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強竜ロボ ジーレックス  作者: なろうスパーク
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第6話「邂逅」

「………ううむ、これは………」



時刻は、午後6時。

子供達は学校を終えて、お母さんは家事の合間に、お父さんは仕事から帰って来てホッと一息ついているであろう時間。



「さて、どうしたものか………」



キマシティウス四天王が一人・男装の麗人シアラは、困っていた。


その日シアラは、同じく四天王のリーガルと共に地球に来ていた。

サソリ女型のリリィナイト「スコルビアン」で、今度こそジーレックスを倒すとリーガルは息巻いていた。


リーガルがジーレックスと戦う事に便乗し、ついでに地球でコーヒーでも飲みに行こうと考えたのだ。

公私混同も甚だしいが、キマシティウスでは四天王だから許される。


そして、問題はここからである。

リーガルは戦いに夢中になり、ジーレックスに破れると、シアラを連れて来ている事を忘れて帰ってしまったのだ。


置いていかれたシアラには、一人で母艦に帰る手段はない。

アンジュリアは現在メンテナンス中で呼び出せないし、コーヒーを飲む為だけに来ていたので、ホテルに泊まるだけの資金もない。



「仕方ない、適当な公園で野宿か………」



そんな、美しさが絶対正義たるキマシティウスの四天王としては、いささか問題のある手段を取ろうとした、その時。

すぐ近くから、聞き覚えのある声が聞こえてきた。



「おや?あの声は………」



声のする方向に視線を向けると、そこには………。





………………





その日弥生は、愛読している漫画を買う為に、翔太朗と一緒に帰らなかった事を後悔していた。



「あの………ほんと、帰っていいですか」

「いいわけないだろうが!軟弱野郎が!!」



弥生を取り囲んで恫喝している、まるで昭和の不良漫画に出てくるような、大野学園の制服を着た厳つい男子達。


彼等は、大野学園の空手部員達。

彼等は所謂、大野学園におけるスクールカーストの上位メンバーであり、学校の法と秩序の守護者として君臨していた。


………と、言うのは3年前までの話。


大野学園に翔太朗が入学し、その年に当時の空手部部長を喧嘩で還付なきまでに叩き潰した事により、空手部の支配は終わりを告げた。


と、言うのも、彼等の支配は暴力に物を言わせた恐怖政治であり、いじめも当然のように横行していた事が、翔太朗には許せなかったからだ。


完全に彼等の自業自得なのであるが、そんな事はお構い無し。

翔太朗に勝てないからと、彼と仲のいい弥生に鬱憤をぶつけようと言うのだ。



「大体貴様は何だ………男のくせにチャラチャラと着飾りおって、軟弱な!」



そして何より、中性的な………彼等からすれば「ナヨナヨ」して、更には薄めとはいえ化粧までしている弥生は、

筋肉と男らしさこそが正義である彼等からしたら、到底許せる物ではない。


………もっとも、翔太朗に勝てないからと弱い弥生をターゲットにする奴等に、男らしさがあるかというと疑問だが。



「歯を食いしばれ!貴様の腐った根性を修正してくれるッ!」

「ひいっ………!」



ぶおんっ、と、空手部員が弥生に向けて拳を振り上げる。

が、その拳が弥生を殴り飛ばす事は無かった。



「がふぅあっ!!」



むしろ、逆だった。

弥生を殴ろうとした空手部員が、逆に吹っ飛ばされた。

何事かと思い、弥生が目を開くと。



「えっ?」

「大の男が寄ってたかって………恥ずかしくないのか?」



そこに居たのは、振り上げた足を戻し、構えを取るシアラの姿。

どうやらシアラが、空手部員を蹴り飛ばし、弥生を救ったと見ていいだろう。



「このアマ!俺達の邪魔しやがって!」

「許せねぇ!畳んじまえ!!」



邪魔をされた事に怒り、空手部員達が一斉にシアラに襲いかかる。


厳つい男数名と、女一人。

どう見てもシアラの方が不利である。


だが、空手部員達が強いのは、あくまで格下の同じ学生に対してである。

それに、全力を出すにしても、空手の試合というスポーツの範疇でしか、彼等は戦った事がない。


対するシアラは、線こそ細いがこれでもキマシティウスの軍人。

それも、絶えず侵略戦争を繰り返すキマシティウスの中で、四天王と呼ばれる地位にいるような存在だ。

リリィナイトを降りた戦い方も、十分に熟知している。



「うわらば!」

「ひでぶっ!」



程なくして、空手部員達は全員叩きのめされた。



「く、くそっ!撤退だ!引け!引け!」



勝てないと悟った空手部員達は、そそくさとその場から逃げ出した。

まったく、男らしさとは口だけである。



「さて、怪我はない?お嬢さん」

「は、はい………」



そんなキザな台詞で、弥生を心配するシアラ。

心なしか、背景の担当が百合を貼るべきか薔薇を貼るべきか困惑しているように見える。



「助けたお礼………という訳ではないのだが、実は私も困っていてね、少し助けて欲しいんだ」

「は、はい!僕に出来る事なら何でも言ってください!」



そして、公園で野宿する心配も無くなった。





………………





キマシティウス四天王として、仮にも男である弥生の家に泊まるのはどうかとも思うが、キマシティウスの価値観的には野宿するよりはずっといい。

それに、弥生が「男の娘」である事も相まって、特に襲われる心配もないという、シアラの独断もあった。


ちなみに、キマシティウス四天王とは言えないので、弥生には「海外旅行に来た外国人」と、身分を偽っている。

