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恋のキューピッド、あの人を撃ちまくれ  作者: はっとりおきな
最終章 好き
51/63

第51話 今・ここにある・好き



「――――――――…………あれ」

「……ん?」



 ヨハインがまゆをひそめる。

 クピドの矢が、夢生むうに向けられたまま――



「……レピア……!?」



 ――動かない。



 クピドの矢を――狙い撃つだけで「好き」を操ってしまう最強の矢を、しかしレピア・ソプラノカラーはがんとして夢生むうへ解き放とうとはしなかった。



「どうしたレピア――撃て。撃てッ!!!」

「ッ――――」



 ヨハインの眼が光る。

 レピアの目が光る。

 わずかに身動みじろぎするも――それでも放たない。



 レピアは無表情に涙を流しながら、その矢を夢生に向けながら――何かを懸命けんめいにこらえ、身体を小さくふるわせている。



 それが夢生にも、痛いほど伝わって。



「バカな――これほどまで俺の恋堕れんだと魔の瘴気しょうきかっておいて――撃てレピア。撃てッ!!!」

「ッッッ――」

「悔しいんだろう? 悲しいんだろう? 切ないんだろう? 何を耐える? 何を願う? 何を差し出すつもりでいる? 何を我慢がまんしてもお前にはこの先絶望しか与えられないんだぞ!? お前の『好き』は一生(むく)われないんだぞレピアッ!!! そうやって、一生泣いて暮らすことしかお前には――」



 手が。



 クピドの矢じりを(・・・・・・・・)つかむ(・・・)



『!!!?』



 つかまれて、ようやく夢生もヨハインも気付く。



 矢じりをつかんだのが――とうに死んだはずの紀澄きすみふうであることに。



「メス貴様――その傷で何故生きてどうやってここまでッッ」

ふうちゃん――!!?」



 傷が浅いわけではない。

 制服は真っ赤な血に染まり続けており、出血量が危険域きけんいきに達しているのは明白だ。



 しかしそれは、あれだけの撃たれ方をした人間のそれには程遠ほどとおい。



「メスが――練気れんきを防御に一点集中させていたか小賢こざかしいッ、」

「……そのまま返してやりなさい。むーくん」

「!?」

「この化け物には一生(わか)らないわ。レピアが泣いている理由なんて」

「!!!」

「間違ってるよ、むーくん。あなたの『罪』を都合よく利用しようとしているだけのどうしようもない悪魔のささやきなんて、聞いてやる必要ない」

「――何?」

「あああああッ!!」



 白き闘気とうきをまとったふうが、クピドの矢じりを握る手にありったけの力を込める。

 桃色の光が散り――クピドの矢に集っていた空間がゆがみそうなほどの魔力が、その勢いをげんじていく。



「むーくんがレピアに撃たせた? 灰田愛はいだめを壊した? すべてを都合よく操れる魔眼まがんを好き放題行使できる化け物が何を言ってるんだか。単純たんじゅんな話でしょう、むーくん!」

「……!」

「全部この化け物よ。灰田愛はいだめを壊したのも私を撃たせたのもレピアを操って彼女の気持ちを好き放題暴露(ばくろ)したのも、全部この化け物がやったことだよ!! それを許さないために私達はここに来たんでしょう!? それがあなたの『罪』へ向き合うことでしょう!?」

満身創痍まんしんそういのメス一匹が何を――」



 鉄剣てっけん飛来ひらい



 ひびの入ったクピドの矢をつらぬき、破壊した。



『ッッ!!?』

「――紀澄きすみの言う通りだわ。雛神ひながみ君」

「ッ、あのメス――」



 夢生の振り向いた先。



 鉄剣てっけんを投げた姿勢のままふらついている霧洩きりえサクラが、まっすぐに夢生を見る。



「あなたは今、罪の意識をいいように使われて『洗脳』されかかってる。きっと奴の魔眼まがんの力が、まだ少し作用しているんだわ――雛神ひながみ君は正しいわけではないかもしれない。でも」

「チッ、なけなしの耐魔力たいまりょくでの抵抗ていこうか――やかましいぞ、黙って俺にはべってろメスッ!!」

「ッァああ……く……!! 私の、この力は今まで――私の逃げの、証だった。でも今はッ――こうして、本当に許してはいけないものと戦うために役立つことを、ほこりに思うッ!」

霧洩きりえ先――」

「そうだよむーくん――今裁かれるべきは君じゃない、罰されるべきは君じゃない!! 裁かれ罰されなきゃいけないのは――――今君の目の前にいる、人の心が解らない(・・・・・・・・)目の前の悪魔だよッ!!!」

「――心――」

「そうつまり雛神ひながみ夢生むうのことだッッッ!!!!!」

「あっ……!!?」



 先のサクラと同じように、風の顔をつかむヨハイン。

 風が絶叫し――――恋堕れんだとらわれ、地に崩れ落ちた。



 サクラが投げた二撃目の鉄剣をいかった目でにらみつけてかわし、ヨハインがサクラの背後から無数の闇色やみいろの手を発生させ――己の足元まで突き飛ばし、再度魔眼をきざむ。



「チッ……どいつもこいつも無駄な抵抗ていこうをッ! レピア! もう一度だ、もう一度クピドの――」

むなしいよ。お前は」

「――何?」

「ずっと引っかかってた。やっとわかったよ。この眼で人を操って、好き放題に振る舞って――そんなもので満たされるわけないんだ。だからずっと、お前は空っぽなんだ。誰もお前を、心から好きになんてならないから」

「それはお前だろ。誰もお前を好きになんてならない。この眼を否定するお前が――」

「僕は違う」

「違わないね」

「違うんだ」

「違わないんだよカンビオン!」

「解らないんだよ。ひとの『好き』を好きにしてきたお前には」

「解ってないのはお前の方さ。誰がお前を心から好きになった? どうやってそれを証明できる!? 心だのなんだの虚構きょこうをしゃべってるのはお前の方だぞ罪人!! 『好き』に良いも悪いもないんだよ、『好き』を測ることなんて誰にもできやしない!! だから言葉や行動で表に出されたものだけがすべてだッ!! 故にそれを操れる俺はこの世で最も好かれることができるッ、世界の頂点にさえ君臨できる――」

「そうだ『好き』ははかれない――――だって『好き』は『想い』なんだからッ、」

「――――何だ?」



 悲愴ひそうな顔の夢生が流す涙。



「何の涙だ、それは――」



 夢魔王むまおうはその感情を、理解できない。



「好きは想いなんだ。人は心で人を好きになるんだ。この眼にはそれがない。お前の行いにもそれが欠片だってない。なんでレピアが僕をクピドで撃たなかったんだと思う?」

「その涙はお前が『好」

「レピアの心がこんなこと望んでないって叫んでるからじゃないかッッ!!!!」

「……夢、生……」



 ――――レピアの目が一瞬、輝きを取り戻し。



 右手をつぶくだかれた夢生の絶叫ぜっきょうで、その目は再び闇へとちた。



「……そうやって、犬みたいに一生くだらねえ所をぐるぐる回ってるから。お前は俺に女を全部奪わ(NTR)れるんだよ」


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