最終話 プロローグ・的な・エピローグ!!!
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「おら斑鳩! さぼってねーで働け!」
「っせーな! やるよやりますよ! だーもうやる気でねえ、休みにしろよ」
「この年になって青空教室もないっすよね」
「風紀に入ったてめーを恨め! さあキリキリ動くぞ! この後終業式の段取りもあんだからな!」
桐山にあおられ、斑鳩と田井中がキャスター付きの黒板を運んでいく。
やっと全学年全クラス分の机といすを運び終えた雛神夢生は、滝のように流れる汗をぬぐいながら疲れのにじむため息を吐いた。
「お疲れ様。雛神君」
「あ、霧洩先輩。お疲れ様です」
「隣いい? 私も少し、休憩」
「あ、もちろんです」
「塩飴。いる?」
「わ、いいんですか? ありがとうございます」
「……終わるね。一学期」
塩飴を口にしながらサクラ。
夢生が更地になった灰田愛の残骸をぼんやりと眺める。
「……すごいですね。その。裏の方々の手際、というか」
「心配ないわ。彼らはもう、今回の件を地下の不発弾爆発による校舎全壊だと信じて疑わない。そういう仕事には、裏の人間はみんな手慣れてるから」
「(どうなってんだこの世界)……それにまさか、学期末の暑い時期を青空教室で迎えるとも思いませんでした……」
「新鮮だったんじゃない? 校舎が無い学校生活以上に……紀澄風もレピア・ソプラノカラーもいない学校って。今の君にとっては」
「そうですね。レピアがくる以前は、ずっと自分を押し殺しているばかりで。二人がいない灰田愛で、風紀委員のみんなや霧洩先輩と一緒に色々活動して……ホントに色んなことを、考えます」
「……『霧洩』の人達は、ひとまずもう灰田愛に『魔』は残っていない、って結論に達したみたい。もうしばらく、警戒は必要だと思うけど」
「……ありがとうございます。きっと先輩が、色々動いてくれたんですよね」
「――いつかも言ったけど。私はまだ、迷ってる。君を祓うべきかどうか」
「……僕の『力』は消えたわけじゃない。完全にコントロールできている自信もない。当然のことだと思います」
「……もし、私が君を見逃し続けたとして。君はこれから、どうするつもりなの?」
「……風ちゃんを、真似てみようと思ってます」
「まねる?」
「僕にはまだ向き合えてすらいない、大きな『罪』があります。もし生かしてもらえるなら……今後この人生すべてをかけてでも『罪』をつぐなっていきたい。たとえ灰田愛を離れることになっても」
「……過酷だわ。誰も君の『力』を、苦悩を知らない、理解もできない。そしてひとたび『力』を証明すれば、今度は世界に散らばる退魔の勢力が黙ってない。必ず君を『魔』として処理しようとする。『裏』でも『表』でも、君に安息の場所は与えられない。その上で、相手のさじ加減で命だって差し出さなきゃいけない『償い』なんてものを、君は今後の人生で一生続けていこうというの?」
「それが僕の『罰』、何だと思います」
「……そう」
サクラはそれ以上、何も言わなかった。
雛神夢生が犯してきた罪。
無自覚であったときならばいざ知らず、自分の「力」と「罪」を認識してしまった少年がそんな自分を肯定することなど――「罰」のない人生を求めることなど、できないのかもしれない。
夢生が「魔」でなく、人間としてあり続ける限り。
だからきっと必要なのだ。
彼以外に、彼を肯定してくれる存在が。
「……監視。していなくちゃね」
「え?」
「君が再び『魔』に染まらないように。償いの道を、ちゃんと歩いていけるように」
「……霧洩先輩」
「それでなくても――君の周りには別の火種もあることだしね」
「え゛、」
「さっそく他の女口説いてんなしキーーーック!!!!」
ばさぁ、と。
夢生の前でスカートが広がり――――視界が真っ赤なT バック一色に、染まる。
天使のキックが夢生の顔面に命中した。
「ほぼご?!?!?」
「ったく! ホントちょっとガッコ空けただけですーぐ内なるインキュバス出しやがるんだからこのむっつりスケベは!!」
すっころんだ夢生。
