第7話「警鐘!亀の涙は自然の叫び」
今日も今日とて、地球を狙うキマシティウスの驚異は町に迫る。
「おい!アレを見てみろ!」
だが、今回は様子が違う。
いつもはメカメカしい外見の、いかにもロボットと言った感じの姿をしているリリィナイト。
だが、その日現れたのは………。
「………カメ?」
カメであった。
甲羅を背負った、は虫類な外見の、いかにもなカメ。
大きさを除けば、カメそのもののリリィナイト「タートロン」だ。
『カメカメ~、ボクは元々海ガメだったカメ~』
突然、タートロンが喋りだした………が、リリィナイトに某勇者のような意思を持つロボットはおらず、スピーカーから録音された音声を流しているだけだ。
『でも、君達人間の環境破壊によって、こんな姿になってしまったカメ~苦しいカメ~』
が、町をゆく人々には、タートロンは生き物にしか見えないし、
意思を持って喋っているようしか見えない。
そして………地球を侵略者から守るロボット=ジーレックスを、見た目だけで批判するような愚かな民衆には、
タートロンが自然破壊によって突然変異を起こしたカメの怪獣にしか見えない。
「俺達が、文明と科学を優先したばっかりに、罪もない海ガメがこんな姿に………!」
「そうだ………地球は人間だけのものじゃないんだ!」
「僕たちは………考え直さなきゃいけないんだ………」
そんな、よくある自然破壊を題材にしたエピソードのラストシーンのような雰囲気が流れているが、言う間でもなくこれはキマシティウスの作戦だ。
そしてそれは、どんな作戦なのか………?
………………
衛生軌道上の母船にて、サンアコール三十世は、愚かな地球人類達を前にほくそ笑んでいた。
「イザベラ、貴女の作戦は上手くいったようね………」
「はい、上手くいきましたであります………!」
作戦立案者のイザベラも、悪い顔で微笑み、愚かな人類は考え直さなきゃいけないんだムーヴに包まれる人々をバカにして笑っている。
「サンアコール様、知っての通り人類文明にとって、今やプラスチックは無くてはならない物であります………」
イザベラの言うとおりだ。
今読者の君達が触っているスマホやタブレットも、作者が嗜んでいるプラモデルも、全てプラスチックが組み込まれている。
今やプラスチックは、文明社会に無くてはならない物だ。
「そこに、プラスチックのせいで怪獣化したという設定のタートロンを使い、あたかも自分達がプラスチックを使ったせいで自然を苦しめていると錯覚させる!」
「実際にウミガメを苦しめているのは、主に外国が海に捨てたプラスチックだというのに、愚かな日本人達………」
しかし、そこにプラスチック汚染で変異した元動物の怪獣 (に偽装したリリィナイト) を呼び出すとあら不思議。
80~90年代にかけてのアニメで描かれたような反科学・反文明思想に染まりきった日本人は、プラスチックを使う事に罪悪感を覚えてしまう。
かつて「科学の発展よりも、忘れちゃいけない物がある」と様々なメディアで吹聴し、科学者や技術を冷遇したように。
「後はいつもの下り坂!アホな自然保護団体は喚き散らし!バカな政治家はセクシーにプラスチック規制法案をブッ立てて!経済がガタガタになった所を一気に攻め混む!」
なんとも回りくどい作戦であるが、これもまた敗戦国かつ自然主義の日本人の精神構造に一番効く作戦である。
戦勝国で宗教上の理由から人間第一思想のアメリカでは、こうも上手くはいくまい。
「さぁ~あ!愚かな人間共よ!正義に目覚めたつもりになって、我々キマシティウスの為の侵略の土台を作るでありま~す!」
上機嫌になり、ぴょんぴょんと躍りながら、モニターの向こうの愚民達を嘲るイザベラ。
いつもそうだ。
甘い言葉の裏にあるのは、こういった巨悪の陰謀なのだ。
………………
『カメェ~苦しいカメェ~助けてカメェ~』
それが記録された音声である事にも気付かず、タートロンの足元の愚かな民衆は、まるで自分が某虫と仲のいいお姫様にでもなったつもりでいる。
そこに。
『ロケットクロォォーーーーーッッ!!』
ぼごぉんっ!!
