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「プライド」

作者: 弘せりえ

川村あすか(26)刑事

佐山豊(32)あすかの先輩刑事

横山秀二(30)殺人犯

倉木啓介(53)あすかの父の後輩




ラブホテル・客室・中(夜)


    コギャル風の恰好をした

    川村あすか(26)が、

    横山秀二(30)とベッドに

    並んで座っている。


横山「ったく、20そこらで、

   いつまでも身売りできると思うなよ」


あすか「ひどーい、レイナ、まだ16よ!」


横山「ムリムリ、どう見ても20は、いってる」


    ニヤッ笑うあすか。


あすか「お金も欲しいけどさー、

何でレイナが秀チャンに会ってると思う?」


   ドキッとする横山。


あすか「・・・秀チャンは、ねぇ・・・

   キケンなニオイがするの」


   ふふん、と得意気に笑う横山。


横山「・・・別に・・・フツーだぜ」


あすか「そうかなー、レイナのカン違い?」


   横山、あすかに迫ってくる。

   それを避けるように、あすか、

   こっそり、ベッド脇のコートの中の

   盗聴器のスイッチを入れる。


あすか「フツーの人だったら、全然ドキドキ

   しなーい。つまんない」


横山「オレをキケンな人物にしたいわけ?」


あすか「何か聞かせて。コーフンするよ」


   あすか、色っぽい目で横山を見つめる。


横山「例えば、何が聞きたい?」


あすか「うーんとね、えーっとね・・・」


   そんなあすかの様子に、

   横山、失笑して、あすかに近づく。


あすか「いやん、ダメ、何かひとつ

   くらい教えてくれなきゃ、ヤダぁ」


横山「だから、何が聞きたいんだよ!」


   あすか、バカな小娘のように、


あすか「うーん、あっそうだ、例えば

  バットとかどうする?」


横山「バットぉ?」


あすか「金属バットとか、よく使うじゃん」


横山「今どき、そんなもん使うか」


   横山の手があすかに触れる。

   あすかの甘えた声。


あすか「捨てちゃう?」


横山「そうだな、ま、せいぜい

  池にでも、放り込むかな」


あすか「きゃはは!」


   あすかの興奮したバカっぽい声。

   それに刺激されて、横山、あすかに

   抱きつく。


横山「大井の沼なんか、絶好の場所だぜ」


   目を光らせるあすか。

   が、裏腹な甘い声を上げる。




多摩川警察署・一課・中(夜)


   佐山豊(32)が、憮然として

   あすかをにらんでいる。


佐山「まったく、また勝手に捜査班を

利用して」


あすか「ちゃんと手続きして、捜査して、

  このブツを発見したのよ」


   佐山、ビニール袋に入った

   サバイバル・ナイフを見て、

   ため息をつく。


佐山「・・・で?

   刃型は一致したんだな?」


あすか「バッチリ。被害者の血痕も

   一致したし、横山の指紋も出た。

   何か文句ある?」


佐山「当たり前だ。情報源は?」


あすか「バカな売春婦からのタレコミよ」


    佐山、イラッとする。


佐山「その、バカな売春婦からの

   タレコミって証拠はあるのか?」


    あすか、テープを出す。


佐山「・・・売春婦がわざわざ、

  盗聴テープまでとって、警察に

  持ってくるか?」


あすか「・・・ご想像に任せるわ」


    佐山、怒りで顔をこわばらせる。


佐山「ふざけるな、目星しい犯人と寝て、

   ウラを取る、そんなやり方が正しいと

   思っているのか?」


あすか「手段はどうであれ、証言と物的証拠は

   バッチリ一致してる。

   一般人からのタレコミかどうか

   判断するのは・・・」


    あすか、じっと佐山を見る。


あすか「アンタの器次第ね」


    佐山、カッとなって、立ち上がり

    かけたところで、あすか、部屋を

    出ていく。


一人になった佐山、イライラと

    しばらく部屋を歩きまわるが、

    やっとテープを再生する。

    突然響き渡る、あすかのわざとらしい

    幼な声。


あすかの声「いやん、ダメ、ひとつくらい

   教えてくれなきゃヤダぁ」


    佐山、ギョッとしてテープを止め、

    頭を抱え込む。


    その時、ドアをノックする音。

    佐山が振り返ると、そこに

    倉木啓介(53)が立っている。


倉木「・・・一杯、どうだね?」


    人懐こい顔で、佐山を誘う倉木。


焼き鳥の屋台(夜)


