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恋のキューピッド、あの人を撃ちまくれ  作者: はっとりおきな
第4章 青春のしがらみ
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第25話 気持ちに・向き合う・とき



「…………」



 壁を支えに、再度崩れ落ちる夢生むう

 伏里ふすりあらい呼吸を繰り返す夢生むうを見下ろし、少し時間をおいて話しかけた。



「今、どんな具合だい? 雛神ひながみ君」

「……ありがとう、ございました、伏里ふすり先生。あの人、なんか……おかしくて」

「……早退。したらどうかな、今日は。もともと無理をおして、登校してきたんだろう?」

「……はい」

「うん、じゃあともかく保健室まで移動しよう。俺がかたを貸そうか? それとも……自分で歩くかい?」

「!…………歩きます」



 体を、引きずり起こす。



 心配そうに見守り、しかし決して夢生に触れないよう距離きょりを保つ伏里ふすりが、今はただありがたかった。



 自分に何が起きているかは分からない。

 だが体調不良には違いない。

 何よりも――



〝むーくんは私のだよ〟



きっと今、誰一人とも会わない方がいいから。



〝私のだから〟



 今この時、雛神ひながみ夢生むうは世界にいないことが、平和だから。

                (〝お前には〟)


◆    ◆


「担任の先生にも連絡したよ。タクシーも呼んだ。荷物はここまで持ってきてもらうよう、頼んである」

「ありがとうございます……」



 上の空で、伏里の言葉に返答する夢生。



 保健室のベッドは最近洗濯したのか、どこか洗い立ての、そしてだまりのにおいがした。



(……ふうちゃんが洗ったのかな)



 知らず、指がふうにばんそうこうをってもらったほおをなぞる。



〝そういうことを軽々(かるがる)しく言わないでよッッッ!!!〟


〝頼むから僕に付いてこないでッッ!!!〟



(……いつか。この思い出も、トラウマになっちゃうのかな)

「男の看病かんびょうでごめんな。この学校がもう少しまともになれば、養護ようごの先生も赴任ふにんしてくるようになるだろうから、今は俺で勘弁かんべんしてくれ。……って、ちょっと下世話げせわな話だったか」

「いえ……よかったです。伏里先生で」



 それは本音だった。

 何故か伏里相手だと、不調がそれまで以上にひどくなる様子はなかったからだ。



(理由は、たぶん……)

「さっきに比べて、だいぶ体調は落ち着いてきたみたいだな」

「あ、はい……ありがとうございま」

女の子が近くにいない(・・・・・・・・・・)から(・・)?」

「――――」



 夢生と目を合わせた伏里がすぐに視線を外し、夢生の寝るベッドの足側を通り、窓の外を見る。



「やっぱりそうなのか……もしかして、女性が苦手なのか? 雛神ひながみ君は」

「そんなこと――」

紀澄きすみさんとの言い合い、そしてさっきの霧洩きりえさんとの一件。その時と今の君の様子は明らかに違う。違い過ぎる」

「…………別に、たまたまですよ」

「もし――もしだよ? 彼女達に、俺に知らない所で何かひどいことを――」

「たまたまだって言ったでしょうッ!?」

「――……」

ふうちゃんも霧洩きりえ先輩も関係ないんですッ!! あくまで僕個人のッッ――」

「……個人の(・・・)、か」

「ッ……!」

「探りを入れるようですまない。実は、少し君のことを調べたんだ。君には、生まれたころから親御おやごさんがいない。ただでさえ大変な環境の中で、君は自分の家から一番近い公立高校に行かず、わざわざ灰田愛はいだめを選んだ。それはどうして? 君が、灰田愛はいだめに来た理由は何なんだ?」

「…………!!」

「…………いや、やめよう。ごめんね、少なくとも体調の悪い今、君を問い詰めるべきじゃなかった。でも覚えていて欲しい」



 窓際の伏里が、上半身だけをベッドから起こした夢生と目を、合わせる。



「同じ男だからこそ、理解できることも、力になれることもあるかもしれない。俺はいつでも、雛神君の味方だ」

「……先生、」

「いつでもいい。話したいと思った時には話してくれ。もちろん、相手は俺じゃなくたっていい。雛神君が一番、ねせず話せる相手がいれば――」



〝アタシとあんたの仲じゃん〟



 ――よく分からない言葉を、思い出したのと。



保健室のドアが開かれたのは、同時だった。



(――レピア――!?)

「!? あれ……男子に持ってきてもらうよう、伝えたつもりだったけど」

「……別に。頼んで、代わってもらっただけ。――むー。荷物持ってきた。どうしたってのよ、ホント大丈――」

「ありがとう」

「!? 雛神君――」

「ホントに助かったよ」



 ベッドから起き上がり、荷物を受け取り、夢生が保健室を出る。



 レピアとは、一度も目を合わせないまま。



 予想外のことに目を見開く少女を、横目に。


◆    ◆


「……デリカシーのないことを聞くようだけど。ソプラノカラーさんは、今雛神君とケンカ中なのかい?」

「デリカシーないと思うなら聞くなし。み込んでくんな」

「おっと、ごめんよ。でも少しだけ聞いてほしい。雛神君に関することだ」

「……何」

「雛神君、ミーティングの後で、紀澄さんとお昼を食べてたんだ」

「それが何?」

「どうも、その途中かららしいんだ。雛神君の様子がおかしくなったのは」

「……様子がおかしい?」

「うん。急に体調が悪そうになって、手を貸そうとした相手を激しく拒否してしまう。紀澄きすみさんにもそうだし、通りかかった霧洩サクラさんにも、はねつけるような態度だった。本人が言うには、彼女達が原因ではないらしいんだけど」

「……じゃあなんで?」



 レピアが伏里を見る。



 伏里がレピアを見た。



「分からない。僕も聞くことはできなかった――でも今、彼には誰か『話を聞いてくれる人(・・・・・・・・・)』が必要な気がする」

「気がする、って」



 伏里の言う『話を聞いてくれる人』が誰をさすのか思い至り、伏里から目をそらすレピア。

 伏里は苦笑して頬をかいた。



「教師のカンだけどね。君は最近ずっと、雛神君と一緒にいた。一番近くで、雛神君を見ていただろう?」

「別にっ、そんな言うほど――」

「あっ、こんな話をしたことは雛神君には内緒でね。俺も彼に嫌われたくはないから」

「…………」

「そんなわけで……一度。しっかりと彼の目を見て(・・・・・・)、話をしてみたらどうかな」

「……指図さしずすんなし」



 保健室を出ていくレピア。



 伏里はそれを、小さな笑顔で見送った。


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