第10話「最終四部作・第一章!悪意襲来」
それは、宇宙の深淵を突き進む、白き光。
そこに、正義や信念はなく、ただ立ち塞がる物を否定し、破壊し、消す。
そんな、純粋な悪意に地球が………もっと言えば「正義のスーパーロボットと悪の軍団が戦いを繰り広げている」という状況が目をつけられるのは、ある意味必然的とも言えた。
『はぁ、くだらない』
全てを悟ったようなため息と共に、その白い悪意は地球へと進路を取った。
………………
一年に渡る、キマシティウスの地球侵略作戦は、ジーレックスという予想外の障害を前に、完全に阻止されていた。
次々と破壊されるリリィナイト。
四天王ですら歯が立たない。
サンアコール三十世はついに業を煮やし、ジーレックスに対して最終決戦を仕掛けてきた。
軌道上から、川越市上空に姿を現した、キマシティウスの巨大母艦。
それを見上げる、ジーレックスとバスターロックス、そしてミズメロディー。
「へへ、まさに決戦って感じだな」
緊張を誤魔化すように笑う翔太朗の視線の先には、今まで対峙してきたキマシティウス四天王と、その専用リリィナイトの姿。
シアラとアンジュリア。
リーガルとグラディエーター。
イザベラとメガッサー。
ジョーゼットと、初公開となる「ケルビム」という、巨大な盾を持ったリリィナイト。
そして、それらを従えるように立つ、巨大なリリィナイト。
ラッコンの頭。
メガッサーの耳。
アンジュリアの翼。
グラディエーターの腕。
ケルビムの盾が小型化した腹。
スコルビアンの足。
ヴェロッサの尻尾。
四天王機と、今までに出現したリリィナイトの強い部分を組み合わせたその機体は、リリィナイトというには歪で、ジーレックスと同じような………言ってみれば「怪獣」のように見える。
辛うじて乳房のようなパーツが見える事から、ギリギリメスの獣人と言い訳がつくかも知れない。
けれども、キマシティウスの兵器としては、やはりあまり美しいとは言えなかった。
なりふり構っていられなくなった。
言い方を変えれば、本気を出してきたとも言える。
『ジーレックス!今までよく私達の侵略に耐えてきました、けれど、ここまでです!!』
そのリリィナイトの名は「バーサークイン」。
サンアコール自身が乗り込み、戦う、対ジーレックス用の最終兵器である。
『上等だ!お前を倒して、この戦いを終わらせてやる!行くぜジーレックス!』
GAEEEEEEEEEN!!
ジーレックスとバーサークインがぶつかり合う。
『我々も行くぞ!』
『まかせるであります!』
『勝負ですわ!!』
バスターロックスと、アンジュリア、メガッサーも。
『あんなチビひねり潰してやる!』
『防御なら任せてくださいまし!!』
「カムヒアッ!返り討ちにしてやりマース!!」
ミズメロディーと、グラディエーター、ケルビムも。
キマシティウスと鳳研究所。
双方の総力を結集した、最終決戦の火蓋が切って落とされた。
………………
川越狭しと繰り広げられる、ジーレックス達の決戦。
それを研究所のモニターで見守りながら、鳳博士は大興奮していた。
「くうう~~っ!熱い!熱い展開じゃ!!」
合体四天王みのあるラスボス。
全力を投入しての最終決戦。
鳳博士からして、これ程好条件かつロマンに溢れた最終決戦はなかった。
最も、これがアニメやゲームではなく実際に眼前で行われている、被害も死者も出る戦いである以上、この博士は正義のロボットを作る科学者ではなく「戦いをエンターテイメントとしか見ていない吐き気を催す邪悪」である。
だが、この作品がおふざけ全開であるジーレックスである以上、このドグサレが裁かれる事も報いを受ける事もない。
なんとも、胸糞の悪い話である。
作者は一度、正義や道徳について学び直すべきではなかろうか。
「………待ってください!博士!」
有頂天の鳳博士に、まりんが割り込んで来た。
「なんじゃい、人が気持ちよくなっとる時に」
「宇宙センサーに異常あり!こっちに向かってくる影をキャッチしました!!」
「なんじゃと!?」
まりんの言った通り、ハッキングした宇宙ステーションの映像には、宇宙から地球目掛けて飛来する一つの光球のような物が。
「どこに向かっておる!?」
「それが………ここです!埼玉県です!!」
「なんじゃとォ!?!?」
唐突の来訪者に、顎が外れるほど驚く鳳博士。
こうしている間にも、謎の光は日本の埼玉を目指していた………。
………………
ジーレックスとキマシティウスの最終決戦は、なおも続く。
互いに、一進一退の攻防戦を繰り返していた。
『このッ!このッ!汚らわしい男め!!』
『汚らわしいのは、他人を汚物としてしか見れないアンタ達だ!!』
そんな、80年代のロボットアニメのようなディスカッションを繰り返しながら、殴りあうジーレックスとバーサークイン。
性能差故か、軍配はバーサークインの方に上がっていた。
四天王も、バーサークインが有利と見るや攻撃を強める。
追い詰められてゆくジーレックス達。
ここまでかと思われた、その時。
「………ワッツ?」