それを見下して――いやほとんど突き出した乳で見えてはいない――笑う、ウェーブのかかった金砂の髪を揺らしてにやける少女。
口のキャンディをカロリと鳴らし。
少年の天使が、帰ってきた。
「――レピア!!?」
「……ただいま! ガッコ終わる時間だからいるか賭けだったけど。やっぱいたか、マジメ風紀委員」
「も、もう大丈夫なの!?」
「いや、大丈夫ってか、身体はどうもないっつってたでしょ。アタシが天下界フケてたのは――」
バキバキにネイルを彩った指をわきわきさせながら、得意げなレピアが恥ずかしげもなくスカートの中に手を突っ込み――太もものホルスターから、バチバチにデコられた白き双銃を取り出し、ガンマンのごとくクルクルとやってみせる。
「愛機ふっかつーぅ!♡ や~んいつ見てもバイブスマジアゲぎゃんかわぴっぴ的な!? ねえ見てみてむーこれ今度ここさー」
「ッ!?!?」
ぐぐぐ、とどこか必要以上に体を寄せ、隣のサクラをはねのけるようにして夢生に近付くレピア。
女の子の香りが少年の鼻をくすぐり、あっという間に赤面させる。
悲しき男のサガである。
だけど今は、そんなことよりも。
「マウント入荷するらしいからさ~、いっそここでもっとモリモリのアゲアゲにしちゃおうかなーって思ってたりするんだけど――ホラちゃんと見ろし!」
「よかった」
「あん??」
蹴られた顔を押さえながら――夢生がニカリと歯を見せて、笑う。
「戻ってきてくれて、よかった」
「ちょ――なにその満面の笑み。アタシのこと好きすぎか?」
「かも!!」
「ひぇっ??!?」
「おかえり、レピア!」
「ッ……ふいうちむーめ。――いなくなるわけないっしょ。アタシはあんたのキューピッドちゃんなんだから」
「……そうだね。そうだったね!」
「銃刀法違反。何度言われれば分かるのかしらね、ミス校則違反」
『!!』
夢生がパッと顔を明るくして、レピアがゲッと顔をしかめて振り返る。
そこにいたのは、レピアとは対照的にカッチリと制服を着こなす委員長スタイルの少女。
「風ちゃんっ!! ケガはもういいの!!?」
「浮気は制裁」
「みみとれるとれる!?!??!??!」
「ハ! 付き合ってもないくせに『浮気』とかヒクわ~」
「おぼこ生娘エセギャルちゃんは知らないのね。こういう恋愛もアリなのよ」
「なッ……?!」
「たいたいたい?!?!?」
耳を引っ張りながら夢生の顔を引き寄せ、微笑んでみせる風。
恋愛弱者はむむむとニラんだ。
「ッむー、マジでやめといた方がいいわよコイツあんたと仲良くなりだしてドンドン性格ユガんでってるの気付いてる!?」
「だって初めてなんだもの、ちゃんと恋愛するのなんて。私も知らなかった私が色々見えてきて――あぁ、だから不意にむーくんと不仲になっちゃうこともあるかも」
「お前ぜってードSだわ!!!」
「だからその時は、しっかり助けてくださいね。私達の天使さん?」
「ッッッ!!!!………………ええ。むーがフラつかないよう、つきっきりで世話してやりますとも。あんたが踏み込めない場所でもね!」
「――――」
「ねえちょっと、久々に会ってそうそうケンカ――」
こめかみに青筋を立てたレピアが、ゆっくりと銃口を風の額に当て。
鋭く眉をつり上げた風が、ゆっくりとレピアの口元のキャンディに手を伸ばし。
二人の少女が恋に燃え、笑いながら火花を散らす。
渦中の少年は、それを見て思わず笑った。
『なんで笑うの』
「いや、なんというか……うれしくって。色々あるけど、僕は結局――――風ちゃんともレピアとも、一緒に居たかったから!」
『――――』
「あれ?」
(……それはさすがにアウト。雛神君)
銃口が、拳が同じ方向を向き。
無自覚タラシなカンビオンは、二人の少女にしっかりブン殴られるのであった。【完】
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ストーリーを読み間違えていたって構いません。
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なので完結前でもエンリョせず。
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