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恋のキューピッド、あの人を撃ちまくれ  作者: はっとりおきな
第3章 惚れ直す一瞬の非日常
13/63

第13話 女子率・0.3・%

風紀ふうき委員会いいんかいVS生徒会せいとかいの「こぜり合い」は、それから何度も起こった。



灰田愛はいだめ第七だいなな高等こうとう学校がっこう各所を支配する生徒会幹部達と、そこを一般生徒に取り戻すべく侵攻する風紀委員。



より正確に言えば、紀澄きすみふうとレピア・ソプラノカラー。

 それは言うまでもなく、圧倒的なワンサイド・ゲーム。

 戦いは風紀委員会の圧倒的優位で進んでいた。



 この二人の最強美少女により、風紀委員会の領地は拡大。

生徒会の領地は縮小の一途いっとをたどり――――とうとう、いまや生徒会幹部も副会長の笠木かさき、会長の天羽あもうを残すばかりとなっていた。



 それほどまでの劣勢れっせいに立たされておきながら、いまだ動かない会長と副会長を、雛神ひながみ夢生むうは不気味にさえ感じ。

 そしてその不気味さに比例するかのように、各所で大活躍の風とレピアの名声は高まっていき――



「うおおおおーーーーいレピアちゅわぁぁあああぁあ~ん!!!! 君が好きだァァァァ!!!!」「うっせぇなブッ殺すぞおめっ」「ワシはやっぱ紀澄きすみの方が好みじゃのう、あの女史じょしが身に着けている技は本物よ」「お前ほんとに灰田愛はいだめの生徒?」「………………」「なんで全身白スーツにシルクハットとバラの花束なんだオメーは帰れイギリスに」「イギリスのイメージかたよりすぎてねお前」「似合ってねーし」「風ちゃん愛してる~ぅ!!」「見られるんですよね!? 今日はついに!!! レピア様と風様のアレが!! みられるってことですよね?!?」「この日のために俺灰田愛にいる五年間で初めて早寝早起きしたわ」「お前二留してんのかよ……二十歳おめでとう」「うおーすりガラス! このすりガラスがニクい!!!」



(ゾンビ映画で見たことあるやつ……)



 風紀委員室、の入り口前。



 夢生むうがあきれて見つめるそこには、まるでゾンビのようにひしめきガラスに顔を押し付ける汗臭い男子高生――風紀派のヤンキーたちがこぞって押し寄せていた。



「だァあああうッッッせェなあいつらッッ!! いくら言っても聞きやしねえし――オイ新入り!! ドアつっかえ棒!! 窓目張(めば)り!!!」

「は、はい!!(ゾンビ映画で見たことあるやつ……)」



 先輩である風紀のメンバー、リーゼントの斑鳩いかるがに指示され、せっせとドアにつっかえ棒をし、窓をちょうどいいサイズに切り取った段ボールでふさぐ。

もはや慣れた作業だった。



 こうしたことはたびたびあった。



 夢生むうとレピアが風紀委員会に入った直後など、二週間はこうしたギャラリーが絶えることは無かったほどだ。



 目当てはもちろん、この学校で誰の彼女でもない美少女二人、紀澄きすみふうとレピア・ソプラノカラーである。

 特にレピアなど、見た目からして思春期の野郎共の目には劇薬げきやくもいい所だ。



「ったく、猿共さるどもが……ちゃんと女子が入学し始めたら別の意味で『ハキダメ』になんぞ、ここ……」

「か、かもですね……」



 斑鳩いかるがの言葉を肯定こうていしたものの、多少は仕方ないかもと思う夢生。



 ほぼ男子校状態の場所に美少女がいきなり二人も転がりこみ、しかも一人は暴力的なスタイルの良さに、人に下着を見られても割と平気な性分しょうぶんときている。



(僕もこれまで戦いの中で、どれだけレピアのパンツとかお尻とか――ん? そういえば、小さい動きとはいえ風ちゃんのパンツって一度も見死ね僕)



 ゾンビ夢生は考えるのを止めた。



「手が止まってるぞ雛神ひながみ

「アッすみません死にます!」

「俺そんな気に病むこと言ったか今?!?!」

「ハッあっ、ああいえ! なんでもないです桐山きりやま先輩、すみません!」



 桐山きりやまという、体格のいいオールバックに白いヘアバンドの男に慌てて頭を下げる夢生。



「謝る必要もないから作業続けろ。もうすぐ紀澄も来る、別の仕事もあるから急げって意味だよ」

「は、はい……」



 ゾンビのようにうめく風紀派の男子生徒たちの視界を段ボール一色にし終え、桐山きりやまに頼まれた別の仕事に取りかかる夢生。



「しかしよー。こんだけ扱いづらい奴ら、また生徒会派に寝返っちまう奴出ちまうんじゃねーの?」

「え!? そ――そういうことってやっぱりあるんですか、斑鳩いかるが先輩!?」

「そりゃぁ俺らが風紀入ったころなんてすごかったよなぁ、桐山」

「ああ。何度も寝返られたり、かなり手痛い裏切りにあったこともある」

「懐かしいっすねー。雛神、資料できた。印刷したからまとめて」

「は、はい……」



 眼鏡にモヒカンの、髪型の割に大人しい気質の田井中たいなかがパソコンをカタカタとやりながら言う。



 夢生は話の続きが気になりながらも、今日の「行事」の資料に手を伸ばし――



「『でもいつかはきっと、分かってくれると信じてます』」

「……え? 桐山先輩、それは」

「それが、俺らが会った当初の紀澄風の口癖だったのさ」

「今思えば自分に言い聞かせてるよーなモンだったのかもな」

「かもっすねー」



 桐山きりやま斑鳩いかるが田井中たいなかが口々に言う。

 資料を揃える夢生の手は自然と止まってしまった。



「向かってくる相手には正面切って戦うが、同時に絶えず対話の手を伸ばし続ける。分かり合えると相手を信じ続ける。入学したての紀澄は、そうやって一人で行動してたんだ」

「……一人……」

「この灰田愛でだぜ? 狂ってんよなマジでw」

「正気の沙汰さたじゃないすねー」

「まったくだ、はは――」

「っ――す、すみません先輩方。そういう――」

「――だから俺らはここにいる。ようなもんだけどな」

「……え?」

「まったく、負けるよ紀澄には」

「なァ?」

「すねー」



 何か夢生には分からない意思を疎通する先輩三人。

 他のメンバーも知っていることなのか、夢生の周りの風紀委員達もみな小さく笑っていた。



「……先輩達って……」

『どいて』



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