まずは、ミズメロディーが気付いた。
次に、香織とメイド達。
そして、四天王。
隕石のように空から現れた白い光は、激闘を続けるジーレックスとバーサークイン目掛けて飛来する。
そして。
『うわあっ!?』
『きゃああ?!』
ジーレックスとバーサークインの間に割り込むように落下。
強烈な光と爆発により、ジーレックスとバーサークインは弾かれるように吹き飛ばされた。
『な、何だ………?』
吹き飛ばされたジーレックスが、ゆっくりと立ち上がる。
翔太朗が、ジーレックスのコックピット越しに見つめる先。
上がった爆煙と土埃の向こうに、ゆらりと、一つの影が立ち上がった。
それは………。
『………は?』
『………え?』
その姿を見た翔太朗も、サンアコールも呆気に取られた。
普通こういう時は、恐るべき第三勢力が出現するというのが王道のシチュエーションである。
しかし、彼等の前に現れた「それ」は、あまりにも強敵とは言い難い姿をしていた。
フリーのイラスト素材のロボットを検索すると、分かりやすいだろう。
もしくは、児童向けの絵本に登場するような姿。
四角い頭と身体に、細長い腕と足。
ペンチのような手に、メーターのような目と口。
白いボディをした、嫌にシンプルなロボットが、そこに立っていた。
『あれは………!?』
その姿を前に皆が呆気に取られる中、シアラの顔はどんどん青ざめてゆく。
『貴方、何者です!?私は今ジーレックスとの決戦を………』
『な、なりません!サンアコール様!!』
しかしサンアコールは決闘の邪魔をされたと感じたのか、バーサークインで白いロボットにずけずけと近づいてゆく。
シアラが制止しようとするが、もう遅い。
『………ッハァ~~~ッ、くっさ』
直後、白いロボットから、わざと聞こえるようにしたかのようなため息が聞こえてくる。
パイロットが喋ってると言うよりは、あのロボットその物が喋ってるように聞こえた。
『な、何のつもり!?』
『言ったまんまだよ、くせぇつったんだよ、アンタのその決闘だの何だのを美化するような精神が、そんな物、少年ヤングの漫画でしか通じねぇっての』
何故、あからさまに宇宙から来たこの白いロボットが、地球の少年漫画の名前を知っているかというのは、一旦置いておく。
白いロボットは、サンアコールを小馬鹿にして煽るような態度を取る。
『な、な、な………!?』
当然、そんな煽りを、ヒステリックなサンアコールが受け流せる筈もない。
湯気が上がる程顔を真っ赤にさせ、怒りをむき出しにする。
『もう許しません!潰れなさい!!』
バーサークインが、右手の鉄球を振り上げて、白いロボット向けて殴りかかる。
普通に考えれば、骨組み同然の白いロボットが受けたら、ひとたまりもない。
サンアコールも、この一撃で白いロボットを破壊できると考えていた。
だが。
『………は?』
白いロボットが、振り下ろされたハンマーの一撃を、そのペンチのような腕で受け止めた。
かと思うと、次の瞬間にはハンマーがバーサークインの右腕ごと砕け散った。
『な………な………!?』
状況が飲み込めないサンアコールの眼前で、白いロボットは次の行動に出た。
今度は左のペンチ腕を、突きつけるようにバーサークインに叩きつける。
『はぁ~、あほくさ、何必死になってんの、アンタ』
ペンチ腕は、バーサークインの腹の盾を砕き、本体ごと破壊する。
上半身と下半身に別れた、バーサークインは、それぞれが地面に落下した。
『嘘だろ?!一撃で………!?』
驚く翔太朗。
バーサークインは、今まで負け無しだったジーレックスが押されるほど強く、これまでのリリィナイトと比較しても桁が違う。
それが、こんな簡単に、あっさりとやられてしまうなど。
『………アンタもだよ、そこの怪獣モドキ』
『ッ!?』
瞬間、白いロボットと目が合った。
狙いを、こちらに変えてきたのだ。
『この………ロケットクローーッ!!』
ならば、先手必勝。
白いロボット向けて、右のロケットクローを放つ。
だが。
『はい、おしまい』
バチンッと、白いロボットにはたき飛ばされてしまう。
ロケットクローは回転しながら明後日の方向に飛んでゆき、近くのビルに突き刺さった。
『バカな………?!』
今まで、どのリリィナイトにも弾かれた事が無かったロケットクローが、こうも簡単に弾き飛ばされた。
あの白いロボットのか細い腕のどこに、そんな力があるのだろう。
『だったら!プラズマブレェェェェス!!』
だが、驚いている時間はない。
だったら次はこれだ。
プラズマブレスを、白いロボット向けて吐きかける。
だが。
『は?今の何?』
それすら、白いロボットには通じない。
高熱のプラズマの炎を浴びても、破壊所か焦げ目一つつかない。
ジーレックス最大の武器も、あの白いロボットには通じなかった。
『つーかめんどくさいからさ、もう終わりにするから』
白いロボットが、そのヘラのような足で地面を蹴り、ジーレックスに向けて迫る。
避ける間もなく、眼前に迫る白いロボット。
次の瞬間、強烈な衝撃と共に、翔太朗の意識は途切れた………。