    並んでカウンターにいる佐山と倉木。


倉木「・・・川村あすか、か・・・」


    日本酒を飲みながら、

    つぶやく倉木。


倉木「・・・あの子の親父さんも、

   刑事だったって知ってるか?」


    驚いて手を止める佐山。

    二ヤッと笑う倉木。


倉木「そんなことも知らんで、

  惚れてるバカがどこにいる」


佐山「ほ、惚れてなんていないですよ!」


    倉木、笑いながら、酒を飲む。


倉木「・・・あの子の親父さんは、

  オレの先輩でね。川村徹・・・

  いや、実に、まっすぐな人だった」


佐山「・・・娘は、父親似ではない

   ようですね」


    倉木、黙って酒を飲む。


佐山「で、その親父さんは、どうしてるんですか?」


倉木「・・・死んだよ。

   あの子が中学生くらいの時に、

   犯人の女房に殺された」


佐山「犯人の女房に?」


倉木「たまたま、犯人の女房と知り合い、

   深い仲になって、事の真相を知った。

   相手が刑事だと知らずに、内情を

    語っちまい、夫を逮捕された女房は、

    たまったもんじゃない」


    佐山、酒を置く。


佐山「・・・親父さんは、今のあすかのような

   目的で、犯人の女房に近いたんですか?」


倉木「・・・それはわからない。

   が、その証拠のつかみ方が避難の的となり、

   川村徹は、殉職とは認められんかった」


佐山「・・・そんな・・・」


倉木「元来、まじめな男だ、真実を知って

   犯人を放っておけるわけがない。

   順序はどうであれ、犯人逮捕に踏み切った

   川村徹を非難する人間と、尊敬する人間がいる」


佐山「・・・川村徹が本当に真面目な人だったなら、

   あすかは親父さんの顔に泥を塗ってるんじゃ

   ないですか?」


倉木「・・・相当ひねくれた非難、なんだろう」


     大きくため息をつく佐山。


佐山「わざわざ親父の道をたどって、

   それを非難して、何になるんだ・・・」




多摩川警察署・屋上(夕方)


     不貞腐れて、フェンスにもたれる

     あすか。


あすか「何でダメなのよ」


佐山「あんなテープを音声鑑識に出せると

   思うか?」


あすか「テープは基本、必要ないじゃん。

  犯人の証言と証拠が一致すれば・・・」


佐山「それはそれで、一致される」


    ムッとするあすか。


あすか「私の手柄にはならないってことだけよね」


    佐山、黙ってうなずく。


あすか「結構よ、私は犯人が許せないだけで、

  自分の点数には興味ないから」


佐山「・・・許せないのは、犯人か、

  それとも、親父さんか・・・?」


    佐山の言葉に固まるあすか。


あすか「・・・なんのことよ」


佐山「倉木さんから、初めて聞いたよ。

   お前の親父さんのこと」


    イラ立ちながら、鼻で笑うあすか。


あすか「・・・父は、犯人の妻に情を移して

  しまう、バカな男だって?」


    佐山、あすかを見つめる。


あすか「父は、母と私を残して、

  あの女に、自分を殺させに行ったのよ。

  罪の意識から?

  バカバカしい。刑事のプライドで犯人を

  検挙して、男としてのプライドで、

  自分を自殺へと追いやった・・・」


    驚いて、あすかを見つめる佐山。


あすか「私はどっちもいらない。

  そんなプライド、両方いらない」


佐山「・・・なら、どうしてそんな躍起になって

  犯人を追いかける?」


    佐山のと言葉に、黙るあすか。


佐山「お前は誰より、親父さんに憧れて、

   刑事のプライドを以って犯人を挙げて・・・

   そして人間らしさを失っているふりをして

   親父さんを否定している」


    佐山、あすかに近づき、

    その体をぐいっと引き寄せる。


佐山「・・・親父さんの人間としてのプライドが

  怖かったんだろう?

  結果的に、お前と母親を置いていくことになった・・・」


    ちょっと考えてから、首をかしげ、

    ポロリと涙をこぼすあすか。


あすか「・・・同情なんていらないわ」


    佐山から離れようとするあすか。

    それを更に強く引き寄せる佐山。


佐山「・・・お前が、大事なんだ・・・」


    あすか、こわばらせていた体の力を

    ふっと抜き、佐山の腕に抱かれる。


あすか「・・・私は絶対、情になんて

  流されないもん・・・」


    佐山、あすかの髪をやさしくなでる。


    ポロポロ涙をこぼすあすか。


あすか「・・・流されないもん・・・」




               完

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