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恋のキューピッド、あの人を撃ちまくれ  作者: はっとりおきな
第2章 はじめの1歩はその衝動で
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第12話 風ちゃん・レピア・むーくん

『!!?』



 ――これには、さしものふうとレピアもギョッとした。



「……すん。すん――ん、」



 最後に、夢生むうの横を通り過ぎようとしていた、霧洩きりえサクラ。



 背も夢生むうと同じくらいであろう彼女がすれ違いざま、スッと彼の首筋に顔を寄せ――――夢生の肩でその豊満な胸が潰れるのにも構わず、彼のにおいを嗅いだのである。



「ん……すんすん……んん、」

「はっひゃっほっ、っは、はぁァ……!?!?!???」

「き――、霧洩きりえ先輩っ、」

「ちょっとあんた、マジ何やってん――」



 首筋に突如押し寄せた鼻息吐息に息を吸うことを忘れる夢生。

 止めるに止められずほおをわずかに赤らめうろたえるふう



 レピアがサクラの肩をつかむまで、その謎のくんくんは続いた。



「――――――――」

「……………………」



 前髪の分け目から片目で、サクラがレピアを見る。



 戸惑いを隠せない様子で、レピアがサクラを見る。



「………………」



 やがて音も無く、眼鏡さえも前髪で覆い隠し。



 霧洩きりえサクラは、天羽達の後を追っていった。



「……何。あいつ……ガチで変態なんじゃないの?」

「ひ、雛神ひながみ君。しっかりして、呼吸して。大丈夫? 特に何か――」

「た。たいちょぷてす……」

「ッ、しっかりしろこのムッツリむー!」

「いたいっ?!」

「レピア・ソプラノカラー。暴力――」

「あんたもいつまでフルネーム呼びだしっ!」

「今更でしょう。お互い様だし」

「やりにくいっつってんの、これから協力してやろうってんだから。感謝してよ!?」

「……え?」

「れ……レピア?」



 風が、続いて夢生が目をぱちくりさせる。

 空気を悟ったレピアが顔を赤らめ、夢生を叩いた。



「いった?!? なんで叩くのさっ!」

「うっさい、元はといえばあんたが先に言うことでしょーがなんでアタシが先だし! マジなんなんこの空気恥っず!」

「……あなたは雛神ひながみ君のためだけに……」

「その言い方やめい。んで事情変わった。あんなダサいムカつく奴らにいつまでもデカい顔させたくないからアタシもやる。面白い奴らの集まりかと思ったら、シャバいのはどっちだっつー……あんたもやるよね、むー!?」

「えっ! ぼ、僕が??」

「だから強要は――」

「あのシャバい会長は、ここから数週間で地味子を叩き潰すっつってた」

「!」

「アタシは別に地味子がどうなろうがいいけどさ。あんたはそれでいいの? 地味子(好きピ)が叩き潰されて、その後どうなっても、そうやってビクビク見てるっての?」

「ぴ……?」

「だ……だから紀澄きすみさんは、強いから別に、」

「昨日アタシに怒ってたむーはドコ行ったんだよ!」

「!」

「地味子が強いからとかどうでもいいの! あんたは何も思わない(・・・・・・・・・・)のか(・・)って聞いてんの!」

「――――!!」



〝むーくん〟



 ……そんなことは、少年も何度も考えた。

 でも、



雛神ひながみ君〟



 それを言葉にするのが怖かった。



〝むー!〟



 今の関係が壊れてしまうのが――――壊してしまう(・・・・・・)のが、怖かった。



 自分の言葉で、行動で何かが決定的に損なわれてしまうことを、夢生は恐れていた。



(でも、もし――――僕が関わらないことで損なわれてしまうものが、あるとしたら?)



 少年の中を反響する自問。

 だが答えなど出ている。

 少年はとうに、



〝それ以上ッ、風ちゃんのことを悪く言うなッ!!〟



 とうに、守ること(・・・・)を始めていたのだから。



「――――僕だって風ちゃん(・・・・)を守りたいっ!!」

「!」

「――――それが答えでしょ。いつまでウジウジしてんの。ホラッ!」

「わっ……!」



 背を押され、紀澄きすみふうの前に立つ雛神ひながみ夢生むう

 あわてて目元のよくわからない涙をぬぐい、――きょとんとした顔の風を、意を決し見つめる。



「……雛神君、」

「ッ――っ紀澄きすみさん! 僕――風紀委員会に入るよ! 今度は僕がっ、君を守るから!!」

「・・・。……」

「…………アッぃや、えっ? 今ぼく守ッ、エッ??!? あぁご、ごめんなさいそうじゃなくってッ!! 守るとかナニ言ってんだろタハハ、」

「オイ」

「僕が言いたいのはあの、そう、風紀委員になって紀澄さんの仕事を手伝いたいとかそういうことで、」

「ナニ言い訳してんのここまできてッ! オトコがガタガタ言い訳すんなしっ!」

「いい言い訳とかじゃ――」

「ぷっ、」

「――え?」

「あ?」



 灰田愛はいだめの、誰も見たことがないような笑顔で。



 紀澄きすみふうは、笑った。



「あははっ……締まらないね。どうせならカッコつけておけばいいのに」

「へ……へぇっっあはは、ハハハほんとその通――」

「……ありがとう。むーくん(・・・・)

「――――――――ゑ?」

「おっ……」



 硬直こうちょくする夢生。

 きょを突かれたレピア。



 風は少し照れ臭そうにはにかみながら、改めて夢生を見た。



「名前。さっき呼んでくれたでしょ。それ(・・)もいいかな、と思って」

「そ――そそそそ、それ(・・)って?!!?!?」

「これからは、同じ風紀委員だし。よかったら君も――――レピア(・・・)も、私を名前で呼んでくれないかな」

「は――ハァ?! アタシも!? 別にアタシは風紀に入るとか言ってないし! つか初手から塩かったあんたが今更何手のひらドリル――」

「でもむーくんの為に戦うんでしょ? だったら一緒じゃない。ね? むーくん」

「そ――そうだねっ!! 入ってくれるよねっ、レピア!!」

「アッこの、むーのくせに!!」

「あはは……力を借りるわ。これからよろしく、レピア。むーくん」

「うん、うん……! よ、よろしく。ふ――風ちゃん(・・・・)!」



――このような、青春な経緯けいいでもって。



夢生とレピアは、晴れて風紀委員会の一員となったのである。


◆    ◆


とある廊下。



「……でも実際どうすんだよ。無策だろ。このまま手ェこまねいてたらマジ潰されるぞ」

「いい。俺に任せとけ」

「任せててこの数か月どうなったッつってんだよ!!」

「黙れ笠木かさき!――――俺の力を知らねぇわけじゃねえだろ。黙って見てろ」

「………………知ってるから言ってんだろ。七光り野郎」



 去り行く会長の背を、副会長は苦々しくにらみ。



霧洩サクラはその後ろで、胸の上でリボンをれ弾ませながら、



「……くさい」



 そう、小さくつぶやいた。


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