第59話 天に・かわって・おしおきよ
「ほざけッ!!」
ヨハインが無数の黒き杭を展開。
ならい、周囲の夢魔らもそれぞれに杭を空に並べ――もはや避ける隙もない数が灰田愛上空を埋め尽くす。
その中央でレピアは、
「すっくな」
――天使はもう片方の銃から、極光の間欠泉を放つ。
「ッ!!!? あ――あの天使を撃ち殺せッッ!!!!」
直線的らせんを描き天へ昇ったのは、一瞬。
直後、空気を引き裂く音をたてながら、まるで流れ星のように降り注いだ光が天使へ向け放たれた杭を、放った夢魔達を――――片っ端から撃ち抜き穿ち霧散させていく。
「ぐおおおおぉぉおおおッッ!!!!?……お、ぁ?」
「――――」
一発がヨハインの頬をかすめ――――夢魔王を笑わせた。
「は、はは……そうかそういうことか! メスお前――さては『神性』を失っているな!?」
「……」
「考えてみればそうだ、なにせお前は夢生に完全に堕ちたのだから! バカなメスだ、力を得る代わりに我らへの絶対的特攻能力を手放すとは!! これでお前は――」
「そう、あんたを一発で殺せない。だから嬉しいよ」
「!?」
「これでマンゾクするまで――あんたをひしゃげたハチの巣にできるんだから」
天使の♡が妖しく光る。
翼から伸びた光の帯を、天使の銃はあっという間に吸い込んで。
両手を広げて撃ちながら、天使が滑空した。
「ッ!?」
肉薄したレピアの撃ち切られた銃と、ヨハインの爪が激突。
結界の壁を滑り駆け昇る光の弾の中心で、激しい金属音を奏で繰り広げられる応酬。
「ッ……ッははは!! あんな無造作に撃って、今にお前や仲間にも――」
「アタシの弾に無駄弾ないから」
天から閃光。
「ッ!!!!?」
楕円状の結界を正反対の場所から駆け昇った弾丸が天井で激突、互いを弾き合い――――跳弾。
跳ねた光弾が雨の如く降り注ぎ――――もはや地で、空で踊り惑うばかりの夢魔達を片端から撃ちまくる。
弾丸はヨハインにも降り注ぎ、
「ぐあッ!?」
動きを、
「ックソ忌々っ、」
邪魔し、
「しい――絶対っっ、」
天使は、
「――ッ空間把握がァああああああぁぁぁッッ!!!!!?」
いっそ軽やかなまでに――――弾にかすりもせず悪魔を銃でメッタ打ち、吹き飛ばした。
「うぅッッ!!?」
「あんたがしたみたいに、」
ぐん、と下半身が突っ張り体が止まる。
尻に激痛。
振り返るまでもなく、尻尾の先を天使に踏みつけられている。
天使はそのまま、
「アタシもう、」
零距離の弾丸で、尻尾を根元から焼き切った。
「づァァアァァアアァァァア――――アアアアッッッ!?!?!?」
「あんたのすべてをッッ、」
二発の弾丸が、ヨハインの翼の根元を貫き。
真正面に構えられた双銃が、
「ヘシ折ってやらないと気ィすまないから――!!!!」
その銃口から放たれた二弾が――――ヨハインの精巣を、粉砕する。
「ンぎゃァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァアアァァァアアアッッッッッッ!?!??!????!」
受け身を取る、余裕もなく。
夢魔王ヨハイン・リフュースは地を乱れ転げながら、顔から校舎の壁へ突っ込んだ。
「ぶが、げ……クゾ、」
ヨハインはよつんばいの姿勢から立ち上がり、
「メスゥゥゥウゥウウゥウウウウッッッ!!!!!!」
地底から漏れ出る魔界の光を――――その身に吸収し始める。
「!」
「ぐぶぅぅうゥゥウウウウうぅウゥゥい、いびぴぴィ――ふえる増え、裂け――」
「(メチャクチャな魔力……!!!)ッ、あァあああああ――――!!!!」
収束する。
体の所々をヒビ割れさせ、脈動する体の内側から赤い光を漏らし始めたヨハインの広げた手の前に、空間を歪ませるほどの赤黒い闇。
頭の天使の輪を急速回転、翼から幾筋もの光を銃身に収束させ、双銃を合わせて突き出したレピアの銃口の前に、白き閃電を伴い空気を鳴らす純白の光。
ヨハインの角が欠け落ちる。
天使の銃にひびが入る。
「屈しろメスゥウウゥウウウウウウッッッッ!!!!!!!!!」
「失せろ悪魔ァァアアアアアアッッッ!!!!!!!!」
瞬間、極光が皆人の視界を奪い。
光と闇が、空気をズタズタに引き裂きながら激突した。
「ぐぅウウうウアアアアアァアアアアッッ!!!!」
「あああああぁぁッッ!!!!!」
「ッわ――!!!」
「……!!」
打ち消し合う光と闇の余波に猛烈な砂嵐が巻き起こり、皆の視界を塞ぐ。
何も見えなくなる。
だから思わず、夢生は砂嵐に飛びこんで。
「ッ!? 雛神君ッ!」
「むーくんッ――」
「がんばれっ、」
天使と悪魔に、叫んでいた。
「がんばれレピアッッ!!!!」
「!」
「ッ……!! ッ、よーーーーーーーいちょまるゥぅううう――――ッッッ!!!」
銃身が吹き飛ぶ。
こぼれた光が弾ける。
レピアの叫びに、呼応するように。
否、あるいは、それは。
「――――――――」
光が闇を、食い破り。
光の奔流に、夢魔王は灰田愛ごと飲み込まれ――――爆発、四散した。
「……天使の、羽」
爆散した光が――レピアの羽が砂を吹き飛ばす風と共に、風らの下に舞い落ちる。
それは風の手の上で、ちりとなって消えていく。
晴れていく砂塵の下で――天使の翼は、とても小さな光になっていた。
「はあっ、はぁっ、ッ……ハァア……!!!」




