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恋のキューピッド、あの人を撃ちまくれ  作者: はっとりおきな
最終章 好き
57/63

第57話 最後・の・恋堕



「なんとか……なんとかできませんか霧洩きりえ先輩っ」

「……傷を治癒ちゆするなんて、私には……」

「レピアッ!!」

「ぁ――や、あ。アタシも、そういうのは――」

「……むー、く……」

「!!! 風ちゃん!」

「……わたし、の……ことは……」

「っ――できるワケないだろそんなこと!! 見捨てられるもんかッ! 僕が君を絶対――」

「そう、対処たいしょしないといけない問題は紀澄きすみの傷だけじゃない」

霧洩きりえ先輩ッッ!!!!!!!」

「落ち着いて。夢魔王むまおうを――ヨハイン・リフュースを倒さないと、どの道私達は終わり。なんだよ」

「そんなこと――」

雛神ひながみ君は、その……つの尻尾しっぽが消えたよね? 私も今の君からは、ほとんど『魔』の気配を感じない。君は私達を助ける過程かていで、力を使い果たした。そういうこと。よね?」

「ッ――……そう、だと思います。つの尻尾しっぽが消えたのはたぶん、レピアの弾丸を受けたからだと」

「……『神性しんせい』は『魔』にだけ作用して、君の人間の部分は浄化じょうかしなかったってこと、か」

「はい。だから、僕にできるのはもう――せいぜい、あと一度この眼を使うことくらいです。霧洩先輩はっ、」

「……うん。私も正直、もうこうして座っているのも精一杯せいいっぱいなくらい」

「……すみません。僕が思い切り攻撃したから――」

「ううん。そうしなきゃ、私はきっと今もヨハインに操られていたから……きっとそれは、今もみんな同じ(・・・・・・・)



 サクラがひざこぶしを握る。

 そう、相手は夢魔むまの王なのだ。

 下手へたに飛び出せば、今度は全員がヨハインの恋堕れんだに堕ちる可能性さえあった。



 時が過ぎる。



 刻一刻こくいっこくと過ぎる。



 過ぎるほどに、ヨハインは魔界まかい瘴気しょうきで力を回復し――――紀澄きすみふう容体ようだいは悪化していく。



 夢生が顔をせ、かんしゃくを起こしたように、叫んだ。



「ぁぁあああぁぁああああああっっ!!!……何が魔眼まがんだ何が化け物だ、何がカンビオンだッ……!! 結局僕はまた肝心かんじんな時に、好きな女の子ひとり、救えないんじゃないか……!!」

「ッ――」



 ……そんな場合では微塵みじんもないのに。

 レピアの胸は、またシンと小さく痛む。



 そして脳裏のうりをよぎる思い――このままふうが死ねば、夢生むうは自分に振り向いてくれるかもしれないという、あまりにも身勝手みがって罪深つみぶかい考え――に、罪悪感ざいあくかんで打ちのめされる。



(いっそ、この身を犠牲ぎせいにしてみんなを助けられるなら、よかったのに)



「――――――――、」



(……そうだよね、神ぴ。きっとそれが、アンタがアタシに与えてくれたばつなんだよね)








「…………ねえ、むー。堕としてよ(・・・・・)。アタシを」








「――――え?」

地味子じみこの奴はさ、アイツにとされたことで、これだけ重症じゅうしょうでも動けてた、ってことだよね。消耗しょうもう以上の力を、使えてたってことっしょ?」

「――そんなこと君にさせ」

つばさ全開ぜんかいのアタシなら地味子じみこを助けられる。試したことはないけど――――全力の天使の力なら、傷が癒せる可能性はあ(・・・・・・・・・・)()

「――――れぴ、」

「本当なの? レピア・ソプラノカラー」

「アタシ、こう見えても天使だから。本当は、今みたいにボロボロじゃ両翼りょうよくなんて出せないんだけど……むーがアタシを、あいつと同じくらいとしてくれたら、きっと」

「でもッ僕そんな――そんなことしたらっ、戻ってこれるかどうかも分からないんだよ!? 解除できたって、君にどんな影響えいきょうが及んでるかも分かんないのに――」

「いいんだよ。アンタたちのためになるなら」

「そんな――」

「ああ違う。違うわ。ごめん。アタシまたウソついた(・・・・・・・・・・)。アタシ好きなんだ。あんたが」

「――――え、」



 力無く微笑ほほえみながら。



 レピアは泣いて、夢生を見る。



「でもわかってんだ。アタシじゃだめだって。だってアンタ好きなんだもん、紀澄きすみふうが、取り付く島もないくらい。ずっと隣で見てたからわかるもん――――アタシの方が今もこんなにむーのことが好きなのにっ」

(…………ああ、)

「だからねっ……これはあんた達のためにやるんじゃない。自分のためなんだ。選択肢せんたくしがない今くらい、アタシはあんたに選ばれたいだけなんだ」

(僕はまた――いやきっとこれからも、こうして、)

「壊れたっていい。戻ってこれなくたっていい。またあいつのものにされるくらいなら――――アタシは一瞬だけでもむーのものになりたい」

(罪を重ねていくんだろう)

「アタシを選んで。夢生」

「……わかった」



 ――泣かなかった。



 雛神ひながみ夢生むうは泣かなかった。



 泣いては、きっと彼女にこれ以上の罪を共に背負わせてしまうから。



「こっちに来て。レピア」

「……うん」

「もっとだよ」

「うん」

「見て。僕の眼を」

「――うん」



レピアが、夢生の首にうでを回し。



「きて。むー」

「……いくよ」



 夢生が、レピアの中へと入っていく(・・・・・)



 レピアの嬌声きょうせいが、響いた。



「っ!!? ちょっとレピア・ソプラノカラーッ……!?」



 思わずサクラが口をはさんでしまうほどに場違いなあえぎ声。

 その恵体えたいを目いっぱいにエビ反らせるレピアのこしかかえ、夢生はレピアを見下ろすようにして彼女に入り続けていく。



(なにこれきもちいっ――あいつにやられたときと比べものにっっ――――って、)

「ぐぅッ……ううぁああああ……!!!」



 ――届かない(・・・・)



 狂おしいほどの快感かいかん倒錯とうさくを与えてくる夢生だが、それ以上にはいたらない。

 レピアの奥まで届かない。



 夢生にはもう、力が残されていない。



恋堕れんだ……できないッッ……!!!)



 夢生の眼で、桃緑とうりょくの光が不規則ふきそく明滅めいめつする。

 巻き起こっていた魔力の波動はどうが落ち着きを取り戻し、ゆっくりと――



(――夢生がアタシを好きじゃないから?)

(――僕が風ちゃんを選んだから?)



 ――罪悪感ざいあくかんが、二人の胸に広がっていく。



 もはやひとかけらもすれ違わない気持ちだからこそ、その事実が――――決して結ばれることはないとわかりきっている二人の気持ちを、決定的にかけ違えさせていく。



 足りないのだ。



 互いをだますのに、この程度(・・・・)では。



「ッ――――こんなんじゃたりないよっ、」

「レピア――――レピアッッ!!」

「もっとちゃんとアタシを求めてよ――――ッ今くらいちゃんとアタシを奪ってよッ!!!」

「ッ――――」



 そうして少年は少女に――――生涯しょうがい消えない傷跡きずあとを残す。



 夢生はレピアに無理矢理むりやり、口付けた。



『――――――』



 ()がそれを、見て。



 灰田愛はいだめは、本格的に崩壊ほうかいを始めた。


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