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恋のキューピッド、あの人を撃ちまくれ  作者: はっとりおきな
最終章 好き
38/63

第38話 夢魔・の・王

「本当に綺麗きれいな目だな、雛神ひながみ君。もっと近くで見せてくれ」



 状況を、何もかも飲み込めず。

 レピアが、ふうが、そして夢生むうが沈黙する。



 動いたのは、笠木かさきだけだった。



「それ以上近付くな。俺の雛神ひながみに」

「俺の、か。困るな……悪いが雛神君は俺の(・・・・・・)なんだ。君もそうだろ(・・・・・・)? 笠木かさき



 伏里ふすりの目が。



 夢生の(・・・)目と(・・)同じ(・・)輝きを(・・・)宿す(・・)



『――――ッ!!!?』



 思い出したように呼吸し、息をのむ夢生むう達。



 笠木は石にでもなったように硬直こうちょくし――その場で立ちくし、動かなくなった。



「……そうだ。いい顔をするじゃないか、笠木。いい子だ」

伏里ふすり、先生……」

「皆の所へ行け。後で可愛がってやるから、大人しくしていろよ」

「はい……」

「……何が、どうなってんの?」



 レピアの、あきれを帯びた驚愕きょうがくの声。

 笠木は伏里の言葉に従い、そのまま屋上を後にした。



 夢生が息を、



同じ(・・)だ)



〝私を愛して。むーくん〟



(あのときと、まったく同じ(・・・・・・)……)



 呼吸を乱し始めた時――伏里が夢生の目を、のぞき込んだ。

 桃と緑のオーロラを宿す目が、かち合う。



「ふむ……開眼かいがん具合はもはや俺と遜色そんしょくない、か。この間の話や体調不良、メス(・・)の引き付け具合からして、開眼かいがんしつつあるのだろうとは思っていたが……まさか、祓魔師(エクソシスト)耐魔力たいまりょくをも破りかねんレベルとは、まったく驚かされる。俺の力(・・・)故か、それとも混血種(・・・)であることが影響しているのか。後は意図せんタイミングで発動させて、体調不良が続くことがなくなれば……」

「あの――伏里先生、」

「そいつの目ェ見んな地味子じみこッ!」

「え――……レピア?」



 風が戸惑いの目でレピアを見る。

 レピアは移動し、近くに落ちていたもう一挺いっちょうの自分の銃を伏里に向けていた。

 伏里が笑う。



「はは。さすがは天使、本能的に俺の正体を悟ったかな? だけどホラ――見てみて。もう目は元に戻したよ。俺も無駄に、消耗しょうもうするわけにはいかない状況だから。だからこっちを見て。紀澄きすみさん」

「は、はい――」

「『はい』じゃねーっしょバカ地味子じみこッ!! 目ェ覚ませッ!」

「――だ、だってレピア。伏里先生は、大丈夫だって言ってるんだから――」

あんたのその態度がも(・・・・・・・・・・)う伏里の目にやられか(・・・・・・・・・・)けてる証拠(・・・・・)だってのよッ!!」

「――!!!!」

ひどいことを言うなあ、ソプラノカラーさんは。紀澄きすみさんだけじゃない。風紀委員会の他のメンバーだって、全員心から俺をしたってくれていたじゃないか」

「……アンタ……まさかこのガッコの全員に(・・・・・・・・)魅了(チャーム)を……ッ!?」

「……伏里先生……!?」

「あぁ、傷付くなあ。紀澄さんも何か言ってやってくれないか? だって君は今も――――俺の潔白を証明したく・・・・・・・・・・・てしたくて仕方ないは《・・・・・・・・・・》ずだよ(・・・)?」

「…………!!」

「……伏里ィッ……!!」

「そう。きっと下にいる灰田愛はいだめの関係者全員が、彼女同様俺を守ろうとするだろう。見るものすべてをとりこにし、すべてに優先して俺だけを求める力――――『恋堕れんだ魔眼まがん』とはそういうものだ」

魔眼まがん、ですって……!?」

「……伏里先生。あなたはこの数年来、ずっと灰田愛はいだめの教師だったはず。それが何故――なぜ今になって――」

「待っていたのさ、このときを。ロクに気配も殺せなかった俺を、絶えず狙う退魔たいまの連中から命からがら逃げ隠れながら……十八年間もな」

「! 十八――」

「そしてその甲斐かいあって――今ようやく。この俺を滅する力のある存在は共倒れした」

『!!』



 風がレピアを見る。

 レピアがサクラを見る。



「まったく、ただでさえこの負溜ふだまりを監視かんしする祓魔師(エクソシスト)処理しょり手間取てまどっていた所に……ここにきて天使、しかもアマチュアとはいえ悪魔殺しの技術を持つ天使が、よりにもよって雛神ひながみ夢生むうの横にべったりとは。正直、雛神君を殺されやしないかと久しぶりにきもを冷やしたよ。まあ、結果は天使さえ魅了みりょうしてみせる雛神君の恋堕れんだ驚嘆きょうたんするに終わったけれどね」

「ざ――ッけんなッ! アタシは魅了みりょうされてなんか――」

「そうだろう? 紀澄さんと同じように――君は自分の想いが本物(・・・・・・・・・・)だと思うだろう(・・・・・・・)? それがこの眼の素晴らしい所さ」

「……!」



 怒りから、伏里の目をにらみつけたい衝動しょうどうを必死におさえるレピア。



 しかしその怒りを打ち消すほど大きな疑念が、レピアの心を支配していく。



(――さっき。さっき確信した、私の気持ちは(・・・・・・)――――)

「君がバカで助かったよ、ソプラノカラーさん。君が転校初日に、天使の力を惜しげもなく披露ひろうしてくれたおかげで――あの祓魔師(エクソシスト)の目は完全に俺から外れたんだから。おかげで一気に準備を進められた……倒れた祓魔師(エクソシスト)に、片翼かたよくさえ維持できない限界寸前の悪魔殺し。そしてこちらには夢生もいる。もはや恐れるものは何もないよ。計画を実行に移す時だ」

「……伏里先生。あなたの、目的は……」

「俺は帰りたいだけさ。我が故郷にな」

「は――ハッ。何イミフなこと言ってんだかっ、むーがアンタに従うワケ――」

「さあ、」



 伏里が夢生へと、

「故郷へ帰ろう。この夢魔王むまおう――――ヨハイン・リフュースの一人息子(・・・・)よ」



 我が子(・・・)へと、手を差し伸べる。



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