第13話 女子率・0.3・%
風紀委員会VS生徒会の「こぜり合い」は、それから何度も起こった。
灰田愛第七高等学校各所を支配する生徒会幹部達と、そこを一般生徒に取り戻すべく侵攻する風紀委員。
より正確に言えば、紀澄風とレピア・ソプラノカラー。
それは言うまでもなく、圧倒的なワンサイド・ゲーム。
戦いは風紀委員会の圧倒的優位で進んでいた。
この二人の最強美少女により、風紀委員会の領地は拡大。
生徒会の領地は縮小の一途をたどり――――とうとう、いまや生徒会幹部も副会長の笠木、会長の天羽を残すばかりとなっていた。
それほどまでの劣勢に立たされておきながら、いまだ動かない会長と副会長を、雛神夢生は不気味にさえ感じ。
そしてその不気味さに比例するかのように、各所で大活躍の風とレピアの名声は高まっていき――
「うおおおおーーーーいレピアちゅわぁぁあああぁあ~ん!!!! 君が好きだァァァァ!!!!」「うっせぇなブッ殺すぞおめっ」「ワシはやっぱ紀澄の方が好みじゃのう、あの女史が身に着けている技は本物よ」「お前ほんとに灰田愛の生徒?」「………………」「なんで全身白スーツにシルクハットとバラの花束なんだオメーは帰れイギリスに」「イギリスのイメージ偏りすぎてねお前」「似合ってねーし」「風ちゃん愛してる~ぅ!!」「見られるんですよね!? 今日はついに!!! レピア様と風様のアレが!! みられるってことですよね?!?」「この日のために俺灰田愛にいる五年間で初めて早寝早起きしたわ」「お前二留してんのかよ……二十歳おめでとう」「うおーすりガラス! このすりガラスがニクい!!!」
(ゾンビ映画で見たことあるやつ……)
風紀委員室、の入り口前。
夢生があきれて見つめるそこには、まるでゾンビのようにひしめきガラスに顔を押し付ける汗臭い男子高生――風紀派のヤンキーたちがこぞって押し寄せていた。
「だァあああうッッッせェなあいつらッッ!! いくら言っても聞きやしねえし――オイ新入り!! ドアつっかえ棒!! 窓目張り!!!」
「は、はい!!(ゾンビ映画で見たことあるやつ……)」
先輩である風紀のメンバー、リーゼントの斑鳩に指示され、せっせとドアにつっかえ棒をし、窓をちょうどいいサイズに切り取った段ボールで塞ぐ。
もはや慣れた作業だった。
こうしたことはたびたびあった。
夢生とレピアが風紀委員会に入った直後など、二週間はこうしたギャラリーが絶えることは無かったほどだ。
目当てはもちろん、この学校で誰の彼女でもない美少女二人、紀澄風とレピア・ソプラノカラーである。
特にレピアなど、見た目からして思春期の野郎共の目には劇薬もいい所だ。
「ったく、猿共が……ちゃんと女子が入学し始めたら別の意味で『ハキダメ』になんぞ、ここ……」
「か、かもですね……」
斑鳩の言葉を肯定したものの、多少は仕方ないかもと思う夢生。
ほぼ男子校状態の場所に美少女がいきなり二人も転がりこみ、しかも一人は暴力的なスタイルの良さに、人に下着を見られても割と平気な性分ときている。
(僕もこれまで戦いの中で、どれだけレピアのパンツとかお尻とか――ん? そういえば、小さい動きとはいえ風ちゃんのパンツって一度も見死ね僕)
ゾンビ夢生は考えるのを止めた。
「手が止まってるぞ雛神」
「アッすみません死にます!」
「俺そんな気に病むこと言ったか今?!?!」
「ハッあっ、ああいえ! なんでもないです桐山先輩、すみません!」
桐山という、体格のいいオールバックに白いヘアバンドの男に慌てて頭を下げる夢生。
「謝る必要もないから作業続けろ。もうすぐ紀澄も来る、別の仕事もあるから急げって意味だよ」
「は、はい……」
ゾンビのようにうめく風紀派の男子生徒たちの視界を段ボール一色にし終え、桐山に頼まれた別の仕事に取りかかる夢生。
「しかしよー。こんだけ扱いづらい奴ら、また生徒会派に寝返っちまう奴出ちまうんじゃねーの?」
「え!? そ――そういうことってやっぱりあるんですか、斑鳩先輩!?」
「そりゃぁ俺らが風紀入ったころなんてすごかったよなぁ、桐山」
「ああ。何度も寝返られたり、かなり手痛い裏切りにあったこともある」
「懐かしいっすねー。雛神、資料できた。印刷したからまとめて」
「は、はい……」
眼鏡にモヒカンの、髪型の割に大人しい気質の田井中がパソコンをカタカタとやりながら言う。
夢生は話の続きが気になりながらも、今日の「行事」の資料に手を伸ばし――
「『でもいつかはきっと、分かってくれると信じてます』」
「……え? 桐山先輩、それは」
「それが、俺らが会った当初の紀澄風の口癖だったのさ」
「今思えば自分に言い聞かせてるよーなモンだったのかもな」
「かもっすねー」
桐山、斑鳩、田井中が口々に言う。
資料を揃える夢生の手は自然と止まってしまった。
「向かってくる相手には正面切って戦うが、同時に絶えず対話の手を伸ばし続ける。分かり合えると相手を信じ続ける。入学したての紀澄は、そうやって一人で行動してたんだ」
「……一人……」
「この灰田愛でだぜ? 狂ってんよなマジでw」
「正気の沙汰じゃないすねー」
「まったくだ、はは――」
「っ――す、すみません先輩方。そういう――」
「――だから俺らはここにいる。ようなもんだけどな」
「……え?」
「まったく、負けるよ紀澄には」
「なァ?」
「すねー」
何か夢生には分からない意思を疎通する先輩三人。
他のメンバーも知っていることなのか、夢生の周りの風紀委員達もみな小さく笑っていた。
「……先輩達って……」
『どいて』




