第30話 女の子・の・戦い
「下がって地味子ッ!!」
「!」
コンクリートを削る鉄鎖の音。
レピアが派手にスカートをめくり、もう片方の銃をホルスターから抜き出し双銃を構え――巨大な十字架を鎖で引きながら突っ込んできた霧洩サクラの剣を、受け止める。
「可愛らしい下着。魔物にはもったいない」
「あんたにバケモン呼ばわりされたくないわよ……!」
火花。
互い得物を引き――同時に相手へ、踏み込む。
「らああああぁッッ!」
「うるさい、声」
銃と剣の剣戟。
無限の火花が、レピアとサクラを包み込む。
「くっ……!」
柄まで合わせても、サクラの腕の長さほどの片手剣。
それはあまりにも武骨な、何の飾り気もない鉄の直剣。
が故に、切るより叩き潰すに特化したその鉄剣を手足のように操り、サクラは容赦なくレピアの双銃を削り取り――――銃のキーホルダーが、ビーズが、羽が、床に散乱し、純白の銃身があらわになっていく。
「チッ、アタシのデコ銃……!」
「魔物でも、多少は心得があるのね」
サクラが、右手の剣を左手に投げる。
「ッ!? ッぅ――」
左手に投げた剣の鍔を指に引っかけ、まるでボールのように――レピアに投擲した。
「うぉわあああああぁっっ!!?」
突如点となり襲来した剣を間一髪、力技で上へと弾いたレピア。
視線も体もその攻撃へ奪われた一瞬に――――十字架が、再度バクンと開き。
「レピア前ッ!!」
「ゥいッ――!!?」
もう一振りの鉄剣が、サクラの右手で点となり迫る。
(四次元ポッケかあのネックレスッッ!!?)
「おしまい」
「おわっ、ッるかバカッ!!」
紙一重、レピアがサクラの右手に先んじ――刺突を右に打ち払う。
「――――」
「もらった――!」
体のバランスを弾かれた右手に奪われ傾くサクラ。
振り上げた右手の銃のグリップで、レピアはがら空きのサクラの脳天を叩き割ろうとし、
「あげないわ」
「ッ!!?」
死の気配を察知したレピアの目が、体が左へ。
持っていかれた腕の方向に急速旋回するサクラ。
コマのように体を回すサクラが――上空から落下しようとしていた最初の鉄剣を左手でつかみ、回避の間に合わないレピアの顔を、両断した。
「レ――!!」
「――――――ッッッ、」
「!」
「ッアアアああああぁぁッッ……!!!?」
弾けるように顔から後退したレピアが、苦悶の叫び声をあげる。
風は頬を斬られたらしいレピアと――――その傷からあがる、焼けるような音と煙を見た。
(そうか、天羽先輩は――!!)
「くっそ何なのコレッッ、なんかメッチャ痛ッたァ……!!?」
「その痛みは無視していいわレピアッ!!」
「ッ!?」
「前きてるッ!!!」
「!」
「さっきので、はんぶんこのはずだったのだけど――」
「ッ、の――」
レピアが、銃口を向け。
「――!」
回避の間に合わなかったサクラが真正面からその光を受け――鉄剣の一振りがサクラの背後へ弾き飛ばされる。
後ろ跳びに発砲したレピアは、床を転がりながら風の下へ戻ってきた。
「ッくゥあ、まだ痛い、ってか熱いッ……ッ変態女ァ、乙女の顔をッ……!!?」
「――『洗礼武装』よ」
「せん……!?」
「祓魔師が持つ武器は全部コレだと思った方がいい。『魔』なるものへの――――モンスターや化け物に特攻のある、武器ってこと」
「…………!」
「――レピア。大事なのはここを乗り切ること。あなたが何者であろうが、私は一緒に戦うわ」
「…………これ終わったらあんたとマブになれそう!」
「そう? 私はなれないかな」
(このアマかわいくない……!)
青筋を立てながらも、サクラから目を離さないレピア。
サクラは彼女の視界で、隙だらけに見える背中をさらしながら弾かれた剣を拾いに行っている。
「地味子。あんたあいつのこと知ってんでしょ。弱点とか手短に教えて」
「……この国には、古来から退魔――文字通り『魔』を退けることを生業とした人々がいたの。鬼退治の桃太郎って知ってる?」
「スゴ〇ンには書いてなかったわね。じゃなくて弱点っ」
「同様に、外国にもこの国の退魔のような組織があってね。歴史の中で、一部が宗教と共にこの国にも伝わってる……って聞いたことがあるわ」
「弱点!!」
「『魔』を『悪魔』と呼び、滅することを至上命題とする――人を超えた人間の集団」
「だーもうこの非常時に説明ヘタぴかバカつまり何!?」
「魔物ぜったい殺すマンってこと! バカじゃない!」
「弱・点・は!!!?」
「な・い!!!!」
「くそったれ!!!!」
「うるさいのやめて」
両手で双鉄剣を回転させ、切っ先をそれぞれ下に向けて戦闘態勢を整えるサクラ。
その姿ほぼ一糸さえ乱れず、ここまでのやり取りで乱れと言えば少しずれた黒ぶち眼鏡のみ。
レピアが大きく舌打ちし、力無く笑った。
「要するにアタシらでいうトコの悪魔殺し的なヤツ……? 戦闘のプロじゃんあの変態女」
(……アタシら?)
「はぁ。もう破っちゃった後だけど。――ごめんねむー、」
レピアが。
白き双銃を突き付け、サクラを睨みつけた。
「約束とか、身バレとか。考えてる場合じゃなさそうだわ」
「ピストル、向けるなら。命をかけて」
「〇ンピ読むなッ!」
鎖を、剣身で引き。
盾とした十字架をレピアへと、ひと蹴りして――サクラが駆けだした。
「いい加減邪魔。それ」
レピアの射線を塞いでいた十字架が――――コンクリートの上で踊る。
「!!」
火を噴いた双銃から放たれた光弾が盾に相次いで命中、十字架は地面で乱回転し、その隙間をいくつもの弾丸が抜け、サクラを強襲。
祓魔師はそのすべてを、後退しながら双鉄剣で残らず弾き飛ばしていく。
(……すごい。これがレピアの本当の――!)
砕ける壁。
破砕する蛍光灯。
消える灯り。
鳴りやむ銃声。
『――――』
明滅する蛍光灯の光の中、かちあうレピアとサクラの瞳。
サクラが腕を下ろし――欠け折れ、折れ曲がった無残な鉄剣の姿を見る。
正面を見たサクラの視界には、
「オンボロ」
――電灯など比較にならないほどの極光を放ち伸びる、レピアの背中の三筋の光。
「……天使の、翼」
「(天使……!?)レピア、あなたは――」
「7秒。稼げる?」
「――え」
「ちゃけばヤバい。リロード間に合わない」
苦しい表情で笑いながら、レピアが風にだけ聞こえる声で告げる。
彼女の前には、破壊された双鉄剣を肩越しに背後に投げ捨てる弱点なしの女祓魔師、霧洩サクラ。
――紀澄風は苦しい表情で笑い、眼鏡をクイっとしてみせた。
「――ついでにお茶でも飲んで。15秒、もたせてみせる」
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