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赤鬼の番  作者: さんっち
5/6

5:赤鬼の番は・・・

ふわりと、柔らかい風が累の痛んだ頬をかすめる。ゆっくり目を開ければ、森の匂いが鼻をかすめる。自分は、どうしてここに?確か毒で水を求めて、川へ向かって倒れて・・・。自分は死んだ?ここは黄泉の世界?


「・・・起きたか、累」


色々想像する累の耳は、聞き覚えのある声を捉えた。・・・この優しい声は!慌てて声のした方向を振り向くと、里から出たはずの暁の姿があった。


「せ、先生!」


別れを言えなかった後悔や辛さ、これからの絶望も全て取っ払い、累は暁の胸に飛び込んだ。声も、背丈も、匂いも、全部隣にいたい人のモノ。もう離れたくないと、本能が叫んでいる。涙が止まらない累を、暁は静かに抱きしめ続けた。最初に出会った時のように。


「山で倒れていたお前を見つけたときは、かなり肝を冷やしたよ。赤鬼神社まで運んで、薬草で解毒剤を作り上げて、口移しで飲ませたんだ。副作用でかなりの時間眠っていたけど・・・良かった」


一生会えないと覚悟してたのに。また僕を助けてくれるなんて・・・と感激して、ふと「ん?」となった。解毒剤を・・・()()()?ということは・・・!?一気に顔が熱くなっていく累を、暁はクスクス微笑む。


「悪いな。でもこの場じゃ、こうするしかなかったし」


「い、いえ、どうせ口付けするなら・・・って、それよりも!!先生、何故この山にいるのですか?都へ戻っていたはずでは?」


来たか、と覚悟を決めたような表情で、暁は息を吸う。


「あんなの方便だ、()()()()になるためにな」


刹那、暁の肌は変化を始める。肌は深紅で染まっていき、尖っていく牙や爪。額には深紅の角がゆっくりと伸び始め、10秒も経たない内に・・・暁の化けの皮は剥がれていた。



累の目の前に先生は・・・人間はいなかった。茶髪で真っ赤な肌と角を持つ、伝承通りの“赤鬼”がいたのだ。



それでも懐かしい匂い、温かい手、そして優しい声。姿は変わっても、目の前の赤鬼は、自分が慕っていた先生だ。


「せ、せ、先生が・・・赤鬼様?」


「あぁ、人間に化けて家庭教師として、玉村家に忍び込ませてもらった」


「や、やはり・・・美々のためですか?」


「んなわけあるか、今までの俺の行動を思い出せ。まぁ、ちゃんと言葉にするけど・・・お前が心配だったから、かな」


ふと赤鬼が差し出したのは、銀色の短髪。赤鬼神社に昔供えられた、累の髪だ。既に廃れた神社に1人出向く少年を、赤鬼はずっと見ていた。しかもその願いは里を不幸にしないでほしいという、自分以外のため。オマケに「自分は貴方に呪われた」と、あり得ないことを言っている。


「俺は未来予知などしない。ましてや罪なく産まれてくる子供に、呪いなんぞかけるわけがない。遺伝子の突然変異やら先祖返りやら、色々理由は考えられそうだが・・・そこはなんとも言えんな。ともかく傷だらけで祈る累の姿が、とても心配だった。


もっと早くお前に近付くべきだったと、今更後悔している。近付く理由作りと人間に化ける準備に手間取っていたら、こんなにも累を苦しめてしまっていた。伝承を鵜呑みにした挙げ句、自己利益しか考えない欲深い奴らに。暁として接していてもひしひしと感じたよ、その愚かさに。コイツらが治める地に、未来はないことも。


これ以上、愛しいお前を苦しめるものか」


すっ、と累の銀髪をすくい取った赤鬼。髪に口付けをして、累に告げる。



「累、俺の番はお前だ。2人でこの里を出て、何処までも行こう」



赤鬼様は、自分を呪っていなかった。むしろ、ずっと心配してくれていた。そして今、共に歩む手を差し伸べてくれているのだ。ずっと待ち望んでいたその手を取らない理由など、累には無い。だが本当にそれで良いのか、不安になって思いとどまってしまう。


「赤鬼様の番は、赤髪でないといけません。里は美々を赤鬼様の番にさせるため、もう準備を進めています。僕が番になるのは・・・それに、赤鬼様が小米の里を出てしまうのは・・・」


「正直・・・今までの番は美々のような輩ばかりで。人ならざる俺と上手くやれず、長くて半年、短ければ1週間後には去って行った。もう番なんかいらないと思ったが、俺が人間と関係を繋ぐ唯一の手段。承諾せざるを得なかった。ここ以外に居場所が無い。人ならざる者が別の場所に行っても、受け入れられない。・・・お前と似た思いを抱えていたんだ。


でもお前と共に過ごして、都に行きたいお前を見ていたら、何処へでも行ける勇気が出たんだ。俺は正直、この里がどうなろうがどうでも良い。命に格差をつけた、あの当主家族が治める地なんぞ守る義理もない」


でも、と後ろ向きな言葉ばかり出る累の口を、そっと塞いだ赤鬼。一瞬触れた唇の感触が、とりわけ昂ぶる感覚に染み渡る。


「俺は本気だ。このまま2人で里を出て都に行き、色々な世界を見よう」


ここを出たい、それが彼も思っているのなら。繋ぎたかった手が、今目の前にあるのなら。互いに本気で、相手を強く思っているのなら。


・・・共に行きたい、ずっと共にいたい。


累はそっと、赤鬼の手を握った。微笑んだ赤鬼・・・いや、暁の顔は、今まで見たモノよりずっと嬉しそうで。


再度重なった唇は、累の涙で少ししょっぱい味がした。

読んでいただきありがとうございます!

楽しんでいただければ幸いです。

「6」(最後)は、明日夜に投稿します。

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