第43話 夢魔王・の・愛撫
「……大丈夫。大丈夫だよ、むーくん。君は一人じゃない。もう一人じゃないんだよ」
風はもう一度、夢生を強く抱きしめた。
◆ ◆
「――アタシは夢生を銃で撃てた。アタシに魅了をかけてきた術者を傷付けることができた。アタシはまだ恋堕に操られてなんかいない」
「……まだ、ね。操られそうな自覚はあるんだな」
「それにね――悪いけどアタシ、どうもむーに惚れてるくさいの、どうしようもないくらい。だからね――今更あいつがどんな罪背負ってようが関係ないワケ。天使とかそんなん置いても、アタシも一緒にいくらでも背負ってやるわ。ま、友達少ないあいつのヤバい罪を背負ってやれるヤツなんて、アタシとかくらいのモンだし」
「…………」
「つかお前。油断しすぎ」
レピアが目を光らせて笑い――極光の片翼を生成していく。
「アタシに触れることすらできないと分かった時点で逃げるべきだったね。アタシの『神性』の前じゃ、お前程度の魔なんて話に――」
「ナメ過ぎてるのはお前だよ」
レピアの目が夢魔王、ヨハインの笑う口元を捉えた時。
黒い杭が、レピアの腹部に突き刺さった。
「ッ、、、ぐ――ッ!?」
不意のズシリと重い一撃に小さくうめくレピア。
杭の黒が体にしみこんでいくような感覚。
彼女は目にする。
(――アタシの翼が、また消えてく……!!)
「時間稼ぎはお互い様だ。まだお前の力を『不活性化』させる程度が精々だが――今はそれで十分だ。この距離なら防ぎようもない」
「不活性化……お前、まさかこの魔法……――うぁッッ!?」
下半身に熱。
思いもよらぬ場所――スカートを貫通し閉じていた太ももの肉を押しのけ、下着の布にギリギリ触れる所に同じく闇の杭を打ち込まれ、レピアは思わず腹部に力を込めつま先立ちし、なんとか杭が股に触れないように立った。
「お前、何のつもりで……あっ!!?」
「そら腰入れろ。力抜いたらそれだけ闇がお前を焼くぞ」
ヨハインが人差し指をレピアに向ける。
途端、彼女の両腕が勝手に背中へ回り――まるで後ろ手に縛られたように動かなくなった。
自然背をそらし、胸を張るような体勢になり――ただでさえ大きい胸が、ボタンを弾け飛ばさんばかりに主張を始める。
(くそ……今度は拘束魔法ッ、)
「おーおー。出してほしそうにしてるな」
「フザけ――ッッ!!!」
ヨハインが、レピアの制服に指をかけ――――一息に引きちぎる。
ボタンがほとんど弾け飛び――真っ赤な下着を着けたこぼれんばかりの胸が、ぶるんとヨハインの目の前へ飛び出した。
「ヤバ。最高にキレイだぞ、レピア」
「……クソが……!」
「あ? なんだ。言いたいことがあるなら目を見て言えよ」
「誰がそんな見え見えのウソに……!」
「ハハ。確かに俺はお前には触れない。だが祝福されているわけでもない布切れには当然お前の『神性』など宿らん。そして魔法を防ぐ手段も持たず、翼をもがれ魔力による身体強化も使えない天使などもはや人間も同然。増援もない。ここまで条件が整っていればいくらでもやりようはある――――その『神性』をお前から引きはがし、俺のかわいい性奴隷にする方法はな」
「せ――ッ!!?」
「忘れたかレピア。今お前の目の前にいるのは夢魔の、」
「ッッ――!!?」
「王なんだよ」
レピアが目を剥く。
ヨハインが下着越しに、レピアの胸を指先でいじくり始めたのだ。
「ほら、乳首みーっけ。もしかしてもう勃起させてんの?」
「…………爪が当たって痛いのよ。血ィ出る前にやめてくれる? ヘタクソ」
「乳首見付けられたのは否定しないんだ。可愛いな。もっといじめてやるよ」
(このッ……!!!)
「強情なメスは嫌いじゃない――堕ちた時の情けない姿が一番ソソるからな」
「バァーカ。何が『堕ちる』だキショい。レイプで感じる女なんて男のイタい妄想よ? 好きでもないヤツ相手に感じるワケないでしょ」
「だがお前はさっきよりも感情を乱してる」
「!」
「ハハハ。解ってないのはお前の方だメス。お前の感情を大なり小なり乱せてる時点で――お前はこの愛撫に感じてるんだよ」
「ッッッ!?」
ヨハインが空いた手でスカートの中に手を入れ――レピアの秘所をも布の上から指で撫で回し始めた。
「なんだその反応。実は案外気持ちいいのか?」
「……これが気持ちよさそうに見えるワケ?」
「見えるな。極上の顔だよ。もっとよく見せろ」
「誰がッ……」
「それで? 『感じる』を知ってるってことは何だ? もしかして処女じゃないのか、レピア。誰に初めてをくれてやった?」
「最ッ低――」
「それとも、一人で慰めてたのか? 夢生のことを想って?」
「ぅぁ……っ!!?」
――夢生のことに言及した、瞬間。
ヨハインはレピアの上下の突起を一際強く引っかき、刺激を止めた。
「いい声で鳴くじゃん」
「…………殺すッッ」
「ハァ。さてと……そうさな。下等種である人間ならいざ知らず、『神性』で俺達に耐性を持ち、かつ魔眼も見てない天使が、好きでもないヤツになびくことはないだろうな」
「当然……」
「じゃあ。好きな相手ならどうだ?」
「……何を、言って……」
レピアは気付く。
この男に夢生への気持ちを打ち明けてしまったのは、とんでもない失敗であったということに。




