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Road

作者: まり@SUN

YouTube、ニコニコ動画に歌があります!

拙いですが良かったらそちらも見てみてください。


YouTube

https://youtu.be/TLk-DKd54FE

 あの日、僕の世界は全てが変わった。

 吹く風も、花の香りも、夏の暑さも意味を無くした。


 生きる理由は失ったけど、死ぬ理由も無いし、望まれない…

 そんな惰性で生きながらえていた。


 この間、そうあれはこの間のこと、君は僕の前から、そして(うつつ)から消えた。


 とうに涙は枯れもう大きく感情を揺らすことも無い、そう思っていた頃の出来事だったのだが、やはり人間とは不思議なもので大切な存在の消滅には僕も耐えられなかった。


 なので今日は彼岸に最も近いと噂の場所へ訪れてみた。



 これは、『君』へ宛てた『僕』からの想いと『君』から『僕』への(おも)いの物語。



 亡くなった想い人の事を考えながら登るとその想い人が現れ、現世に残された者と一時を共にする。


 1000年前からこのような伝承が伝わっているという黄泉坂。長さで言えばせいぜいが50m前後。


 本当にただの坂だ。

 それが僕の最初の感想だった。


 坂へと続く道の脇には石の祠が整然と並び、坂も含めその全ての道は石畳だった。

 空には雲がかかっていて、それほど厚いものではないけれど、日は直接届きそうにはなかった。

 登り始めの場所には高さ10m、幅15m程の赤と黒で装飾された大きな門があった。


 神社の鳥居とも、寺院の門とも何処と無く似ているような気はするが、正に彼岸と此岸を隔てる黄泉の門とでもいうような雰囲気を感じた。


 全ての祠へ一礼しながら道を進んでいく。

 僕以外にもここを訪れる人は数人見受けられた。

 皆、僕と同じように心の支えとなる誰かを失ったのだろうか?


 そんな思案もしつつ、門へ着いた。

 門に大きく一礼した後に振り返ってこれまで通った道を見る。

 理路整然と並ぶ祠は美しく、本当にこの世ならざる方々の住む場所なのではないかという考えが浮かび、自然と礼をしてしまった。


 門をくぐると周りにいたはずの数人は見えなくなり、お昼時で明るいはずなのに辺りは暗くなり、門の外からは見えていた坂の終わりも見えなくなった。

 周囲の木々はお生い茂り、まるで原生林かのような相愛を呈していた。

 そして、気がつくと周りにはかなり濃い霧が漂って5m先も見えなくなっていた。

 そんな風に変わり果てた風景の中、変わることなく美しく整えられた石畳は返って怖さを醸し出していた。


 周囲が劇的に変化していたのだが僕はそのことに気を配ることが出来なかった。

 門から先へ足を踏み入れた瞬間から、僕は君が消えたと知った時の哀しみ()()の想いが蘇って来たのだ。


 君と行こうって約束した遊園地

 君が食べたいって言ってくれた僕の料理

 君に絶対似合うだろう服

 君に ─────


 最期にいられなかった

 あの時動いていたら

 あの場にいれば

 僕が ─────


 どうして君は消えたの

 どうして僕は生きてるの

 どうして君が消えたの

 どうして僕じゃないの

 どうして

 どうして

 どうして

 どうして

 どうして


 痛い

 痛い

 痛イ

 痛イ

 イタい

 イタい

 イタイ

 イタイ

 いたい

 いたい

 いたい


 ふと気づくと周りの景色はもう何も見えないほど霧が立ち込め、動いていた景色も止まっていた。


 近い地面。

 血の着いた石畳。

 皮の向けた手。


 何故僕はこんなにも感情が高まってしまったのだろうか?

 これほど表に出たのは記憶にある限り初めてかもしれない…


 そう不思議に思っていると僕のおでこに細く柔らかく暖かい風が当たった。


「 ── くん。**くん。大丈夫?…じゃないよね…」


 えっ?!その声は…

 だって……


「そうだよ、**くん。私は☆#。この間死んじゃったけどね」


 あぁ…やっぱり君だった。

 僕は声のした後ろを振り返…れなかった。

 まるで金縛りの様に身体を動かす事が出来なかったのだ。


「ダメよ**くん。今の私は見ないで…そういう決まりだから」


 君は僕の耳のすぐ近くでそう言った。

 どんな君でも僕は嬉しいけど、しょうがないよね……

 僕は君の姿を見るのを諦めた。


 そして、僕はその場に座り込んで君と話そうとした。

 けど、君はまたしてもダメだという…


「もう二度と戻れなくなってしまうから…」


 寂しそうにそう言う君の声を聞くと、何だかそれでもいいような気がしてしまった。

 だけど、寂しいけど**くんには生きて欲しい、その言葉が僕に突き刺さった。


 まるで鋭利な鎌のように、身動きを縛る鎖のように…


 そう言われたらもうどうしようもないよね…

 僕は立ち上がって歩き出した。


 坂は50m程度しか無いわけで君と話しているとあっという間に上の方まで来てしまった。


 坂の頂上には小さな、とは言え坂の手前にあった石の祠よりは大きい、祠があり、その奥には大きな注連縄が頭上3m程の高さにあった。


「もう**くんともお別れだね…」


 君はそう言うと一人、祠へと歩き出した。


「…!まって!」


 僕は君を引き留めようと声をかけたが、君は振り返って僅かに微笑むとそのまま何も言わずに祠へと消えて行ってしまった。


 僕がこのまま何もできずに進んで坂を越えるべきか悩んでいると君の声が聞こえてきた。


「**くん。今日はありがとう。とっても楽しかったよ。最後に私の想い、聴いてくれる?……**くんは生きて。私が見られなかった世界を私に見せてほしいの。……それに、ずっと一緒に居るからね…。大好きだよ」


 僕は君からの想いを聴くと歩き出した。

 いつかこの想いは呪い(おもい)になるかもしれない。

 でも、それでもいいと思ったから…


 君のことが大好きだから


 僕は注連縄の先、ようやく着いた坂の頂上から一歩踏み出した。

 雲の切れ間から光が差すとても幻想的な景色が見えた。

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