を受け入れることにあり。羽毛のごとき俺の体は、巨躯にぶつかっても砕けることなく、腰から上だけが地と水平になるまでのけぞった。


 俺は鷲獅子の下へと滑らかに潜りこんだ。あとは刀は置くだけ。お前を斬るのはお前自身だ。四足獣の共通の弱点、腹部に鋼刃は滑りこむ。俺はそこで初めて筋肉を使った。姿勢を直し、片膝をついてしゃがみこんだ姿勢のままで斬りぬいた。


 通り過ぎた光石鷲獅子が光のサークルの外へ消えていく。

 おおきな物音が追って聞こえてくる。


 俺は一息をついて腰をあげる。

 光のサークルの外には血の池のなかに息絶えた怪物がいた。


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 ファンタスティック小説家

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