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恋のキューピッド、あの人を撃ちまくれ  作者: はっとりおきな
最終章 好き
54/63

第54話 「好き」・が・故に



「チ――畜生ちくしょう畜生ちくしょう畜生畜生ォォォオオオオオッッ!!!!!!」



 血管が弾けそうなほどに顔をいからせらせながらたじろぐヨハイン。

 夢生は目を見開いて笑いながらヨハインにせまろうとして、



 その足元に、弾丸を撃ち込まれた。



「!」

「――……落ち着け……落ち着け~~~~。そうさ……俺は今までだってそうやって二十年、生き残ってきたんじゃないか……!」



 夢生が顔を上げる。

 その先には、銃口をぐ夢生へと向けるレピアの姿。

 そして、



「いいだろう、認めやるよ。個としての能力は、どういうわけかカンビオンのお前の方が上らしい――だがお前は勝てない。なぜならお前は――――どこまでいってもたった独りの悪魔だからだ」



 桃色の光にふちられた目で立ち上がる、ふうとサクラの姿。



「そうか。お前達も俺を守るために戦ってくれるか。俺に死んでほしくなくてッッ、夢生むうを殺したくて殺したくてたまらないか!!!」



ヨハインが手を広げ、合図する。



「いこうぜみんな――――一緒にあの悪魔を殺そうぜッッッ!!!!」



 レピアの銃が。



 夢生むうに向け、光を炸裂さくれつさせた。



「――!!」



 土ぼこりを爆発させ、走りだす夢生むう

 光の銃弾は曲線きょくせんえがきながら次々と夢生が一瞬前まで立っていた場所をとらえ、もはやたがやされきった灰田愛はいだめの運動場を土煙つちけむりで埋め尽くしていく。



「ははははははッ、おどおどれ!!! お前の体は今どんどん悪魔に近付いている。そこに『神性しんせい』の宿る天使の力を撃ち込まれようモノならッ、一発で消滅しちまうかもなぁ!? そして用心しろよ、」



 土煙つちけむりを破り。

 夢生の正面に、霧洩きりえサクラ。



「『天敵てんてき』は天使一人じゃない」

「!!!」



 夢生の下げた頭上スレスレを、鉄剣てっけんが通過する。

 そこに込められた浄化じょうかの力は、ほぼ人間だったときの夢生でさえ持ち運ぶことができないほどで――



 重いりが、深々(ふかぶか)と夢生の横腹よこばらつらぬいた。



「が、は――!!!?」



 りにより切り払われた土煙。

 まっすぐ伸びた白く細い足の主は、紀澄きすみふう



 夢生は運動場をほぼはしからはしまで吹き飛び、地面をえぐりながら灰田愛はいだめおおう結界に激突した。



(おかしい――いくらなんでもふうちゃんの蹴りにこんな威力いりょくはッ)



 視界で光る鉄の点(・・・)



「!!!」



 首をそらし紙一重かみひとえぐ顔面をつらぬこうとした鉄剣てっけんを避ける夢生。

 そのまま首の方向へ逃げようとして、



 目の前に、ふう



はや――)



 り出されたこぶしを辛うじて避けて両手をつかみ合い、手四てよっつの体勢になる。

 夢生は気付いた、



「ッ!!! ふうちゃ――」



 風の血が、いまだ制服のシミを広げつつあることに。



(血が止まってない――いや、ムリヤリ力を使わされて傷が開いたのか!?)



 風が手を引き身をかがめ。

 膝蹴ひざげりで腹部を、頭突ずつきで夢生の頭を打ちすえる。



「ッ゛、ぁ――!!!」



 いで首への追撃。

 的確てきかくに急所を突いたその連撃れんげきに、頭で地をすべるようにして吹き飛ぶ夢生。



 土を払い顔を上げたその視界、上空には――両手に持った双鉄剣そうてっけん投擲とうてきするサクラの姿。



(おかしい――いくらなんでも霧洩きりえ先輩にだってあんなジャンプ力はない! やっぱりそうだ、恋堕れんだで操られた人間は実力以上の――)



 「神性しんせい」を察知。

 飛来したレピアの弾丸を鼻先でかわし、飛び退すさる夢生。



「ははははは……さっきまでの威勢いせいはドコ行ったんだ、ええ!? 防戦ぼうせん一方いっぽうだな夢生ッ! お前の言う通りかもしれんな――『好き』は心で思うものッ! だからこそお前はメス共に手も足も出せず俺に負けるんだからなァ!!? まったくもって害悪な感情だよ『好き』ってのは、理解できね~~~!!」

「ッ……!」

「そしてどうだ?」



 口をけんばかりに広げ、ヨハインが笑う。



「そろそろ疲れたろう。食べたいんじゃないか(・・・・・・・・・・)? そのメス共を(・・・・・・)

「――――!!!!」



 ――夢生の下半身が、熱を持ち。

 口内が、やけに粘性ねんせいの高い唾液だえきで満たされ始める。



「ぐっ……ううううっ……!!」



 体に刻まれた紋様もんようが光り、広がっていく。

 両眼りょうめが強い光を放ち始め、夢生を更なる「魔」へと――――人間を捨てろと訴えてくる。



 それは化け物としての本能。

 抵抗ていこうしようとすればするほど――



「くあッ――ァァアアアアアッッ!!!?」



 三度、風の痛撃つうげきを受けて吹き飛ぶ夢生。

 なんとか受け身を取り起き上がろうとした瞬間、飛んできた鉄剣が肩口かたぐちで――――人間態にんげんたいの時とは比べ物にならない、神経をほじくるような痛みが体を焼く。

 動かない体に鞭打むちうち、なんとか飛来したレピアの弾丸を避けていく。



「はっは。いくら個体として強かろうが、こう多勢たぜい無勢ぶぜいではどうしようもなかったな。さあて、本来俺にはお前らに時間を割く余裕なんてない――――終わりにさせてもらうぞ」



 ヨハインが指を振る。



 夢生を追い詰めるレピアらに、サキュバス達が加わっていく。



 サキュバス。


 サクラ。


 風。


 レピア。



「ッ……ァ、が――――うあぁッ……」

「終わりだ。夢生ッ!!!」

「…………ああ。そうさ。食べたくて食べたくてたまらない。だから、」

「――!?」



 夢生は思っていた。



 自分にはまだ、ヨハインのように羽もない。爪もない。牙もない。



 だからまだ、途中(・・)だと。



 「魔」は自分に、更なる力を与えてくれ(・・・・・・・・・・)る可能性がある(・・・・・・・)と。



食うことにするよ(・・・・・・・・)。俺の力で、何もかも」


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