揸車(ザッチェ)、倒車、蝦碌(ハァルッ)、御馳走
「関東 貿易公司?」
「コンビニだろう」
布地の看板の下に、道路脇の駐車スペースまで積まれる商品の山がそのまま出しっぱなしで、しかも破ったブルシートで被られている。隙間だけが通路として残されている。香港より南国と言える街にいる限り、店の中から漏れてくる冷房がつくった涼しい風が、カーエアコンのとまったあと、僕にとって至福の爽やかだ。
「ここにとまったら邪魔だ」
ロックしようとしたら、女の子が先から大仏のように座りっぱなしだった。僕は再び車に戻ってカギを差し込んで回してエンジンをかける。「コンビニ」のすぐそばに、悪魔的ラウンドバウンドがある。香港と違って、ラウンドバウンドの中に、駐車スペースの白い線が引かれている。まるで円盤にテトリスをさせられる感じだ。
「怯えた?肥佬」
大丈夫だ。大丈夫だ。トレーラーでもなく、バスでもなく、クレーンでもなく、しりのついている乗用車に乗っているだけだ。免許試験のとき使ったハッチバックよりちょっと長くて、ちょっとしりがはみ出しているだけ。ここに暮らしている人に羨ましいな、マイカー持てるって。坂のど真ん中のラウンドバンドで免許試験を落とすこともないって。ああ、そこにある白線を横切ってとまっている錆びた銀色のダイハツ・ミラに乗っていたらよかった…
「どうした?全然動いていないじゃないか」
「For God's sake(お願いだから、やめてくれ)、口を封じて黙ってちょうだい?駐車に時間がかかる?そんなのはどうでもいい。誰も僕に銃を向けて試験を受けさせようとはしていない。香港ではとても交通の便がよく、どこに行くにも地下鉄とバスさえ使えばいい。なぜこの小さな町に来たなのか? 福袋企画で安いチケットを引いたからだ。使わないと損だからだよ。」
「…わかったわよ。言いたいけど、あの先の長い駐車スペースの列に突っ込んで行けばいいのを言いたいだけだ。 LDL(日本の仮免許と相当、15歳9か月から試験が受けられる)を持っているけど、とめてあげようっか?」
「レディーファースト」
彼女と席を交換したら、彼女のスムーズに白線の間に挟んで、バックでとめる見事な腕前を目睹した。
「お見事!待って、LDLは香港のPライセンスと一緒じゃない?待って、Lって學ライセンスだよね。単独で運転したら違法のはずじゃ…」
「誰かに言おうとしたら、999でカージャックされて、さらに性的な被害を受けたと通報するわ」
「こっちこそスマホの個人情報を盗まれかけていることを通報したいけど…」
「そんなの知らない。ウォールズのチョコアイス1個だ」
1.5リンギットは?調べたら3香港ドル未満だ。安ーい!虫歯がないから、おかわりも遠慮せずに!