第35話 僕の・奇跡の・キューピッド
「そんなこと先輩が決めつけないでくださいッッ!!!」
「!」
「――えっ」
「ダメだってばむーくんッ!!」
――風の全力の制止を、振り切り。
雛神夢生は、二人の前に飛び出した。
「むー――なんでケガしてるあんたがここにっ」
塔屋の壁にもたれたまま、首だけを左に向けてレピア。
レピアが背を預ける壁と垂直に交わる位置にある屋上の出入り口付近から、約十メートルの距離にいるサクラへと、夢生は憤然と数歩踏み出す。
「――雛神夢生」
「卑しいとか自惚れとか外見だけとか、そんなの全部先輩がそう思ってるだけですッ! あなたの感想だけでレピアを語らないでくださいッ!」
「やめなむーっ! あんたっ、相手がどんな奴か――さっさと逃げなさいバカ――」
「彼女は僕に奇跡を与えてくれたッ!!!」
「――――、」
「卑屈な僕にっ、傷付けるのが怖くて好きな人に声もかけられずにいた僕に――彼女はずっと勇気をくれたっ。背中を押し続けてくれたッ! ずっと隣で支えてくれたッ!! レピアがいたから、僕はここまで歩いてこれたんです!!」
「…………」
サクラが。
夢生に、銃を向ける。
「!!!! むーくんッ!!」
「むーもうやめなッ!!」
「取り繕われたものなんかじゃないッ! レピアは本当にキレイで可愛くて強くて頼りがいがあって、人を惹きつける魅力にあふれてて――」
「――……、!」
「――あっ、謝ってくださいッ、」
引き金を引こうとしたサクラの指が止まる。
夢生が目を見開いて、ただ感情のまま――――涙を弾けさせるようにして、大声で叫ぶ。
「っ謝ってくださいよ今レピアに言ったことッッ!!!! ッ、」
「――あんた何泣いて、」
「僕の天使を――――バカにするなあッッ!!!!!」
『――――!』
語り尽くせない言葉が、怒りが、悔しさが、涙となって夢生の頬を伝う。
語り尽くせない想いが、
(――――ああ、)
やっと見つけた答えが、一筋の涙となってレピアの頬を、伝った。
(ホントに惚れてんだ。アタシ)
力尽きた体が。
消えかけていた翼が、
(レピア・ソプラノカラーは――――雛神夢生が好きなんだ)
嘘のように、燃え上がる。
「――ァああああああぁぁあッッ!!!!」
『!!』
レピアが座り込んだまま――銃口をサクラに向ける。
一瞬遅れ、サクラが応じ――レピアへ向け銃声を響かせながら、走り出した。
(くそ――もう少し温存したかったけど、私が――)
「レピアッ!!」
「っ!? むーくんッ!!?」
「くああ……ッ!!?」
サクラの銃弾がレピアの銃を手から弾き飛ばす。
唯一握っていた銃が壁に跳ね返り、屋上から落下していく。
「――おわり」
決着の銃弾が放たれようとしたとき――夢生少年は、間に合った。
「レピアあぁぁッッッ!!!!」
「ッ!!!!」
腕を固定した夢生の包帯が解ける。
夢生はサクラの射線を遮るように立ち――レピアが背を預ける壁に後ろ手に左手を着き、右腕を広げる。
レピアの顔に、夢生の小さく大きな背が押し付けられる。
雛神夢生は、霧洩サクラの前に立ち塞がった。
「――――――、」
「ふぅ――――ッ、ふぅうっ……!!」
荒く上下する夢生の肩。
かち合う夢生とサクラの目。
銃口を、夢生の顔に向けたまま――霧洩サクラは、動かない。
(――……先輩が止まった?)
「…………?」
――風。
妙な、沈黙。
状況を飲み込めない、レピアと風。
いつ引き金が引かれ、いつ銃声が鳴り、いつ夢生が頭を撃ち抜かれてもおかしくない緊張の一瞬が張り詰め、張り詰め、張り詰め――……ゆっくりと、緩み始める。
霧洩サクラが、動かない。
動かず、
「………………ぁ。ぁあ、」
サクラの持つ銃が、ゆっくりと震えはじめた。
『!!?』
サクラから漏れ出した声に、その震えにぎょっとする三人。
三人の疑問の中、サクラはその震えをますます大きくさせていき、
「――――ぁぁぁああぁぁあああぁぁあぁぁあああぁぁあああぁぁあぁぁああぁぁあぁぁあああああぁぁあぁぁああああぁぁあぁぁああああッッッ!!!!!!!!!!!!」
『ッ!!?』
突如髪を振り乱し、銃を持ったまま頭を抱え――――発狂、し始めた。
「な……!?」
「あぁぁああああああぁぁああぁぁあぁあどうしてどうしてどうしてどうしてどうして止めたの撃てないのなんでなんでなんでなんでええぇぇぇえぇぇッッッ!!!?!??!私は霧洩霧洩霧洩キリエキリエキリエキリエキリエキリエだからキレイキレイキレイキレイキレイキレイキレイキレイキレイだからキレイだからキレイなのにキレイなのにいいキレイにしなくちゃいけないのにィィィッッッ!!!」
「く……クスリでもやってるのこの女ッ、」
「汚くない汚くない汚くない汚くない汚くない私は汚くない汚くなんかないのにイィィイィッッッ!!!! なんでなんでなんでどうして撃てないの撃ちたいの撃って撃って撃って撃って認められたいの受け入れられたいのキレイでいたいの汚くなんかないのォォオオオッッッ!!! ああああぁぁぁあぁぁぁぁッッッ!!!!!」
頭を激しく振り、よろめき――――取り憑かれでもしたかのように狂乱するサクラ。
夢生達はただ唖然としてそれを見守ることしかできない。
灰田愛の天井が、またずれる。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい負けた負けた負けた負けた、私は悪魔の力に負けた汚い女です汚い汚い汚い汚い汚い汚いいィィイィィィ!!!!!!あァ汚い汚い汚いそうじしなくちゃなくさなくちゃきたないわたしをキレイにしなくちゃいなくなれいなくなれ私のッッ、」
サクラが。
右手の銃を、こめかみに向ける。
『!!!!!』
「汚い私は死ねェェェぇええええッッッ!!!!!!!」
「いけない――」
「霧洩先輩ッ!!!!」
「!? むーッ!!」
引き金が、引かれ。
この戦い最後の銃声が、空に響き渡った。
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