第40話 雛神・夢生の・正体
撃たれた夢生が体をくの字におり、
「ぬッ!? ぐ、ァ……ッ!?」
ヨハイン・リフュースが、呻き声をあげた。
(! あの男――魔物まで悲鳴を!?)
「がッ、ア゛……そうかッ、クソッ!」
ヨハインが目を光らせる。
夢生は声もなく地に傾き――滑り込んだ風に抱きとめられた。
ヨハインがそれを睨みつける。
「むーくんっ!」
「ぁ……風、ちゃん」
「っ、よかった、もう意識――」
「ッ――逃がさんぞメスッ!」
「!」
「くそ、今ので弾切れ――――」
銃を構えて歯噛みしていたレピアが――途中で言葉を切り、叫んだ。
「――二人連れて逃げろ変態ッ! こいつはアタシがやる!!」
『ッ!!?』
言葉の意味を理解できなかった風を。
目を覚ましていた霧洩サクラがつかみ引っ張り、屋上を飛び降りる。
「っな、」
「紀澄。そのまま彼をつかんでいて」
「ッッ――レピアっっ!?」
風に抱かれた夢生の視界で。
ただ一人屋上に残されたレピアが、フェンスの向こうへ消えていく。
「レピアッッッ!!!!!!!」
「大丈夫だって。あんたを幸せにするのが――アタシの役目だから」
切なげに笑い。
レピアは夢生から、離れていった。
◆ ◆
霧洩サクラは、校舎からはみ出ていたロングソードの柄に片手でつかまった。
「がはッ――! 先、輩――」
「……ごめん。手伝えない、なんとかして」
「ふわふッッ??!??!? ふふふふーちゃ、あの、むねがっ」
「――むーくん、体を小さくして。私の胸に顔を近付けて」
「え゛ぇ゛え゛っ――……――こ、こう!?」
風の腕の中でお姫様だっこで抱えられた夢生が、ぷむ、と恐るおそる彼女の控えめな、でもしっかりある胸に顔をうずめ、膝をなるべく自分の胸へと寄せる。
「――胸に顔をうずめてとは言ってないんだけど」
「っ?!?!?!? ああいやその間違っ」
「このえっ、」
「え――」
「っちっっ!!!」
風が右手で夢生の制服の襟をつかみ、左手の平で尻を支え――――練気にて強化された腕力で、校舎の開いた窓目がけて投げ飛ばした。
「うぃいぃぃいいぃいっ!!?!???!」
体を縮こまらせていたのが幸い。
夢生の体は無事窓枠にぶつからず通り抜け、教室のドアの鉄の柱に激突したのち落ちてバケツに顔を突っ込んだ。
「ぼぎょびこぺ?!??!」
「……ナイスショット?」
「のちホールインワン」
「ぼ、ぼく腕おれてるんですけど……。。 。」
「スケベは制裁。ホラ立って、むーくん」
ほぼ同時に窓から自力で校舎へ入ってきた風とサクラ。
夢生は風に起こされ、肩を貸される。
屋上から、轟音。
「――風ちゃん霧洩先輩。戻りましょう」
「彼とついてきて。紀澄」
「……はい」
「戻ってよ風ちゃんッッ!!!」
「落ち着いてむーくんッッ!!!」
「!」
「今の私達じゃアレに勝てないッ!――倒し方が解らないッ」
「それはレピアも一緒だよッ!!!!」
「違うわ」
サクラが静かな声で夢生に言う。
「彼女は天使。悪魔の唯一の天敵」
「――!!」
「天使は『アタシがやる』と言った。彼女に賭けて。でもその間、私達も態勢を立て直す」
「…………レピアっ……!!」
「…………先輩。行先は」
「……アレの言葉が正しければ。ここは間もなく『魔』の巣窟になる」
「!」
「でも一つだけ――絶対に侵入されない場所があるの」
「……準備がてら、色々聞かせてもらいますから」
「ええ。でもその前に、寄るところがある。手伝って」
◆ ◆
戻ってきたのは、天羽が失禁し倒れている生徒会室だった。
換気扇を全開にし、辛うじて無事だったアルミの引き戸を閉める。
サクラが鍵を閉めると――途端に部屋を囲う壁の内側に一枚、透き通った赤黒い光の壁が張られた。
「これは……結界」
「ええ」
「……先輩。これ、どこに置けば」
「適当に。使い捨てだけどそう壊れたりしないから」
風とサクラが、持てるだけ持っていたいっぱいの鉄剣を床に置く。
廊下に散らばっていたものを、かき集めてきたのだ。
「……体、大丈夫なんですか。笠木に撃たれて――」
「下着と制服。防弾性があるから」
「……すごいですね、色々と」
「祓魔師の間で、ずっと続いてること。――座って。とにかく今は休んで」
「ありがとうございます。――むーくんも座って。少しでも休もう」
「………………」
無言で、風が示してくれたパイプ椅子に腰かける夢生。
彼は鉄剣をひとつも持ってこなかった。
持つだけで手が焼けるから、持つことさえできなかった。
「……先輩。この結界って」
「ええ。魔法陣を軸に、内と外を完全に遮断する――アレが準備していた結界も、恐らく同じ」
「ふす――いいや違う、魔物。あの魔物、魔法陣なんていつ――」
「私達の戦闘の間、でしょうね」
「……なんてこと」
「祓魔師、失格だわ。『魔』の族長格の一角が近くにいながら、気付くことができなかったなんて……欠陥にも、ほどがある」
「フォローには、ならないかもしれませんが。アレは十八年もこの国に潜伏していたと言ってました」
「それは聞いていた、けれど……」
「あなただけじゃない、多くの退魔がアレを見逃していた。アレの隠れんぼが上手かったと考えるべきです――――先輩。アレは一体何なんですか? 私は――」
風が、胸元をぐしゃりとつかむ。
「私はもう、手遅れなんですか……!?」
「……夢魔。要するに、サキュバスやインキュバスと呼ばれる者達。他者をその魅力で狂わせ、操り、魅了し――悪魔の子を孕ませる、魔物」
「孕ませる――先輩それはッ、」
「大丈夫。あの女は天使。夢魔の王とはいっても所詮いち魔物の族長程度、神に直接創られた生命である天使とは格が違う。恐らくアレは、彼女に触れることすらできないはず」
「そんなにも……」
「そう。だからあり得ないの。彼があの女に触れるはずない」
「!!」
風とサクラの目が――――夢生を見る。
「で――でも先輩、それじゃ雛神君は一体っ、」
「彼は何故だかにおいが薄かった。だから近くで嗅いでも、なかなか確信が持てなかった」
「……『魔』の気配が薄いと?」
「『魔』が薄く、天使にも触れる夢魔……可能性は一つだわ。彼が、純血の夢魔ではないということ」
「……霧洩先輩。雛神君は――」
「『半魔』。異種族交配により生まれ落ちる、半純血の禁忌の子」
「……人間とインキュバスの、混血……!!!?」
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