第52話 夢魔・の・王子
「ぐぎゃ――あぐああ゛ッッッッッッッッ!!!?」
ぐりぐり、と右腕がすり潰される。
骨折もなにもなくなって、夢生の右手がただぐちゃぐちゃに踏みにじられていく。
ヨハインは次いで夢生の脳天を踏みつけ、あごから地面に叩き付ける。
衝撃で夢生は舌を噛み破り、奥歯がすべてひび割れた痛みを感じた。
「みじめだな。どんな能書きを垂れても、結局力を持たないお前はすべて奪われる。そこで見てろ。俺に堕ちたこいつらが、俺を求めて媚び始める様を」
「!!!!? な、ナニを゛ッ――」
うつ伏せに倒れ、顔だけを自分の方へ向ける夢生の前に。
ヨハインは、三人の女を並べ――黒き杭で夢生の腹部を貫き地面に縫い付けた。
「うああああアアアアアアッッッ――――!!!?」
「起きていいぞ。レピア」
ヨハインの合図で、レピアの闇の翼が消失。
彼女は風やサクラと同じように、膝から崩れ落ちた。
「――――ぅ……あ……?」
「ッッ!! レ゛ピアッ……!!!」
「むー……? えっ、むーッ!? ちょっとえ何、アタシ――――地味子? 変態!?」
「レピア……」
地面に倒れ、意識を覚醒させたレピア。
風が辛うじて残っていた――否、夢魔王が残した意識で彼女の名を口にする。
「ほお。やはり紀澄風は雛神夢生が好きか」
『!!?』
「そうかそうか、デートがしてみたいと。元カレと何が変わるのか知りたいと。おお、そうかそうか、笠木の奴に初めては差し出さなかったのか!? 愛をたっぷりくれてやっただのなんだのと、強がってたんだな笠木は、はは!! こいつは楽しみが増えた。処女の精気と愛液はまた格別な味がするからな」
「……や゛め゛ろッッ、」
「感謝しろよ? お前達下等種が心だのなんだのとゴタクを並べ距離を測る手間を、この夢魔王が自ら省いてやろうってんだから」
「やめ゛ろぉッッ――!!!」
「はァん? そうか、サクラお前、小学生の頃にオナニーに目覚めたのか!? そりゃまた早かったなぁ!? 初恋の人は誰だったんだ? もったいない、汚い自分には不釣り合いだと自ら遠ざかったのか!? それで? 夢生相手にはどうだったんだ?――――ハハハァ、そうか!! 夢生の臭いで昂ってオナったのか!? とんだ変態女だ、なァ!? 相手がカンビオンだったとはいえ、祓魔の娘が知り合いでもない男のしかも悪魔の臭いで発情するとは!!! 退魔としても人間としても奇形すぎるが――俺の性奴隷としては上等だな」
「もう、や゛め……ッ」
「そしてレピアァ……なあ夢生。お前は彼女の何を知りたい? 俺が何でも答えてやるぞ、何でも。経験人数か? 性感帯か? バストサイズか? 昔みたいに名札の裏にでも書いてやるか? それとも膣の形か? 俺はレピアのすべてを知ってるぞ!!!!」
「やめろって言ってるんだッッ!!!!!!」
「すごいだろう、素晴らしいだろう嫉妬するだろう!? 俺達夢魔は堕とした者が恋堕に染まれば染まるほど、そいつのすべてを知ることができる!!! 記憶も意識も快感もすべてを意のままに操れる!! 最高の眼さ、他の種族は決して得ることができない神のごとき力さ! 恋堕が深まれば深まるほどに――俺はこいつらの神になれる。こんな風にな」
ヨハインの恋堕の魔眼が、輝きを増し。
「イけ。俺のメス共」
三人の少女は、一人残らず絶頂した。
「ふぁああああああああああああああッッッッ!!?!!?!?」
「くぅぅうううあああああああああッッ――――!!!?」
「ほぉおおお゛おおぉぉおおぐぅううっっっ――――!!!??」
「――――――――、、、、」
「ハッハハハハハハハハハ!!!! 聞いたか夢生ッ、あぁ!? 今の声!! 聞いたことあるかこいつらのこんな声! こんな顔をッッ!!!」
「――――――――か。ぁ、」
――夢生の頬を涙が伝う。
三人の少女が、すっかり頬を上気させた女の顔を夢生に向け、放心している。
