最終回「開幕!新たなるジーレックス伝説」
戦いは終わった。
宇宙に破壊と死を振り撒いたアンチは、地球のスーパーロボット・ジーレックスの手により、引導を渡された。
キマシティウスも、アンチとの戦いでその戦力を殆んど失い、
また、アンチを倒したジーレックスを見て勝てないと悟ったのか、地球圏より撤退。
人類初の対異星勢力との戦いは、埼玉県川越市という小さな戦場で繰り広げられ、終結した。
そして、時は流れる………。
………………
ハワイ。
赤道付近に位置するこの島は、海外旅行の行き先の代表格とも言われ、多くの有名人や富裕層の別荘が建てられている、全体的にトロピカルージュな島だ。
そんな、ハワイの一角。
「目黒川グループ」の創始者である目黒川家が個人保有する、プライベートビーチにて。
「………なあ」
「何ですか?翔太朗さま」
浜辺に立てられたビーチパラソルの影に、二つのビーチチェアがある。
そこには、二人の男女が座り、波の音を聞いていた。
「俺、本当なら他の皆と同じように受験とか就職活動とかしなきゃいけないのに、こんな事してていいのかなぁって」
男の方は、アロハシャツに海パンという格好で、当然ながら身長も伸びて身体もがっしりしている。
が、それでも18歳と呼ぶにはやはり小さい。
「何を言ってますの!?」
すると、女は身を乗り出す。
ビキニに覆われた、Iカップから更に大きくなったKカップの爆乳が、どゆんっ、と揺れた。
「翔太朗さまは地球を救ったのですわよ?これぐらい当然の権利ですわっ!」
「そ、そう………?」
それならいいが。
と、目黒川香織に力説された「目黒川」翔太朗は、再びビーチチェアの上に寝転ぶのであった。
………………
時に、平成54年。
キマシティウス、及びアンチとの戦いが終わってから、4年の月日が流れた。
あれ程嫌われていた鳳研究所だったが、その技術が異星の侵略者を撃退したと知られるや否や、世界中の企業や政府がその技術を欲しがった。
そんな手のひら返し連中には、散々鳳研究所を叩いた日本政府の姿もあった。
鳳博士は自らの技術に特許をかけ、世界中との取引により多額の富を得た。
が、やはり自分をバッシングした挙げ句税金と称して自分の富を横取りしようとする、日本政府の事は許せないらしい。
研究所を海外に移し、そこで研究を続け、日本とは一切の取引をしない事にした。
愚かにも日本は、国民が目先の正義感と集団心理に囚われた結果、金の成る木を手放す事になってしまったのだ。
ちなみにまりんは、鳳博士の助手として研究を手伝いながらも、セレブ生活をエンジョイしているとの事。
ミズメロディーこと、メロディー・スワン。
彼女はしばらく日本を拠点にヒーローを続けた後、引退。
アメリカに帰国し、アメリカに日本のような表現の自由を根付かせる為に政治家に転身した。
相変わらずのOカップの超乳を強調したスタイルで、現地のフェミニストや子を持つ親に叩かれながらも、表現の自由の為に日々奮闘している。
そして、リリィナイトやアンチと直接戦った翔太朗。
契約通り一生働かずに済む程の大金を受け取った翔太朗だったが、なまじヒーローとして有名になり過ぎた。
働かずに生きていれば、ルサンチマンとイジメ欲求を「正義」や「世間の声」として正当化するクセのある「善良な一般市民様」が何をするか解らない。
そこで立ち上がったのが、目黒川香織だ。
香織は、翔太朗を婚約者として目黒川家に取り入れたのだ。
その上で、戸籍を日本からハワイに移し、翔太朗が18歳を迎えると同時に即結婚。
そのまま、ハワイに移り住んだのだ。
これで、日本人からの正義棍棒に怯える必要もなく、専業主夫という名のヒモニート生活をエンジョイできるという訳だ。
………………
「それとも………救世主サマは「二回戦」をお望みで?」
「ブッ!」
妖しく微笑みかける香織に、飲んでいたジュースを吹き出す翔太朗。
別荘にあるダブルベッドは「乱れたまま」だ。
二回戦とは、つまりそういう事である。
「二人ともーーーっ!!」
二人が、「二回戦」を始める前に、遠くから一人、走ってくる影が。
今日に限り、ここにはもう一人居るのだ。
「弥生!どうしたんだ?」
夜鷹弥生。
彼………いや彼女も、戦いに参戦こそできなかったが、れっきとした翔太朗の仲間だ。
服飾デザイナーの仕事を目指す彼女は、つい最近ロンドンへの留学が決まったのだ。
わからず屋の家族から逃げるという意味もあり、そな二重のお祝いに、この別荘に招いたのである。
着ている水着も、彼女のデザインによる自主製作物。
流石にあの避妊薬を飲むのは止めたが、代わりにお金に余裕が出てきた為に女性ホルモンを注射するようにしている。
滑らかな肩のラインや肉付き等、より女性的な身体になってきている。
………その分、未だに怖くて手術する決心がつかないという股関のモッコリが、目につくのだが。
「どうしたんだよ、弥生」
「こ、これ見て!これ!!」
弥生が差し出したのは、彼女の物である携帯電話。
そこには、ニュースが映し出されていた。
『ご覧下さい!これは現実の映像です!SFXではありません!!』
そこには、地球の軌道上に浮かぶ人工衛星の映像と、その隣に見える巨大な円盤の編隊………というか、どう見ても見覚えのあるシャンデリアのような宇宙船団。
「これ………キマシティウスか!?」
そう、見間違えるはずがない。
それは紛れもなく、4年前に地球から去ったはずの、キマシティウスの船団だった。
しかも、今回はあの巨大な母艦を三隻も連れてきている。
まさか、戦力を整えて再び地球侵略を?
