第48話 堕・天・使
(――この銃弾ッッ、まるで突き刺さるみたいに……!!!)
起き上がれないサクラの視界で、脇腹に着弾した闇色の弾丸が霧散する。
「さすがだな。俺のかわいいレピア」
「――――――おま、え」
「あの男ッ……レピアに何て格好をさせて……!!!」
「キレイだろう? 並の女じゃここまでエロくならないぞ」
夢魔王、ヨハイン・リフュースの横で一挺の銃を構えるレピア・ソプラノカラー。
その姿はまるで、サキュバスのようであった。
首元を覆う首輪のような黒きシースルーは胸の谷間に向かって収束し、申し訳程度に局部を隠すコウモリの羽を模した布から隠しきれないボリュームの下乳がのぞく。
真っ白で魅力的にくびれた腰を取り巻くように紐が伸び、前張りかと見紛うほど布面積の少ない黒が秘所を隠し、そのすぐ上には――――うねる黒と桃色で子宮を連想する形にデザインされた淫紋が刻まれている。
雛神夢生は激怒した。
「――何やってんだお前ェッッ!!!!!!」
「は? レピアの顔を見ろ、この格好を受け入れてるだろうが?w 彼女でもない女に彼氏ヅラするなよ――レピア。勘違い野郎におしおきしてやれ」
「――――」
――銃口が静かに闇色の光を灯し、
『!!!』
黒き両翼が、レピアの背で大きく開かれた。
「むーくんつかまってッ!!!」
「わっ――!?」
連射。
まるで機関銃のような掃射が風に降り注ぎ――――あっというまに灰田愛の運動場をハチの巣にしていく。
鉄剣を捨て夢生の手を握った風が練気を爆発させ、闇色の銃弾をかいくぐって運動場を逃げ惑う。
「ハハハハハッ!!! いいザマだぞ下等種共、もっと踊れ、踊り狂え!!!」
五秒、十秒、二十秒。
闇の弾幕は、途切れない。
「(弾切れがないっていうの……!?)くそっ!」
「うぶッ……!」
体育倉庫の裏へ飛び込む風。
一息おくれてサクラも駆け込んできた。
「大丈夫ですか霧洩先輩ッ!!」
「撃たれたのが体だったから助かった。あの銃弾……さっきのあの子の弾丸とは威力が比べ物にならない」
「威力ですか?」
「たぶん、あれが本来の威力。あの子が手加減してたんだわ――――一発でも」
「!!!!!!!!」
「致命傷になる。当たらないよ――」
「先輩避けてッ!!!」
『!!?』
風がサクラを触れずに吹き飛ばす。
直後――――サクラが背を預けていた体育倉庫の壁がハチの巣にされ、砕け散った。
「ッ……な、なになに風ちゃんっ、何が起こったの今!?」
「弾丸が届いてる――でもどうやってっ」
「――跳弾だわ。前にそれでやられたことがあるから」
「当てられる説明になりません!! ここはレピアから見て完全に死角――」
〝アタシだって本気出せば頭の後ろも見えるし??〟
「――――冗談じゃ、なかったってこと……!!?」
「……『絶対空間把握』。乱射魔には最悪の体質ね」
「ッ!! 今あっちが光ったッ!!!」
『!!』
夢生の声とほぼ同時に、風とサクラが倉庫裏から飛び出す。
直後、ヨハインが張った結界を壁に飛来した無限の跳弾が倉庫を蹂躙。
体育倉庫は一瞬にして根こそぎ削り取られて消滅した。
(倉庫が弾丸に吹き飛ばされた!!!? なんて威力――)
「くっ……!!」
「おおっ!」
乱れ飛ぶ弾丸を避けながら、サクラが鉄剣を拾い上げヨハインに投擲。
別方向を見ていて虚を突かれたヨハインはとっさに真横にいたサキュバスの首をつかみ――あっさりと鉄剣の盾にした。
『!!!』
「危ない危ない。まさかこの弾幕の中俺を狙ってくるとはな」
「味方を盾にッ……!!」
「逃げるだけで精いっぱいかと思ったが、なかなか楽しませてくれるじゃないか――――いいだろう。少し難易度を上げてやる」
ヨハインが笑い。
伸びをするように、翼を広げた。
「さて。全快の夢魔王の準備運動に付き合いたいのはどの女だ?」




