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恋のキューピッド、あの人を撃ちまくれ  作者: はっとりおきな
第4章 青春のしがらみ
32/63

第32話 崩落・する・灰田愛


◆    ◆


『全員出たんだね?』

『点呼完了です――生徒会の幹部だった陸奥むつとか佐土原さどはらとかが手伝ってくれて、スムーズだったので』

『……! そっか。じゃあ俺達もすぐそっちに向かう』



 教師、伏里ふすりが携帯電話の通話を切る。



 風紀委員の後方支援こうほうしえん班は、帰ってきた斑鳩いかるがの情報を受け迅速じんそくに行動、ようやく灰田愛はいだめ全生徒の避難を完了しようとしていた。



「全校舎の見回りから報告が来たよ、雛神ひながみ君。これで後は俺達だけ――」



 地響き。



「う、お――!?」

「――!!」



 校舎全体を伝う轟音ごうおんが、夢生むう達の足をびりびりと震わせる。

 レピアやふうが「裏」にきにされる姿が、夢生むうの胃を押しつぶす。



雛神ひながみ君」



 床に足をい付けられたように風紀委員室の一角で動かなくなっている夢生に、伏里ふすりが声をかけた。



「心配なんだろ? 紀澄きすみさん達が」

「!」

「…………全校舎の中で、唯一見回ってない場所がある」

「……え、」

「うん。西校舎の一階のはしっこ。地下へ通じる階段がある廊下だ」

「! せ――先生、」

「僕は風紀委員会顧問(こもん)として、運動場で避難の経過けいかを報告しなきゃならない。だから――君一人で、最後にそこを見回ってほしいんだ。できるかい?」

「――――はいッ!! ありがとうございます、先生」

「礼なんていい。むしろずっと尻を叩きたかったくらいさ」

「え――」

「ここは、俺を振り切ってでも彼女らの下に駆け付けるべきタイミングだろ? 何いつまでもこんなとこでボサッとしてるんだよ。早く行け、それでしっかり――女を守れる男になれ(・・・・・・・・・)

「――行きます!」



 伏里の言葉を背に、夢生むうは風紀委員室を飛び出した。



 包帯とガーゼだらけの体と心で向かうのは、西校舎一階の端――地下へ続く階段のある場所。



(避けていたのは、僕だったけど。僕なんかじゃ、足手まといにしかならないかもしれないけど)



 関係がギクシャクしている少女達。

 彼女達とはなれられて、少しだけホッとしていた気持ちは――そんな「壁」は叫び声が聞こえ、轟音と銃声が聞こえ、地響きがしていくうちに――夢生の心からすっかりがれ落ち。



 今はただ、二人との思い出が頭をよぎって、仕方がない。



(お願いだ……お願いだから、無事でいて……!!)



 けるごとに銃声が、轟音ごうおんが近付き――格子扉こうしとびらを越え、息を整えながら走る勢いそのままにいざ階下へと飛びこもうとしたそのとき――階段が煙を吹いた。



「わぷっ!? ごほ、えほっ!?」



 よろけてしまうほどの土煙つちけむりが吹き荒れ、夢生の体を白くする。

 口の中に入った砂を吐き出し、何とか開けた目で階下かいかへ視線を投げ――



「――ふうちゃん?」

「ッ……むーくんっ!?」



腹部を押さえ、壁で体を支えながら階段を上がってくる、紀澄きすみふうと目が合った。



「風ちゃんッ、どうしたの!?」

「どうしたのはこっちのセリフ! なんで君がここにいるの!」

「お腹ケガしてるの!? 大丈夫!?」

「自分のケガが自覚できてるの!? こんな所にきて、もしケガが悪化でもしたら――」

「いいから答えてよッ!!!」

「――ああもうっ。肋骨ろっこつが折れてるかもだけど、なんとか歩けるくらい。私は心配いらないよ」

「レピアはッ!? レピアはどうしてる!?」

「わっ、ちょっと――むーくん待って」

「お願いだから教えてよっ!」

「落ち着いてむーくんっ!」

「っ――」



 顔を切迫せっぱくにひきつらせながら、口を開きかけたまま夢生が押し黙る。

 風はそんなにレピアが大事かあの女殺してやると思った。



「――ッ!?」

「?」



 違う。思わない。



 紀澄きすみふうはそんなことは、



(……私今、何を――何を考えた(・・・・・)?)

