第4話「参戦!お騒がせお嬢様」
さて、ここは翔太朗の通う「大野中学校」。
埼玉県にある、ごくごく普通の男子校である。
「おはよう、弥生」
「おはよう、翔太朗くん」
翔太朗と弥生は、そこに通う学生である。
その為、弥生も学校の規律に従い学ランを着ていた。
「先週はごめんな、買い物に付き合うって言ったのに、キマシティウスが攻めてきて………」
「別にいいよ、それに翔太朗くんが悪い訳じゃないでしょ?」
弥生は、翔太朗がジーレックスのパイロットである事を知る、数少ない人物の一人。
以前偶然乗る瞬間を見られたからだが、鳳博士は「秘密を共有する仲間がいるのも、スーパーロボットの王道パターンなのじゃ!」と、許してくれた。
運良く弥生も口が固く、ジーレックスの事は決してばらさなかった。
………そして、同じく秘密を共有する人物は、弥生の他にもう一人いる。
それは。
「翔太朗さまぁ~~んっ♡」
高くきゃぴきゃぴした声が響く。
男子校では聞こえるハズのない女子の声だ。
それを聞いた途端、翔太朗はびくっと飛び上がる。
「こ、この声は………」
嫌な予感が過ると同時に、それが当たった事を知らせるドスドスという足音が聞こえてくる。
ギギギと翔太朗が振り向くと、そこには。
「うふふふ~♡ご機嫌よ~~っ♡♡」
翔太朗にあからさまなハートマークを投げ掛ける、一人の少女が居た。
ピンク色の長い髪を揺らし、満面の笑みと緑色の瞳の輝く丸い顔を輝かせて。
翔太朗や弥生と同じ中学生ではあるのだが、二人以上に骨太で体格がよく、年齢に不釣り合いなむっちりした乳、尻、太ももを揺らしている。
「め、目黒………ッ!」
「翔太朗さまぁ~~んっ♡♡♡」
どごぉっ!!
決して、彼女は翔太朗に危害を加えようとしている訳ではない。
だが、その体格のいい身体で勢いよく抱きつかれるという事は、ちょっとした体当たりである。
勢いよく押し倒され、その豊満な身体の下敷きになってしまう。
「うふふふっ!ご機嫌よう、翔太朗さま♡」
「な、なんで朝っぱらからこっち来てるんだよ!?早ぇよ!!」
彼女の名は「目黒川香織」。
当然だが、彼女は大野学園の学生ではない。
その隣にあるお嬢様学校「従来院女子中学」に通う、生徒会長もやっている、お金持ちのお嬢様。
そして、弥生と同じく翔太朗とジーレックスの秘密を共有する人物。
彼女の場合は、ジーレックスとリリィナイトの戦闘に巻き込まれた際に助けられ、緊急的にコックピットに入る事になった事が理由だ。
「うふふふっ!愛する人と少しでも一緒に居たい………ごくごく自然な理由ですわ」
「だからってお嬢様が朝から男子校に来るのはどーなんだよ!?」
そして、助けられたのを理由に香織は翔太朗に惚れてしまったのだ。
どれぐらいかと言うと、このように朝っぱらからわざわざ男子校に会いに来る程。
挙げ句の果てに、大野学園と従来院の間に自由に行き来できる橋を作ろうとしているから驚きである。
「………あ、ちょっと待って」
その時、翔太朗の携帯が鳴った。
鳳博士からの着信である。
抱きついている香織を一旦離し、着信に答える。
「もしもし?」
『大変じゃ翔太朗!キマシティウスのリリィナイトじゃ!!』
見れば、学校の窓から見える、爆煙の上がる町。
間違いない、リリィナイトが暴れてるのだ。
「朝っぱらからかよ!?すまねぇ弥生!行ってくる!」
「う、うん!」
弥生に断りを入れ、翔太朗は駆けてゆく。
リリィナイトを倒し、町を守る為。
「………弥生さん」
「えっ?」
「翔太朗さまは………また戦いに行かれるのですね?」
その場に残された、弥生と香織。
香織は、戦いに向かう翔太朗を悲しげに見つめている。
そして、彼女の中に、ある決心が固まろうとしていた。
………………
町で暴れるリリィナイトを止める為、翔太朗はジーレックスで出撃する。
苦戦こそすれど、ジーレックスは負けた事は無かった。
だが、今回の相手はそう上手くいく相手ではなかった。
GAAAAッ!!
一撃を受け、ジーレックスが倒れる。
ジーレックスを殴り飛ばしたリリィナイトは、たしかに他のリリィナイトのような美しいデザインなのだが、
右腕には刺付き鉄球、左腕にはピッケルのような鎌を備えた、まるで古代ギリシャの剣闘士を思わせる外見をしている。
『あはははは!こんな物かよ!ジーレックス!!』
この「グラディエーター」は、それを動かす、アマゾネスのような褐色の肌と筋肉質な身体を持つキマシティウス四天王の一人「リーガル」の専用機として作られたリリィナイトだ。
なるほど、リリィナイトとしては若干野蛮なデザインだが、メスゴリラ気質のリーガルの専用機と考えれば、幾分か納得はいく。
『ジョーゼットもシアラも、こんな雑魚に苦戦してたってのか?ハッ!馬鹿馬鹿しい!』
そしてグラディエーターは、ジーレックス以上のパワーを持っていた。
左手の鎌をジーレックスの顔にひっかけ、背中を踏みつける。
GAAAA………ッ!