弥生も、仮面をつけた姿でしか会った事がなく、気付かれていない。



「………本当に、男の部屋、だよな?」



弥生の家………都内のマンションの一室に招かれたシアラは、驚いた。

両親とは別居中という彼の部屋は、本当に男の部屋かと思うぐらい、整理整頓されていた。


今シアラはシャワーを借りているのだが、髪の質をよくするシャンプーやリンス、肌の質をよくするボディソープが、各種充実して置いてある。

外の洗面台にも、化粧品がずらり。



「まあ、別に困る訳ではないが………」



男の部屋としては違和感を感じるものの、美を正義とするキマシティウスとしては、むしろスキンケア等も出来て好条件である。


シャワーを終えたシアラは、風呂場から洗面所に出る。

パジャマは、弥生が貸してくれた。

元よりスレンダー体型のシアラは、特に着ても問題はない。



「んっ?」



パジャマに着替え、洗面所から出ようとしたシアラは、ふとゴミ箱の中にある物に気付いた。

それは、本来男の一人暮らしには必要ない物で………。





………………





既に、外は夜。

シャワーを終え、借りたパジャマに着替えたシアラは、弥生の待つリビングへと向かう。



「あの、弥生くん、ゴミ箱の中にこんな物があったのだけど………」



用途によっては、キマシティウスとしてもアウトな展開になりかねない物である為、ゴミ箱で発見した「それ」について、シアラは弥生に問いかけようとした。


が、その心配は杞憂に終わった。



「えっ………?」



シアラが見たのは、弥生がまさに「それ」を開封し、取り出した錠剤を飲もうとしている所。



「だ………ダメだ弥生くん!何をやっているんだ?!」

「きゃっ!?」



それが、男である弥生にとっては毒同然の物である事を知っていたシアラは、咄嗟にそれを取り上げた。



「な、何をするんですか!?」

「君が飲もうとしているのは避妊薬だぞ?!男が飲んだら大変な事になるんだぞ!?」



弥生が飲もうとしていたのは、避妊薬。

妊娠を目的としない性交の際に、妊娠を避ける為に女性が飲む薬だ。


しかし、このジーレックスの世界においては、男性が飲むと発ガン性物質を体内にばら蒔く毒薬としても知られている。

保険金目当てで、この薬を夫に飲ませた妻が逮捕される事件も起きる程だ。



「だって………だって………!」



気がつけば、弥生は泣いていた。



「これを飲まないと………女の子になれない………綺麗になれない………!」



この避妊薬には、もう一つの側面もあった。

男性が飲めば、胸が膨れたり脛毛が生えにくくなる等の、女性的な特徴が現れるという側面もあるのだ。

なんでも、ホルモンに影響する効果らしい。



「僕は………綺麗になりたいんです………このままじゃ綺麗になれない………このままじゃ………!」



泣きじゃくる弥生。

何故、死の危険に晒されてまで、弥生は美しさに固執するのか。


………その理由は弥生の過去である。


弥生の実家は女系の一族であり、女性が強い力を持っていた。

だが婿養子として連れて来られた弥生の父親は、時代錯誤な考え方の所謂マッチョ主義だった。

日々義母や妻に見下される事に屈辱を感じていた父親は、弥生を「男の中の男」に育てようと、厳しい教育を施した。


弥生は、男らしさを押し付けられ、心を踏みにじられ続ける幼少期を過ごした。

それから逃げる為に、実家から離れた学校である大野学園を受験し、進学を理由に家を出た。


そしてその反動から、男らしさから逃れようとするように女装や化粧に走り、やがて精神まで女性になりつつある、というのが現状。


夜だというのに両親がおらず、

何の躊躇いもなくシアラを家に上げる事ができたのも、

一人暮らしだというのに家族写真すら見当たらないのもその為だ。



「醜くなんかなりたくない………男らしくなんかありたくない………少しでも………少しでも女の子らしく………!」



しかし、どう背伸びしようと、彼の肉体は男のそれ。

時間が経つに連れて、声は低くなるし、肩幅も広くなってくる。


男らしさによって抑圧された幼少期を送った弥生にとって、男らしさというのはトラウマの象徴であり、

自分が年齢を重ねる度に男らしくなっているという事が、我慢ならなかった。


それこそ、癌を誘発する薬品を飲んでまで、女の子らしくなろうとする程には。



「醜いのは嫌だ………醜いのは嫌だ………醜いのは嫌だ………!」



最早、強迫観念にも似た美への執念。

自らが美しくなくなる事への恐怖に、震える弥生。

そんな弥生を前に、シアラは。



「………そんな事は、ない」



気がつけば、シアラは弥生を抱き締めていた。

キマシティウス四天王がどうとか、男とか女とか、関係なかった。



「………君は美しい」

「えっ?」

「綺麗だ、弥生君、君は」



君は綺麗だ。

そんな、ずっと待ち望んでいた言葉を受け、弥生はずっと押し込めていた心の氷が、溶けるような温かい感覚を覚えた。

そして。



「うっ………ひぐっ………ううっ………」



弥生は、また泣いていた。

だがそれは、苦しみや悲しみの涙ではない。

ずっと、心のどこかで「異端」だと思っていた自分を、受け入れて肯定してくれた事への、喜びの涙だった。





………………





その翌日、泣き疲れて眠ってしまった弥生が目を覚ますと、そこにシアラの姿は無かった。

ただ一枚「ありがとう」と書かれた書き置きが残されているだけだった。


ただ一晩の事。

しかし、この一晩を過ごした「王子様」の事は、弥生の心に深く刻まれ、心を強く持つ為の支柱になった。


さあ、今日も一日が始まる。

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