翔太朗達が考えた、その時。
「………あっ!?アレは?!」
今度は、香織が空を指差した。
同時に、キィィンという飛行音に気づいた翔太朗と弥生も、空を見上げる。
そこには、太陽を背に受けて地上に舞い降りる、一体の巨大な影。
天使のような翼を羽ばたかせ、砂浜に舞い降りたその50mの巨大ロボットを、翔太朗達は知っていた。
「あのリリィナイト!?まさかッ!!」
リリィナイト・アンジュリア。
ジーレックスと何度も戦いを繰り広げた、キマシティウス四天王の一角にして、恐るべきライバル。
シアラの駆るリリィナイトだ。
まさか、侵略の邪魔になるジーレックスのパイロットである翔太朗を始末しに来たのか?
だが、シアラは正々堂々とした戦いを好む。
パイロットを直接攻撃するとは考えにくい。
ならば、彼女の目的は何だろうか。
「はっ!」
アンジュリアの頭部から、シアラが飛び降りてきた。
翔太朗達の前に着地したその姿は、4年前と変わらない凛々しい仮面の男装の麗人だ。
「お前!何の目的で………!」
警戒する翔太朗だが、シアラはそれを無視し、弥生の前にスタスタと歩いてゆく。
そして、弥生の前で仮面を取った。
「………久しぶりだね、弥生くん」
「あなたは………!」
素顔のシアラを前にして、弥生の胸の底に眠っていたあの日の記憶が甦る。
あの日、自分に生まれて初めて「綺麗だ」と言ってくれた、あの人。
ずっと恋い焦がれてきた「僕の王子様」。
「シアラさんっ!」
気がつけば、弥生はシアラの胸の中に飛び込んでいた。
「ずっと………ずっと、会いたかった………!」
「私もだよ、弥生くん………」
抱き合う二人には、やはり背景の担当が混乱しているのか、百合と薔薇の入り交じった何かが見えてくる。
「………あのぉ」
そんな、二人の世界を繰り広げているシアラと弥生だが、この物語の主人公は二人ではない。
完全に置いてけぼりを食らった翔太朗は、抗議するように二人を見つめている。
「とりあえず、状況を説明してくれる?」
「あ………!あ、ああ」
翔太朗の突っ込みにも似た質問に、シアラは弥生共々顔を赤面させて、ひとまず互いの抱擁を解いた。
………以下は、シアラの話。
キマシティウスが地球圏から撤退してから4年。
シアラは、どうしても地球の事………というか、弥生の事が忘れられずに居た。
キマシティウス四天王として、男に恋をするなどあってはならぬ事。
けれども、弥生に対する想いは日に日に大きくなり、胸が張り裂けそうな日々を送っていた。
そしてある日の事、シアラはとうとう、キマシティウス四天王やその他の地位を放り捨て、単身地球へ向かった。
全ては、「愛」の為に………。
………というのが、シアラがここにいる理由だ。
「………つ、つまり、キマシティウスが再び地球に現れた理由ってのは………」
再び、眼前で二人の世界を展開し出したシアラと弥生を前に、翔太朗はある答えにたどり着いた。
キマシティウスが再び地球に現れた理由。
それは、今目の前で百合が薔薇か解らない物を繰り広げている、裏切り者のシアラを追ってきたからという事。
そして、それが真実である事を裏付けるように、沖合いの方で水柱が立ち、巨大な影が姿を現す。
KISHAAAAAAAAA!!
雌の竜人のような姿をして、甲高い咆哮をあげるリリィナイト。
名を「メイディーンMk-II」。
地球での戦いで得られた、断片的なジーレックスのデータを反映させた、キマシティウスの新型だ。
「翔太朗さま!」
香織が、「解ってますわね?」というように翔太朗に呼び掛ける。
そうだ。
目の前に、地球の平和を乱す敵がいて、それがこちらに向かって来ている。
ならば、かつて地球を救ったヒーローとして、やる事は一つ。
「………ああ!」
翔太朗達は、別荘に向けて駆け出した。
そう、ヒーローとしての使命を果たす為に。
………………
ハワイ沖に出現したメイディーンMk-IIは、裏切り者のシアラを探し、海岸沿いの都市めがけて進撃する。
「あれを見ろ!」
「ロボットだ!」
「いや、怪獣だ!!」
街に迫る50mの機械の怪物を前に、人々は恐れ、逃げ惑う。
そして願った。
この危機を救う、ヒーローが駆けつける事を。
「あ、あれを見ろ!」
「またロボットか?!」
「また怪獣か?!」
「違う、あれは………!」
ヒーローは、現れた。
避難する人々が指差す先、メイディーンMk-IIを目指し迫る、一体の鋼鉄の竜を。
「ジーレックスだ!」
そこに現れたのは、ジーレックス。
目黒川がハワイに建てた別荘の地下に格納してあった、かつて世界を救った怪獣型スーパーロボット。
人呼んで「強竜ロボ」。
「多少のブランクはあるが………いける!」
コックピットに座る翔太朗は、操縦桿を握りしめる。
すると、次はどうするべきかが、手に取るように解る。
戦い方は、身体が覚えているのだ。
「さぁ行くぜ………ジーレックス!!」
眼前のメイディーンMk-IIを見据え、翔太朗は闘志を込めて操縦桿を倒す。
GAEEEEEEEEEN!!
大気を震わせる咆哮と共に、ジーレックスがメイディーンMk-II目掛けて進撃した。
今ここに、新たなるスーパーロボット・ジーレックスの伝説が始まる!
………………
強竜ロボ ジーレックス
おわり