ジーレックスが、苦しむような声を挙げる。
ロボットに痛覚は無いのだが、ダメージが入っている事は解った。
『あはははは!このままバラバラにしてやるぜ!ジーレックス!』
このままでは、ジーレックスは破壊されてしまう。
絶体絶命の大ピンチ。
翔太朗の脳裏に諦めが浮かんだ、その時だ。
『お待ちなさい!!』
突如響く、渇を入れるかのような凛とした声。
無論、翔太朗の物ではないし、リーガルの物でもない。
「この声………まさか!?」
しかし、翔太朗はこの声を知っていた。
まさかと思った翔太朗の眼前に、その声の主………その操る、一体のロボットが現れた。
『地球を狙う不届きもの!たとえ天が許しても、ジーレックスとこの私が許しませんわ!』
キュラキュラと音を立てて、キャタピラのついた四つん這いの足を地面に立て、それはやってきた。
硬い甲羅の上には一門の大型キャノン砲。
揺れる尻尾の先端には、金槌を思わせるハンマー。
それも、ジーレックスと同じ恐竜。
鎧竜の一種である「アンキロサウルス」を連想させる外見をしていた。
「あれはバスターロックス!?」
翔太朗は、その機体を知っていた。
名を「バスターロックス」。ジーレックス開発の過程で作られた、試作型のロボットだ。
そして、それに乗っているのは。
「お、おい!お前まさか目黒川か!?」
『はいっ、翔太朗さま♡』
モニター通信に映ったバスターロックスのコックピットには、なんと香織の姿。
複座式のコックピットの左右には、彼女の操縦をサポートする二人のメイドの姿。
「なんでそんな物に乗ってるんだよ!?」
『博士に頼んだら、直ぐにOKを貰いましたわ』
「またあのジジイかっ!!」
易々とロボットを手渡した鳳博士に、憤る翔太朗。
香織を危険な戦場に出した事に怒っているのだが、当の香織はというと。
『私………翔太朗さまだけを危険な戦場に出すなんて、とても耐えられませんの』
香織は、無敵のスーパーロボット・ジーレックスに乗っているとはいえ、翔太朗だけが戦わされている事を、心の中で悔やんでいた。
そこで、鳳博士に直談判し、このバスターロックスを貰ってきたのだ。
少しでも、翔太朗への手助けをする為に。
『バスターキャノン、照準会わせ!』
『了解、バスターキャノン、照準会わせ!』
香織の号令と共に、メイド達がバスターロックスの背中の大型キャノン「バスターキャノン」を、グラディエーターに向ける。
『バスターキャノン、発射!』
ずわぉぉっ!!
大気を震わす轟音と共に、グラディエーター向けて放たれるバスターキャノン。
それはグラディエーター向けて真っ直ぐ飛び、その頭部に着弾した。
『ぐわあっ!?』
『やりましたわ!!』
ガッツポーズを取る香織。
残念ながら完全破壊にこそ至らなかったものの、グラディエーターの頭部カメラが破損。
視界を奪った。
『ま、前が見えねぇっ!?どうなってんだ!?』
ブラックアウトしたモニターを前に、混乱した様子のリーガル。
逆転のチャンスは今しかない。
「よーし、決めるぞ!ジーレックス!」
GAEEEEEEEEEN!
すかさず、ジーレックスがその右腕をグラディエーター向けて構える。
すると、前腕部の付け根あたりからジェット噴射が吹き出る。
そして。
「必殺!ロケットクローーーッ!!」
射出される、ジーレックスの右前腕部。
必殺「ロケットクロー」。
つまる所の、ロケットパンチである。
放たれたロケットクローは、グラディエーターの腹を一撃で貫いた。
『ま、まずい!脱出を………!』
どわぉぉっ!!
貫いた所が丁度エネルギーの炉心だった事もあり、たちまち、グラディエーターは大爆発を起こした。
広がる爆煙の中から、小さな円盤が飛んでゆく。
リーガルを乗せた、脱出ポッドである。
「ジーレックスめ………次は勝つからな!」
そんな捨て台詞を残して、脱出ポッドは空の彼方………衛生軌道上にあるキマシティウスの母艦へと消えていった。
「………助かったぜ、目黒川」
女の子を戦場に出した事は複雑だが、結果的にはバスターロックスのお陰でジーレックスは助かった。
それに対し、翔太朗は通信越しに香織に礼を言った。
『翔太朗さま………!ありがとうございます~っ!』
翔太朗からお礼を言われ、思わず立ち上がって喜ぶ香織。
「………えっ?」
その様を見て、翔太朗はぎょっとなった。
立ち上がった事で、香織の姿がはっきりと見えたのだ。
香織が着ているのは、パイロットスーツ。
パイロットスーツというには、パイロットの安全を守る事など1ミリも意識していないような、薄い………ぴっちりとしたスーツ。
特に胸が強調されるような、なんというか、ケイ素生命体と戦う某ロボットエロゲに出てくるスーツのようなアレ。
そう、以前鳳博士が、まりんに着ろと迫っていた、エロスーツである。
香織はまりん程ではないものの、女子中学生と呼ぶには立派な巨乳の持ち主。
それがこんな物を着れば、やはり大変な事になっている。
「………その格好、どしたの?」
『これですか?バスターロックスに乗せてもらう代わりに、鳳博士がこれを着ろとおっしゃってましたの』
「またテメェかクソジジイィィィィーーーーッッ!!」
巨乳なら中学生でもいいのかと、翔太朗の怒りの咆哮が木霊する。
この後、研究所に戻った翔太朗が、鳳博士に強烈な蹴りをお見舞いしたのは、言う間でもない。