表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋のキューピッド、あの人を撃ちまくれ  作者: はっとりおきな
第4章 青春のしがらみ
33/63

第33話 決着の・銃声が・鳴る


◆    ◆


 ふうが苦しそうに呼吸しながら、階段の途中で止まる。

 押さえるのは胸のあたり。



(やっぱり……折れてるなこれ)

 その後ろで、夢生むうは体に触っていいかないやいいわけないだろあーでもどうすればとあれこれ考えながら、両足の横で両手を小さくわしわしと動かしていた。



「あの。やっぱりふうちゃんだけでも逃げた方が……」

「……君が笠木かさきとの勝負の途中でそれ言われたらどうする?」

「黙れって思う……」

「私も同じ。――ま、ここまで来た君を見て頭ごなしに逃げろって言った私も同罪どうざいか」

「じゃあ、後からゆっくり来てよ。悪いけど――僕は先に行きたい」

「……あせってもだめだよ」

「だってレピアが!」

今の君に何ができるの(・・・・・・・・・・)?」

「!」



 ふうが、辛そうな表情で夢生むうを見る。



こくなことを言うけど……君だってケガだらけなんだよ。笠木かさきの時とは違う。君だけが行っても足手まといにしかならないよ」

「そんなの分かんない――」

霧洩きりえ先輩はレピアを殺す(・・)よ!」

「――!」

「殺されるかもしれないの。確率の低いけには出られないんだよっ……!」

「だ……だってでも、それはプールの時だって」

「笠木ははずみでしか人なんか殺せない奴だった。でも私は見たの、霧洩きりえ先輩は違う! 彼女は自分の意志で、自分の力で、あっさり命を奪える『裏』の人間だった!」

「………………っ、」

「そういう人間なの。そういう世界があるのッ!……お願いだから解って、むーくん。気持ちだけでどうにかなる状況じゃないんだ今はッッ」

「わかった」

「――あ、」

「行かない。それがレピアを助けられる可能性を、少しでも引き上げるなら」

「……むーくん、」

「教えて風ちゃん。何をすればレピアを助けられる? 今の僕に何ができる? 何でもするよ、だから――早くレピアを助けようっ」



 目にいっぱいの涙をためる夢生。



 土にすすけた顔で、風は笑い――夢生をちょいちょいと手招てまねきする。



「え……あ、うん」



 何も考えず階段を上がってきた少年。

少女はその肩に、おもむろに手をまわした。



夢生少年、あやうく階段から落ちかける。



「ぴっ?!!」

「ふふ。情けない声出さないで――すこしだけ休むから、肩を貸して。おぶってといっても、その手じゃ無理だし……いや、ケガしてなくても無理かな? 君には」

「なっし、失礼なっ、そ、そんな非力じゃないやいっ」

「ふふ、嘘。――少し体、ギプスに当たっちゃうね。……がんばれる?」

「……がんばる!」



 腕の痛みなど、風の文字通りのボディタッチではる彼方かなたに吹っ飛んだ。



 などと青春している場合ではない。

 天井からは瓦礫がれきがパラパラと落ち始めている。

 銃声も鳴りやむことなく続いているのだ。



「銃声を追いかけて、ここまで来たけど……どこから鳴ってる?」

「――あそこ」



 するどく叫んだ風が指さす先。



 窓の向こう。

窓を越えて校舎を駆けあがり、屋上へ消えていく片翼かたよくの天使の姿があった。


◆    ◆


 学校の外壁がいへきを伝って伸びていた配管はいかんを右手でつかみ、ななめ上に一回転。



壁を足場に、霧洩サクラはレピアを追って屋上のコンクリートを――る。



「ハァ……つくづく人間じゃないわね、あんた――!」



 装填そうてん完了。

白と黒の双銃そうじゅうが同じ色の火をいて――たがいの髪を貫いて抜ける。



 手を伸ばさずとも心臓に触れられる距離きょりで、銃撃が無限に応酬おうしゅうする。



「くっ――!!」

「――――」



 ほぼ零距離ぜろきょり射撃しゃげき

 すべての弾丸が必殺の弾道だんどう

 撃針げきしん雷管らいかんを叩きライフリングとドタマを突き抜ける、その一瞬に相手の弾道だんどうなぐり弾きそらし――――陰キャと陽キャの死の舞踏(ダンス・マカブル)は、屋上全体に銃声と弾痕だんこん熱狂ねっきょうを吹き荒らしながら、続いていく。



(当たら、ないんだけどッッ……!!!)

