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赤鬼の番  作者: さんっち
3/6

3:色づき始めた日々

暁は午前か午後どちらかで美々の家庭教師を務め、残りの時間は小米の里の歴史研究をするのが日常だ。だが研究に費やされているその時間、あばら屋が遠く孤立しているのを我幸いに、彼は隠れて累と過ごすようになっていた。


最初の1年は文字書きや計算など、基礎的な授業を行う。だがとりわけ学びが早い累にはもっと視野を広げてほしいと、2年目からは暁が好きな古文や歴史など、幅広い知識を教えるようになった。ついでに、暁が研究する小米の里についても。


「赤鬼は里の守り主で、災いを祓ったり呪いを与えたり出来る。そして里で産まれた赤髪の子を、番として迎えにくる・・・。でもそれらはあくまで()()で、本当かどうか分からないんだろう?」


「里の人は、赤鬼様の存在を信じています。それに僕がこんな姿で産まれたのは、そう考えた方が自然らしいんです。いつか里を脅かす存在だと・・・」


そう話していれば、どうして僕だけ・・・と辛くなって。空しくなって。狐の面から、静かに涙が落ちた。こうなると暁は授業を切り上げて、2人で山に入るようにしている。


ある時は木登りをして、ある時は川遊びをして、ある時はずっと空を眺めて。好きなことを好きなだけする、楽しい時間。誰にも縛られない、2人だけの時間だ。


「いやぁ、美々はこっちが自分に合わせてくれる気満々で接してきてさ、人として危ういんだよな。あそこまでワガママなのは、よく親も見逃してるよ。あんな奴を番にする赤鬼とやらは、50年は大変だぞ」


「確かに・・・赤鬼様に謝罪した方が、良いかもしれませんね。美々の性格の酷さは、僕が1番知っている自負があるので」


そんなことを言っても、誰にも咎められない。それがどれだけ晴れやかなことか!慕う人がいて、一緒に笑い合う人がいてくれて、累は少しずつ明るくなっていく。思い悩むことが減っただけでなく、明日は先生と何をしようか、生きるのが楽しくなったのだ。


家族も暁が来てから、累への顕著な虐げをしなくなった。美しい暁と関わることで時間を費やすからか、彼を虐めなくても良いほど上機嫌なのか、累の存在や自分たちの本性を知られたくないからか。相変わらず蔑まれているが、暴力を受けないのがありがたい。


「大変だと思うことは多いけど、累と話せると嬉しいよ」


「ぼ、僕も・・・先生と出会えて、良かったです」


こんなに幸せな時間は、隠れながらしか行えない。いつか、何にも怯えずに先生と接することが出来たら・・・。そんな叶わない夢を見てしまうのが、最近の悩みだった。



一緒に山に入るようになれば、赤鬼神社への参拝にも同行してくれるようになった暁。普通の人には険しすぎる道のはずなのに、慣れている累はともかく、道を知らない暁もひょいひょいと進めている。


凄いなぁ、なんて軽く思いつつ、ゴツゴツとした岩山に足をかけた累。刹那、ザリッ!と嫌な音を立てて、バランスを崩してしまう。あっ、と思ったときには、全身が逆さまだった。累の体は、高さ数メートルはある場所から真っ逆さま・・・。



「累!!」



累が目を閉じた一瞬で、落ちてくる累の体を空中で捕まえたのだ。暁は累を抱えたまま、大きな音も立てず地面に着地する。まるで、一瞬だけ宙を浮いたような・・・。


「累、大丈夫か!?」


「え、あ、ありがとうございます・・・」


抱きかかえられるのは初めてだし、ここまで体を密着させたのは久しぶりだ。そのためか・・・累は場違いだが、急に顔を赤らめてしまう。


「いやぁ、お前がまだ俺が抱きかかえられる大きさで良かったよ。出会ったばかりの頃は、子猫みたいなもんだったのに」


「なっ・・・!そ、それは言い過ぎですよ先生!僕はもう13ですよ。というか、離してください・・・もう大丈夫ですから!」


「また無茶するだろう?あと少しだから、ジッとしてろ」


ど、どうしてあと少しとか分かるんですか!?先生、赤鬼神社に行くのは初めてじゃ・・・。そう言おうと口を動かす前に、風のように進んでいく暁。あまりの驚きでまた目を瞑れば、2人は既に赤鬼神社の前にいた。


「え、あ、え・・・?」


「ここが赤鬼神社か。せっかく赤鬼に関する大切な場所だってのに、廃れてしまったんだな」


このまま境内に入られるのも恥ずかしいので、そろそろ下ろしてもらった。そしていつものように、髪を数本抜いてお供えしようとすると・・・暁も同じように、自らの髪を数本抜いたではないか。


「せ、先生!せっかく綺麗な髪なのに・・・」


「いや、俺もお供え物が無いからな。それに・・・お前だって、綺麗な髪だろう。無理に抜いたら、痛むぞ」


さらりと嫌いな銀髪を撫でられ、心臓が飛び出るかの如く驚いてしまう。髪が綺麗だと言われるなんて初めてだ、見た人は皆、異様な目で見てきたというのに。


「この里は黒髪ばっかりだけど、都には色々な髪の人がいるぞ?いつか都に行ってみろよ、きっと色んな人がいて驚くと思うぞ!」


彼の綺麗な茶髪が、銀髪に混ざった供え物。申し訳ないと同時に、一緒になってくれることで胸がいっぱいだった。逆に関係ない人を巻き込んで、赤鬼様を怒らせてしまっただろうか・・・と、累はまた悪い方に考えてしまう。


「忘れられないように、また参拝しないとな!次はいつにしようか」


だがそう暁が言ってくれたことで、再度幸福感に包まれる。また共に行きたいと言ってくれているのだ。これ以上無茶をしないようにと、帰りは手を繋いで行くことにした。触れる手の温もり、見せてくれた笑顔、そして気遣ってくれる優しさ。彼の隣なら、何処にでも行ける。このまま一緒にいられれば・・・。


また叶わない夢を描きつつ、繋いだ手を強く握るのだった。

読んでいただきありがとうございます!

楽しんでいただければ幸いです。

「4」は明日夜に投稿します。

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