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恋のキューピッド、あの人を撃ちまくれ  作者: はっとりおきな
最終章 好き
42/63

第42話 罪を・背負う・こどもたち


◆    ◆


夢生むう恋堕れんだ魔眼まがんは確実に成長していた。祓魔ふつまであるサクラに影響を及ぼすほどだ。レピアもふうも、確実にそのとりこになりつつある――――わかるかレピア。お前がこの数ヶ月、雛神ひながみ夢生むうと日常を送る中で抱いてきた感情はすべて、夢生むう魔眼まがんが生み出したまがものだということだ。何やら今朝は夢生とギスギスしていたようだが――心配することはない、何もない(・・・・)から。お前と夢生の間には、恋堕れんだ魔眼まがんによる支配と被支配の関係しか、きずかれてはいない」

「――――アタシ、」

「……うん?」



 ぱたり、と。



 下を向いたレピアの目から、一粒ひとつぶの涙がこぼれ落ちる。



「――――何」

「アタシ……あぁ、」



〝ガチでやってやろうじゃん、『恋のキューピッド』! あのエセ地味子じみこは気に入らないけど、あんたに付き合うのは面白そう! からかうとおもろいし!!〟


〝マジ冷めるわ、あんたのそういうとこ。そこまでコケにされてまだ笑ってられんの〟


〝あんたそれっ、ただの逃げだから。傷付くのが怖いのはあんたじゃん〟



「アタシ……何も知らないで、アイツになんてこと言って……!!」

「……おい、」

「謝らなきゃ……あいつに謝らなきゃっ。お願い夢生、どうか生きててッ……!!」

「その感情そのものがまやかしかもしれないと、俺はそう言ったんだが? むなしくはないのか? まずは自分の、夢生への感情自体を疑うのが先じゃないのか?」

「…………ハッ。人を魅了みりょうする魔眼を持ってるクセに、その程度ていどのこともわからないの?」

「――――」


◆    ◆


雛神ひながみ夢生むうは、冷たいコンクリートの床で誰かに土下座をするようにうずくまり、全身をふるわせて嗚咽おえつしながら――地面に胃液いえきさえこぼしながら、すべてを語り終えた。



『…………』



 静かに悪魔を見下ろすサクラ。

 言葉を失い、ただあっけにとられて夢生を見るふう



 彼は相変わらず目を両手でおおいながら、ふるかすれた涙声で言葉を続ける。



「もう疲れたんだ……僕はこれから、この眼が誰も破滅させないようにずっと一人で生きてかなくちゃいけない……あいつみたいに、きっと霧洩きりえ先輩みたいな人達にもずっと狙われる……そんな罰にはもう耐えられない……もう逃げたくないもう疲れたよ……もう嫌だよ……もうやめてよ……!!!」

「…………」

「殺して…………殺してください…………お願いですから楽にしてください…………一生のお願いですから…………死なせて……――」

「…………」



 ――サクラが鉄剣てっけんを、まっすぐ夢生の心臓をつらぬける位置にかざし。



 紀澄きすみふうが夢生の襟首えりくびをつかみ起こし、思い切りほおった。



「ッ!!!?」

「!」

うそくな――」



 長机ながつくえを吹き飛ばし床にころげた夢生の胸倉むなぐらを風がつかみ上げ、



だったらなんで君は生(・・・・・・・・・・)きてるんだ(・・・・・)ッッッ!!!!」



 思わず顔から手をはなした夢生の魔眼を、涙のにじんだ目で真っ直ぐ見据みすえて怒鳴どなった。



「!!!!!!!!」

「目をらすなッッ!!!!」

「!!!!!!!!」

「私を見ろむーくんッ。――そんなに死にたいと思ってたんならどうして自分で死ななかったの? どうして今日まであなたは生きていたのッ!!? どうして灰田愛はいだめに来ず一人で死ななかったのッ!!?」

「そ、あ。それはっ、」

「目を閉じるなッッ!!!!」

「――ぼ。ぼく、は、」

「言えないなら教えてあげる。君が今生きてるのはね、死ななかったから(・・・・・・・・)だよ。孤独こどくから、辛いことから、罪の意識から雛神夢生がッ、逃げることを選ばなかったからだよ!!!」

「は――ぁ。あ、あぁ……」

「それが何よりの――――あなたが罪に向き合おうとあきらめずもがいてた証拠しょうこでしょうがッッ!!!!」

「――――――そ。そんなこと、君にっ」

わかるよ。――――私だってそうだったか(・・・・・・・・・・)()



 風が目に涙をあふれさせ――夢生を抱きしめた。



「辛かったよね。苦しかったよね。誰かに話したかったよね。ちゃんと叱って、怒ってほしかったんだよね。導いてくれる人を探してたんだよね。私と同じように」

(――!!)

「――は。はぁ、はぁっ。はぁっ、」



 ――決壊けっかいをせき止めようとするかのように、夢生が小刻こきざみに力んだ呼吸を繰り返す。



 目を見開いていたサクラがゆっくりと目を閉じ――鉄剣てっけんを下ろした。



「は。は。はぁ――――ダメ、だよ。僕、もう信じられないよ、」

「!」

「だってきっと、今の感情だって僕の目が」

「それはないと思うわ」

「――え?」

霧洩きりえ先輩……?」

「さっきの君の話。そして屋上で聞いた、夢魔王むまおうの話。彼に操られた紀澄きすみも、雛神君に操られた女の子も、術者じゅつしゃである君達を傷付けることはできなかった。でも今、ホラ。紀澄は――あなたを思い切りビンタしたわ」

「……あ」

「で、でも……」

「もしかすると、雛神君の魔眼はまだ不安定で、力を制御せいぎょできていない――本来の力を、発揮はっきできていない状態なんじゃ、ないかな」

「そうか――あの魔物は、魔眼を自由に発動できるようだったし」

「それにね――あの。少し、思うのだけど」



 めずらしく、サクラが年と姿すがた相応そうおうにおどおどとした様子で二人から目をそらす。



「紀澄は私に、『逃げて得た力も立派な力』だと、言ってくれたわ。つまりそれって…………その。どんな力も、使い方次第……ってことなんじゃ、ないのかしらって。知らないけど」

(あの霧洩先輩が照れてる……)

「……使い方、次第」

「……正直、私は迷っているわ。今までの生き方をそう簡単には捨てられそうもないし、半魔はんまである君は滅すべきだと、今でも思ってる。でも……更に強大かもしれない、倒すべき悪魔が近くにいる今の状況で、君をめっするのは違うと思う、かな。とか。知らないけど」

「霧洩先輩……!」

「あと。あの。あとひとつ、えっと」



 やや長い葛藤かっとうの後――いまだ抱き合う風の背中に回り込み――大きく息を吸って、サクラが夢生の目を見た(・・・・・・・)



「私の。友達になってくれるんでしょう? 雛神君」

「――――!!」


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