(弾がもたない――――)



 撃ち尽くされる黒きベレッタ・ナノ。



 向けられた純白のシグ・ザウエル・P226カスタム。



 至近距離にも関わらず垂直すいちょくり上げられたサクラの足がレピアの銃を腕ごと上へ。

 黒き双銃そうじゅうが空のマガジンを吐き出し――スリーブガンのレール(・・・・・・・・・・)に乗ったマガジン(・・・・・・・・)が両手の双銃へ、華麗なまでの滑らかさで装填そうてんされる。



「何でもアリかド変態ッ――!!」

「リロードのすき、もうあげないわ」



 弾け飛ぶコンクリート。

 ひん曲がるフェンス。

 地で高く鳴る金属製薬莢(メタルカートリッジ)

 穴が開き水がき出す貯水槽ちょすいそう



 天高き銃格闘(ガン・カタ)で水は雨となり、運動場の田井中(たいなか)らをらす。



「なにが……どうなってんの。上。斑鳩いかるが

「知らねーよ……しがない高校生の俺らにゃもうわかんねーよ!」

「もっとはなれるぞ――屋上がどんどんズレてきてる!!」



 轟音ごうおん

 地響じひびき。

 ずれかたむく屋上。

 まったくよろけず、中央で撃ちあういんよう



(リロードさせないはこっちのセリフ――アタシの愛機あいき装弾数そうだんすうはあんたの三倍、銃撃戦ならこっちの有利は崩れないッ!!)

(――――――認めましょう。くれてやる(・・・・・)わ――片方)



 サクラの、手が。



 白き銃口を(・・・・・)塞ぐ(・・)



「!!!!!!!」

「――――――」



 ――――最後の銃声が残響ざんきょう



 立っているのは、霧洩サクラだった。



「くああッッ……!!!」



 撃ちくだかれ、いびつなサボテンのようになったコンクリートの壁を背に、レピアが双銃を落とし――尻餅しりもちをつく。

 押さえるのは――銀弾ぎんだんに撃ち抜かれ煙を上げるスカート、右足のもも



 傷口から根を張り、神経に染み入るような浄化じょうかの痛みに歯噛はがみしながら目を開けたレピアが、瞠目どうもく

 サクラのれ下がった左手は、中央に小さな風穴を開けられて血をしたたらせていた。



「骨をけずられてしまったわ。しばらく使い物にならない」

「くそッ……あんたっ、」

殺傷さっしょう能力のうりょく

「……あぁ?」

「あなたの、銃に。あの光の弾に大した殺傷能力がこめられていないのが、あなたの敗因よ。化け物さん」

「アタシの銃にこめられてんのはロマンだけでね……! 人殺しなんてまっぴらよ」

「…………そう。その姿勢が今のあなたにつながってるのね」

「……は?」



 土煙つちけむりと、ずれきし灰田愛はいだめの音の中、鼻をすんすんとやるサクラ。



「だからこんなにくさいんだわ。レピア・ソプラノカラー」

「……アタマいてんね。あんた」

「あなたのにおいはあの子や委員長と違って、鼻が曲がるようなおぞましさだった。そう――天羽あもうや笠木と何一つ変わらなかった」

「……何を、」

「まじりっけない何者かのつもりで、その実何者でもない不純物(・・・)



 サクラが、クスリと小さく口だけで嘲笑わらう。



「それを人間の世界では、わかりやすく。から…………不良、というの」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