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恋のキューピッド、あの人を撃ちまくれ  作者: はっとりおきな
第4章 青春のしがらみ
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第28話 負の・ハキダメ・へ


◆    ◆


「えー……それじゃあ、えー。風紀委員会、最後の、作戦を……」

『………………』

(……クソガキッ!!)

(いたいッ??!?)



 風紀委員、斑鳩いかるが夢生むう脇腹わきばらをひじで小突こづいた。



(何するんですかっ!)

(何じゃねえっ! お前昨日紀澄(きすみ)やレピアちゃんと何があったッ)

(な――んにもないですよ???)

(ウソつけ! 明らかにおかしんだよオメーの態度たいどがよっ! そのせいで紀澄きすみもレピアちゃんも風紀全体も気まずい感じになってんのが分かんねーのかッ)

葬式そうしきみたいすね」

「聞こえるように言うな田井中たいなかこのバカッ!」

「うるせーぞ斑鳩いかるがッ!」

「ぐ……オレかよ……!」

「ごほんごほん!!」



 あまりにも大きなせきばらいで空気を無視し、同じく風紀委員の桐山きりやまが続ける。



「ま、確認することはそう多くない。本日の段取だんどりだ。生徒会室へ侵攻しんこうするのは紀澄きすみふう、レピア・ソプラノカラーを中心とした班」

「ういー」

後方こうほう支援しえんが、俺をふくむその他のメンバー」

「……はい」



 ケガの多い夢生むうは当然、後方こうほう支援しえん



 昨日以来話せていないふう達と離れる役目に最初は納得がいかなかったものの、今はありがたいとさえ感じていた。



「生徒会派の領地は縮小しゅくしょうし、おもだった幹部達もほとんど撃破された。だから今回は、侵攻に委員長も加わってもらうことになったわけだ――もっとも、もう戦いらしい戦いは起きないと思うがな」

「きっと起きないよ」



 教師、伏里ふすり桐山きりやまの意見に、どこか浮足うきあしった様子で同意する。



「いくら相手が生徒会長の天羽あもう君だからって、紀澄さんとソプラノカラーさん、二人一緒に相手するのは厳しいだろうからね」



 興奮を押し隠すように、伏里ふすりが鼻から息を吐いた。



「もう終わってる。風紀委員会は勝ってる。だからこの作戦は、区切りをつけるための儀式ぎしきみたいなものさ」

「でも油断禁物すよ、伏里先生」



 間延びした声で田井中たいなかが言う。



「プールん時みたいに、天羽あもう霧洩きりえ先輩を人質に取っちゃったら少なくとも、委員長は動けなくなっちゃうでしょ」

「聞いたわよそれ、ほんとガンコなんだから地味子じみこってば。それで副会長の時みたくやられちゃったら意味なくない?」

「意味はあるわ。あなたに分からないだけ」

「は???」



 青筋あおすじを立てるレピアをよそに、ふうがあごに指を当ててうつむく。



天羽あもう先輩が、霧洩きりえ先輩を人質に取る可能性は低いと思う。入学してから数ヶ月、天羽先輩が彼女に危害を加えた話は一切聞かないし……プールの時、笠木かさきは霧洩先輩を人質にすることを、天羽先輩に伝えていないようだった」

「マジに恋人だから、ってことか」

「…………」



 無意識に体に力が入り、こぶしを握りしめる夢生。

 風はその様子を認めつつも、あえて触らずに続けた。



「それよりも私は……天羽先輩がここまで結局、風紀委員会に対して何の行動も起こさなかったことが気がかりです」

「案外プールのアレが最終手段で、もう打つ手なしなんじゃないの? 結局副会長の奴もトラの家借りるキツネ(・・・・・・・・・・)って感じだったんだから」

「レピアあなた今日居残り補習ほしゅう

「は????」

「田井中先輩の言う通り、油断はしないでください」

「うっしゃ、じゃあ出発だ野郎共ッ! 今日で生徒会と決着付けんぞッ!」



 斑鳩が風紀のメンバーを鼓舞こぶ

 風を先頭にした班は、生徒会がかつて支配していた校舎こうしゃ――西校舎へと、移動していく。



「心配か?」



 桐山が夢生の横に立つ。



「……それは、もう」

「そうか。ならあいつらが帰ってきたとき、それをちゃんと伝えてやれ」

「……!」

「大丈夫だよ、」



 夢生の隣に、更に伏里が立った。



雛神ひながみ君もずっと見てきたろ、彼女らの強さを。相手が会長だろうと負けないさ――天羽君が、化け物(・・・)でも飼ってなければね」

「……化け物(・・・)……」



 ――レピアと初めて会った時に見た、「天使のつばさ」が頭をよぎる夢生。

 合わせ、天羽は「裏」とつながりがある、と風が話していたことを思い出す。



(天使がいるなら……化け物もいるんじゃないのか?)



 ――いのるような気持ちで。



 夢生はケガの浅い左手を強く、握りしめた。



「――さあっ、これから忙しいぞーっ!」

「はは。何だか楽しそうですね、伏里先生」

「そりゃあね――やっと、この時が来たわけだから」



 もう勝ったかのように伸びをする伏里が、桐山の言葉に明るく返す。



「やっと終わる。そしてやっと始まるんだ」

「……そうですね。ッし、お前ら! ホントに忙しくなるのは今日俺達が勝った後だ、ガッツリ書類仕事やら何やらあるから、今から気を張りすぎるなよ!」

『はい!!』

雛神ひながみ君も、あまり気を落とさず頑張ってね。前線で活躍するばかりが貢献こうけんじゃないさ!」

「……はい」

「うん。さあ、俺は俺の仕事だーっ」



 どこかへ去っていく伏里。

 桐山の指示であわただしく動き始める後方支援班。



 夢生も首を振って心配を打ち切り、桐山の指示を待った。


◆    ◆


数少ない生徒会派が、レピアの攻撃により吹き飛んだ。



「レピア」

「何よ。補習なんか受けないからね、アタシは」

攻撃が荒い(・・・・・)