と、タートロン向けて飛んできた鉄拳………ならぬ「鉄爪」が、タートロンの巨体を殴り飛ばす。
「ああ!カメさんが!」
「愚かな人類の犠牲者のカメさんに、誰がこんな酷い事を!」
「あいつだ!そんな非道をやれるのは、あいつしかいない!!」
ズシンッ!と、地面を揺らして現れたのは、毎度お馴染み市民の嫌われものである正義の恐竜型スーパーロボット。
GAEEEEEEN!!
翔太朗を乗せて戦う、我らがジーレックスだ!
「出たなジーレックス!」
「人類の恥め!」
かわいそうなカメ (だと思い込んでいる) タートロンに不意打ちを食らわせたジーレックスは、当然のごとく市民達からの罵声を浴びる事になった。
「科学の暴走が生んだ殺戮マシーン!」
「正義の心振りかざして牙を向くヤツ!」
「人類には過ぎた力!早すぎる力!」
「地球を守る為なら何をしてもいいんですか!」
「これだから人間は!愚かなり地球人類!!」
何処かで聞いたような、バカの一つ覚えのようなフレーズをこれでもか!とぶつけられるジーレックス。
だが翔太朗は、この程度の罵声など慣れたものだ。
それに。
『バカなのはテメーらだろうが市民諸君!!』
「何ッ!?」
今回は「反論」もできる。
『テメーらには、あれが自然破壊の犠牲者に見えるのか?!』
「な………ッ!?」
翔太朗がジーレックスの指で、ビシィッ!と指差す先。
そこには、ロケットクローの一撃からよろよろと立ち上がるタートロン。
して、その姿は。
『ガガガガ………ピピピピ』
頭部に受けたロケットクローにより、偽装が破れ、機械の地肌が露出した姿。
スピーカーも壊れたらしく、口からはノイズが漏れている。
「あれは………!」
「あのカメさん、ロボットだったのか?!」
「なんてこった!俺達は騙されていたのか!!」
流石にこれで、かわいそうなカメを名乗るのは無理がある。
愚かな市民達も、ようやく自分達が騙されていた事に気がついた。
『いつもそうさ!口で自然の為だの子供の為だの言うヤツの腹の内は、おおよそロクなモンじゃねーんだ!』
種が明かされたなら、もうタートロンに出番はない。
タートロンに向けて、ジーレックスがその口を大きく開いた。
『食らえ!プラズマブレス!!』
GAEEEEEEEEEN!!
ジーレックスの口から、高熱のプラズマを噴出する熱線砲・プラズマブレスが放たれる。
あくまで工作用であるタートロンにはそれを防ぐ手立てはなく、大爆発!
どごぉぉぉん!と、夏の空に機械部品と着ぐるみの綿の雨が降った。
………………
「厄介な敵じゃったのう」
研究所でジーレックスの戦いを見守っていた鳳博士は、タートロンに踊らされた民衆を前に、深くため息をついた。
「皆口を揃えて、科学より心だ、金より魂だのと言うが………内面的な物は豊かさがあって初めて成り立つ物というのは、案外誰も知らんのじゃ」
科学者の一端として、ああいう愚かな民衆に潰されていった同業者達を知っているからこそ、彼の言葉には重みがある。
そのくせ、あの手の民衆は一時期流行った水素の水のような詐欺まがいのエセ科学にはとびつくのだから、なんとも度しがたい。
「果たして、愚かな人類はどっちなのかのう?愚民諸君?」
目先の「かわいそう」という感情に引っ張られて、あわやキマシティウスの地球侵略に加担する所だった民衆を、鳳博士は冷ややかな目で見つめていた。
………と、シリアスモードはここまでにして。
「おい翔太朗!翔太朗よ!」
『んあ?何だよジジイ』
「帰ったらス○ブラやるぞ!スマ○ラ!」
『マジで?!手に入ったのかよ新作!!』
「おうよ!転売ヤーより先にお店で買うのは大変だったわい!」
『よし!じゃあ急いで帰るわ!目黒川や弥生にも連絡だ!』
「メロディー先生やまりんちゃんにはワシから連絡しとくぞい!山盛りのコーラとポテチを用意しとくぞい!!」
『っしゃあ!!空調ガンッガンに効かせた部屋で、今夜は○マブラ三昧だぜーー!!』
と、翔太朗達はまあまあ環境にダメージを与えつつ、楽しい時間を夜通し過ごすのであった。
え?仮にも正義のヒーローがこんなオチでいいのかって?
いいんですよ、いいんです。
だってそれが、強竜ロボ ジーレックスなのですから。