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恋のキューピッド、あの人を撃ちまくれ  作者: はっとりおきな
最終章 好き
60/63

第60話 ぴえん・ぴえん・まる。



 結界けっかいはじける。



『!!』



 緊張きんちょうを失った光のすじが力無くゆるみ、それに続くように天から崩壊ほうかいしていく赤黒い結界けっかい



 途端とたん、結界により外界がいかいから隔離かくりされていた灰田愛はいだめの空間が世界による修正(・・・・・・・)を受け――――りになって地底にしずんだはずの大地がパズルのピースのように修復しゅうふくされていく。



 大きな一枚岩いちまいいわのように突き出ていた魔界まかいは、邪悪な光と共に地にしずみ――――やがてこれまでの濃密のうみつ瘴気しょうきが嘘のように、跡形あとかたもなく消え失せた。



 晴天せいてんの空。



 「魔」の気配は完全に消え、崩壊ほうかいした灰田愛はいだめ散乱さんらんした男子生徒だけが残った。



 天使レピアの、完勝だった。



(――いや)



 レピアが正面、たったひとかけら残った灰田愛の校舎こうしゃ残骸ざんがいに歩み寄る。



 そこに叩き付けられ、かたで息をするのは――夢魔王むまおうヨハイン・リフュース。



「ッ! まだ生きて――」

「だいじょぶよ変態へんたい。トドメ、さすから」



 レピアの背後から、彼女の肩越かたごしにヨハインを認識するサクラ。

 背中から放出されるわずかな魔力を光らせて、レピアがかろうじて銃の形を保っている最後の一挺いっちょうをヨハインに向け――――



「ッ俺を殺すと本当にお前は恋破れるぞッッ!!!!!!」

「――――」



 ――一瞬。



 レピアがピシリと、確実に動きを止め。



 その小さな小さな衝撃しょうげきで、彼女の銃は完全に壊れた。



「――――くそが」

「誰にも愛されることのない絶望をお前は知ったはずだろう!! だからちてもいないのに俺に性奴隷せいどれいあつかいされてもあやつられて、そうやって言い訳を作(・・・・・・・・・・)ってまで(・・・・)夢生むうを自分のものにしようとしたんだろう!!?」

「くそが、くそが、くそが――お前、なんでこのタイミングで、この。バカなアタシ、」



〝レピア〟



 ヨハインが命乞いのちごいをしながらその目をいからせ、せめて天使を道連みちづれにする最後の力をため始める。



「ホントにそれでいいのか!!? お前は誰からも愛されないまま、この先も進んでいけるというのか!? 親にも好きな人にも――お前が愛した者達誰一人からも愛されないままたったひとりでこの世界を!!!!」

「ッッアタシはキューピッドで――!!!!」



〝いいんだよ。アンタたちのためになるなら〟



「――――っ――――」



〝ごめん。アタシまた――〟













「――いいわけ、ないでしょ」

「――――」

「――レピア」













 聞こえない声で、夢生むうがつぶやく。

 ヨハインがもはや笑みを隠さず、眼を見開いていく。

 その目には、



「――――なんだ。それは」

勘違かんちがいすんなよ。アタシはもう、嘘を吐きたくないだけだ」



 苦しそうに辛そうに悲しそうに切なそうに、いかり顔で涙を流す一人の、金髪ギャル。



「知ったよ。あんたのせいで、イヤというほど。お前っていう存在のつらみ――愛されるためだけにあ(・・・・・・・・・・)がくこと(・・・・)の辛さを」

「――やめろ」

「それが夢魔むまと人間の違いなのかもね。アタシ天使だけど。一番『好き』に近いようでいて一番遠い。あんた達は愛されたいばかりの化け物で、愛することを知らないから。……いや(・・)、」

「そんな目で、」

あんたはもう知ってる(・・・・・・・・・・)んじゃないの(・・・・・・)?」



 レピアが。



 壊れ、もはやグリップしか残っていない双銃そうじゅう同士どうしを――近付けていく。



「俺にあわれみを向けるな……天使風情(ふぜい)がァああああ……ッッ!!!!」



 赤き光がヨハインの手をおおう。

 夢魔王むまおうが最後の力をもって――――レピアに打ちかからんと、ゆっくりと、体を起こしていく。



 レピアはコチ、と双銃そうじゅうのグリップ同士どうしをぶつけ。



「! レピア――」

「アタシはもうビビらない。『好き』をヒヨらない」



 背の光を、すべて手元に収束させ。



愛される(・・・・)ためじゃない」



 光の矢を(・・・・)ひきしぼる(・・・・・)



愛する(・・・)ために生きるんだ。アタシは」



 光の矢が。



 ヨハインのハートを、まっすぐに射貫いぬいた。



「――――――――」

「――とう、さん」



 呼ばれた、気がして。

 霧散むさんしていくヨハインの眼が、ゆっくりと息子をとらえる。



〝あんたはもう知ってるんじゃないの?〟



(……ああ。先の撃ち合いで負けたのは……俺が力を弱めたから(・・・・・・・・・)――)








「――いな



 ――――夢魔王むまおうは、カンビオンへ(・・・・・・)ニヤリと笑い。



「……大したもんだ。わずかとはいえ、この夢魔王をとしてやがったとはな――夢魔王子むまおうじよ」

「……!!」



 どこか満足げに、笑って。



 夢魔王ヨハイン・リフュースは、完全に消滅した。


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