「……な、何を急に――」

「話は後で聞いてあげるから。今は作戦に集中して」

「なっ……言われなくたって、」

私もあなたと話したい(・・・・・・・・・・)ことがあるから(・・・・・・・)

「……!」



 固まったレピアの先を行く風。

 話の内容に察しがついてしまったレピアは、舌打ちをしてそれに続いた。



 ――西校舎一階のはしに差しかかり、空気が一変する。



 廊下ろうかの突き当たり、その手前。

 鉄鎖てっさ南京錠なんきんじょうで閉じられた格子扉こうしとびらの向こうに、地下へと続く階段はあった。



「委員長、あのカギどうすん――」

雰囲気ふんいきだけは、」



 レピアが銃を逆手さかてに持ち――旋棍(トンファー)を一振り。



 激しい音と火花を散らし、格子こうし湾曲わんきょく――くさり錠前じょうまえが一緒に地に落ちた。



「いっちょまえじゃん」

「……すげェ」

「行きますよ、斑鳩先輩」



 風とレピアが、ほぼ同時に階下かいかへと足をみ入れ。



 独特のかび臭さに、足を止めた。



「うっわ何この……!?」

「……本当。雰囲気ふんいきだけはすごい」



 そこには、お屋敷やしきもかくやという有様ありさまが広がっていた。



 においについで目に入るのは壁。

 斑点状はんてんじょうの黒いカビにおおわれかけた、瘴気しょうきさえ発していそうなコンクリートの壁。

 切れかけている電灯が明滅めいめつし、その異様いようさを際立たせる。



 しかし、正面に続く廊下には更に見た者の心臓をつかむ、ここが学校であることを忘れてしまいそうなほどの光景があった。



「これ……全部牢屋(ろうや)かよ……!?」



 正面に伸びる一本道の廊下。

 本来教室などがあるべき場所に、留置所りゅうちじょかと見紛みまがうほどの牢獄ろうごくのきを並べるようにして設置されていた。



 戦前、「保管生ほかんせい」と呼ばれる問題児が集められ、時には監禁かんきんしての拷問ごうもんさえ行われていた最悪の教育機関、灰田愛はいだめ第七だいなな高等学校こうとうがっこう



 そのすべての悪性あくせいが、負のオーラに満ちたこの場所に染みついているように感じられる。

 さしものレピアも、われぬ圧に目を細めた。



「マジで生徒の霊でも出てくんじゃないでしょーね……?」

「さすがに、本来の目的には使われていないようですが。何かわながあるかもしれません。この先は私にも未知――皆さん、気を付けて進んでください」



 湿気しっけのあるコンクリートの床に足を下ろし、風が先頭になり廊下を進む。



 風の言う通り、牢獄ろうごくの中には人の姿はなかった。

 拷問器具ももちろん現存げんぞんせず、それらの名残が牢獄内の壁に残るばかり。



「牢屋ん中、なんか荷物いっぱいあんな。なんだありゃ……パソコンと何かの機械?」

「ベッドとかもあるじゃん、きったな……こんなとこで寝られるかっての」



 冷蔵庫が設置されている牢獄もある。

 電気は雑に床を延びる電工ドラム(コードリール)のケーブルから供給されているようで、床でからまりながらいくつもの牢獄につながっている。



 その先。



 地をうケーブルが収束している、簡素なアルミ製の引き戸がある廊下の突き当たりに、風達の目的地――生徒会室は存在した。



「……人、全然いねえな。階段降りるまでは邪魔くせーほどいたのに」

「厳重な鍵がしてありました。もしかすると、ここは幹部以上の者しか入れない場所だったのかもしれませんね」

「イミフすぎないそれ。なんでそこまでする必要あんのよ、秘密基地じゃあるまいし……あいつらマジ灰田愛に何しに来てんの?」

わからないわ」

「分からんって……w」

「本当にわからないのよ」



〝天羽先輩。あなたはどうして、そこまでして灰田愛を支配したがるんですか?〟


〝言っても解らねえよ。お前みたいな、自分が絶対の正義だと思い込んでる奴にはな〟



「何度聞いても、彼らは答えなかったから――でももう、」



 話しているうちに。

 生徒会室の扉は、風の目の前。



「理由なんて、どうでもいいかもしれない」



 言い終わると同時に。

 風が取っ手に触れ――少しだけあいた引き戸を一息に、開け放つ。



「うお、広っろ……!」



 斑鳩が目を見開く。

 そこは一見しただけで、風紀委員室の二倍以上の広さがあり――壁の一面が、モニターで埋め尽くされている部屋だった。

 大半のモニターは真っ黒だが、いくつかはまだ映像が出力されている。



「オイあれ……全部監視(かんし)カメラのモニターか!?」

「風紀委員側の校舎のカメラはほとんど潰しました。生きているのはさっき通った廊下のものと、宿直室のものくらいですね」

「ちょっっと待てや地味子じみこナニじゃアタシの生活こいつらに丸見えだったってコト!?!?!??」

「シャワーもトイレも別の場所だったんだから問題ないでしょう」

「あるよ!??!???」

「高値で出回りかけていた写真もすでに押さえてますからご安心を」

「写真!?!?? 高値!????!!??」

「来やがったか。とうとうここまで」



 ギ、とキャスター付きのイスが鳴る。



『!』



 暗がりの中、モニターの光に照らされる天羽と。



 その背後の闇に控えるように立つ、霧洩サクラの姿があった。


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