「はぁぁ゛たまら゛ん……行きずりで食った、顔も頭も体も女として無価値に近かったお前のカスみたいな母親とは比べ物になんねえぞ、夢生。お前もこの最高の景色を拝みたかっただろうな? 今なぁ? 三人の極上の女が、みんな俺に物欲しそうにケツ振ってメス汁にじませてやがるんだぜェ!!!? オラ休んでんなッ、またイけッッ!!!!」
「ハァぁあああああああああおああああああああッッッ――――!!!!!!」
「~~~~~~~ぐぅいギァああああああああああああああっ、っ、、、っ!!!!!」
「ふぅうう゛ううぅう゛う゛うううううう゛う゛うっっっ!゛!!!!!!!!」
「オラどんどんイけッッ!!!! アヘ顔さらしてイキ狂えッッッ!!!!」
「まだぎだァああああ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁあ゛あああ゛あ゛あ゛あ゛あッッッ!!!!?!?!??」
「いッッグ、や、がはァァアああああああああああああああッッ!!!!!!!?」
「あああああああはああ゛あ゛ぁ゛ぁ゛んッッ…………!!!!」
「かッハハハハハハハハハハハァァァアアアアアア!!!! 見てるか夢~~~生ゥ? 粗チンおっ勃てて独り床オナでもしてろやァァァ!!!! そらイけイけイけイけイけイけェぇえええええええッッ!!!!」
「――――――――――――――」
「ハァア……さあて、一人ずつほぐれ具合を確かめてってやるよ。俺のコレでな」
「――――グ。ごぼげ……」
――夢生の口から、血に混ざって吐瀉物が吐き戻される。
腹の傷が痛む。
何かが体の中を侵食していく。
右手の感覚が無い。
意識もすでに遠のきかけている。
だが粗チンはおっ勃たない。
ピクリとも反応しない。
それどころか、体の熱は生気と共にどんどん冷え切って――――冷たい涙が、あふれて止まらない。
こんな状況に何も抵抗できない自分が、悔しくてみじめで情けなくてたまらない。
心がどんなに叫ぼうと、歯を失い舌がちぎれかかっている状況で、もはや言葉ひとつあげることさえままならない。
〝許さないために私達はここに来たんでしょう!? それがあなたの『罪』へ向き合うことでしょう!?〟
「――――――、」
そう。
夢生はヨハインを許さないためにここへ来た。
それが雛神夢生の『罪』に向き合うことだから。
最後まで戦い続けることが、そのために夢生にできることだったから。
(でも、もう僕に戦うことなんて――)
〝どんな力も、使い方次第……ってことなんじゃ、ないのかしらって〟
「――――――、」
――残っていた。
考えてみれば、夢生はまだ一度も「その力」を受け入れたことは無かった。
忌み嫌い、拒絶し、それが人に影響を及ぼさないよう、ただ努めてきた。
(この力を使えば、僕はあいつと……あのときと同じになって――)
「ダメダメダメぇぇええぇえぇええええええええッッッ!!!!!!!!?」
「ああああああうぅあア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛――――ッッッ!!!!!」
「ひぐゥうううううううううううっっ……ぁは……!!!」
「オラ。孕まされたい奴から自分でマ〇肉開け。メス共」
――――――奥歯が、砕けた。
(違う)
違う。
関係ないのだ。
罪とか力とか「好き」とか、そんなものはどうだっていい。
理由など毛ほども必要ない。
シンプルだ。
だって目の前のクソ野郎を、黙って見ていていいハズがない。
(この男を――――)
レピア達を今助けない理由なんて――雛神夢生には一つだってありはしない。
(――ブチのめせるなら、なんでもいい――――!!!!!!)
今この世に。
夢魔の王子が、生れ落ちる。
「コレが欲しいだr――――――」
「――なよ」
――剛直を剥き出しにしたまま、ヨハインが止まる。
顔にはりついていた高揚が一瞬にして吹き飛び――夢魔王はそれを見る。
右手で地に手を着き、今まさに起き上がろうとしている少年を見る。
「――――――何、だと?」
「二度言わせるなよ、」
少年の眼を。
「それ以上――」
雛神夢生の、両側頭から下向きに付き出でた真っ黒な角を、見る。
「僕の女に汚い手で触るなって言ったんだよ」




