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 桜が香る、ほのかに肌寒いながらも陽の温かみが体に沁みる朝。

春休みが始まってから、自堕落な生活を送っていた者にとっては、少し辛い時間にアラームはけたたましく鳴り響く。

 (始業式だから弁当は要らないんだった。早く起きて損した〜)

 早起きは三文の徳とはよく言うが、春の朝だけは惰眠を貪る事に、それ以上の価値があると思うんだ。などと持論を展開しながら、のっそりと起き上がる。

 天春彰音あまはるあきと、高校二年生最初の朝を迎えるのだった。

 歯を磨き、顔を洗い、身嗜みを整える。いつも通りを済ませると、いつも通り、隣の家に向かう。

 「お邪魔します」

 声に反応する者は誰も居ない。少し広い玄関には、ローファーが一足。淋しそうに佇んでいた。

 靴を脱いで隣に並べる、閑静な家に音が宿る。

 「琴無〜起きてるか?」

 返事はない。

 (今日は防音室か……また寝てないんじゃないだろうな)

 そんな事を考えながら廊下を抜けて、階段を上がる。

 二部屋が向かい合い、おわりのない睨めっこを続けている。階段を上がり、手前の部屋の琴無と書かれたドアプレートの部屋をスルーし、最奥の扉を開ける。開けた先にもう一つの部屋が現れる。

 小窓から中を覗くと、やはり琴無が中にいた。

 色白の透き通った肌をした、高校生らしい肉付きをした少女。空の色の様な長い髪で表情までは見えないが、かなりキレているらしい。こういう時の琴無はめんどくさい。

 少し強めに扉を叩く。また、返事はない。ヘッドセットは外界との音を遮断し切っている。

 思い切って扉を開け、琴無の肩をポンポンと叩く。

 「彰音、ほあよ……もう終わるからちょっとまってて」

 ヘッドセットを少しずらし、彼の声を聞く。

 「おはよう琴無、また徹夜したのか?女の子なんだからちゃんと寝たほうがいいと思うぞ」

 「うるさいなぁ〜ほんとは寝るつもりだったんだけど、ランク上がるギリギリで負けが込んじゃってさぁ……今日は始業式だけでしょ?」

 「そうだけど、生活リズム直さないとキツいぞ、また俺まで遅刻するのはごめんだからな」

 「うぅ〜車の免許取ってよぉ」

 涙声になりながら、心からのお願いを見せてくる琴無。可愛らしいが、心を鬼にせねばなるまい。

 「車は18歳からだし高校まで送ってたら俺が遅刻するだろ。はぁ、朝はなんか食べたいのあるか?」

 「ぶー」と抗議しながらモニターを見つめ直す琴無、体力の残量を確認し、キーボードを叩きマウスを素早く動かす。少し考え込んだ後に「彰音の卵焼き……甘い奴!」と満面の笑みで答えた彼女のモニターにはYou winと表示されていた。

 冬澄琴無ふゆすみことね、高校二年生最初の朝を迎えるのだった。

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