「風ちゃん……? や、やっぱり傷が」

「違うっ。違うから大丈夫――レピアは下にいる。まだ無事。でも、」



 爆風。



「きゃっ!?」

「風ちゃんっ!」



 思わず風に無事な腕を伸ばし、彼女を抱えるようにして倒れ込む夢生。

 その上を――――真っ赤なTバックと真っ黒なハイレッグカット(ハイレグ)ボディースーツが、駆け抜けていく。



「っ?! い、いまの、」

「――まだ無事みたいね。でもダメ。今レピアには近付けないよ、むーくん」



 片翼かたよくを開放しているレピアを呆然ぼうぜんと見送る夢生の背で、風がどこかくやしそうにつぶやく。



「私達なんかじゃ、到底とうていついていけない(・・・・・・・)から――!!」


◆    ◆


 灰田愛はいだめ校舎が、まるでバターのように斬り裂かれていく。



 練気れんきを通した霧洩きりえサクラの洗礼せんれい武装ぶそう――片手剣かたてけんと違い片刃かたばで、つばの代わりにシンプルな曲線のヒルトがしつらえられた、銀色の両手剣りょうてけん



 レピアは双銃そうじゅう射撃しゃげき装填そうてんしながら、その刃が届かない距離きょりを保つのが精いっぱいであった。



(小さい方は壊せた――だったらあの長いのも撃ちまくれば壊せるはず、なのにッ)



 背後のサクラを見たまま後ろびに廊下ろうかを走るレピアの目の前をふさぐのは――サクラがたてのように持ち運ぶ、ほとんど壊れかけている巨大な十字架じゅうじか



(壊れそう――このまま押し切れるか――!!)



 最後の弾丸が弾かれる。



 十字架じゅうじかは、壊れない。



(チョーシのりすぎた――!)



 サクラが、ここぞと加速を開始する。



「ちっくしょ――」



 レピアが装填そうてんしつつ、床を跳ぶ(・・・・)



 階上かいじょうへ続く階段(わき)の壁をぎ、体をひねって一息にフロアを移動する。



(大体なんであいつ立ってんのよ! アタシのたまあんだけ正面から浴びてりゃ、骨の何本かイッてるハズなのに――)



 二階の廊下に、着地した瞬間。



 床下から、刃が、はらわれた。



「うッ――あああぁァッ!!?」



 肩を刃がで、血と煙を散らしながら吹き飛ぶレピア。



「鬼ごっこは終わり」



 間髪かんぱつ入れず鎖を操り、レピアの射線しゃせんふさぎながら――――十字架ごと天使を両断しようとサクラがロングソードを振り上げ。



 背後からの跳弾ちょうだんを、全弾ぜんだん背に受けた。



「ッ 、っ、、 、ァ――!!!」

「さあ。またあんたが鬼(・・・・・・・)



 弾丸の勢いに押されるように、床へうつ伏せに倒れ伏したサクラ。

 復帰したレピアが目の前の十字架をり倒そうとし、



「当て返しは、五秒たってからでしょう」



 上体じょうたいだけ起こしたサクラが、一際ひときわ強くくさりを引っ張り――カチリと(・・・・)()



(やっっ――)



 十字架の外装がいそうがすべて落ち。



(――――っっっばい!!!!!」



 中のすべての片手剣が(・・・・・・・・・・)、爆風と共に炸裂さくれつした。



「くぅぅうううああああア――――!!!!」



 ガラスが割れる。

 鉄剣てっけんがコンクリートに突き刺さる、突き刺さる、突き刺さる。



 レピアが無我夢中むがむちゅうでいくつかの鉄剣てっけんを打ち落とし撃ち落とすも――いくつかは彼女をかすめ、無数の洗礼せんれいが天使の体を痛めつけていく。



 ひるむ体。

 辛うじて正面に戻した視界の先で、



「変、態――」



 大きく振りかぶり――ロングソードを横回転させながら投擲とうてきする、祓魔師(エクソシスト)の姿。



「――女ッッ!!!」



 痛みに慣れたレピアが片足を折り、体を極端に低くする。

 レピアの頭上をロングソードが抜け――――窓ガラスを、校舎を支える石柱を断ち切りまくる。



 屋根が、ズレた(・・・)



 天井から小さな瓦礫がれきが落ち始める中――二人の少女が双銃そうじゅうを、構える。



 銃声。

 戦いが、飽和ほうわし。

急速に、収束しゅうそくしていく――――



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