表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
AI人間  作者: uisan
1/1

人間とは何なのか?

今からそう遠くない未来の話。全世界はAIによってすべてを統括していた。日常生活における本来人間が行ってきた行動や思考、社会における労働や決断、人間における「命」までもAIが取り込まれ、人々の暮らしはより豊かなものになると考えられていた。

そしてさらに数十年後ついには、人間は実態のない死と電子の壁を超えた。進化したAI技術により人は肉体の死後、その魂、つまり脳のデータをAIに移し、肉体の存在しない人間「AI人間」として生きることができるようになった。Ai人間となった者たちは居住区を電子の世界に作り上げた現実世界とそっくりな空間で過ごしている。その世界では本人が望む年齢の姿となることができ、電子の世界でありながらも肉体も存在した。もちろん、プログラムに構成された肉体だが、生きていた頃と何ら変わらない生活が送れる世の中になっていた。こうして世界には死という概念が無くなり、現実世界と電子世界の完全に二分化されたいわば2つの地球が交わる世界となった。


とある日の昼下がり、ここにも今まさに肉体がその生命を終えて現実世界から電子の世界へと旅立とうとしている若者がいた。彼は齢二十歳にして大病を患い数年間の闘病生活を続けてきたが肉体が薬に耐えられる限界を迎えてしまい、今人間である最後のひとときを病気で感覚の失われた状態で過ごしていた。闘病中は薬の副作用などで痛みや苦しみと戦ってきたが、それらすべての措置をやめると体自身諦めがついたのか痛みや苦しみはおろかそれを引き起こす感覚まで消し去っていた。彼の手足は動くことはなくかろうじて動く顔で、周りを取り囲む家族に向けて別れの挨拶をしていた。

「か、、、あさん。いま、ま、でありが、とお」言葉にならないような消えかかるか細い声でそういうと母親は目にうっすらと涙を浮かべながか彼の手を握りしめ言った。

「向こうの世界に言ってもまた会えるからね。好きだった肉じゃがのデータ送るから。」

「や、、、、やっ、、た、、、、。」それを聞いた彼は最後に振り絞った力で精一杯の笑顔を見せると、静かに息を引き取った。するとその体はすぐさま電子手術室に運ばれ、脳のデータの転送が行われた。

家族は無事息子のデータが転送されたのを見届けると医師に頭を下げ、何事もなかったかのように病院を去っていった。

かくいう彼自身は、消えていった意識の覚醒にたった数秒のラグを経て目を覚ました。

目覚めた場所は先程までいた病院のベットだった。電子の世界で目覚めると生前自分が最後にいた場所から覚醒し、国の電子管理人が覚醒後の手続きをサポートしてくれる。まずは記憶データの確認。転送が正常に行われたか?最適な確認方法として取られているのが、自分が死んでいる。死の直前の記憶があるかの確認である。その記憶の確認が取れるとあとはこの世界での人権獲得の手続きが行われる。主な方法としては故人ナンバーの取得。電脳の世界であくまで身体はAIの身体であるためこれはナンバーで表される。後に移住権と個人口座と保険の金額によってそれぞれに居住場所が与えられる。今回場合、彼自身が生前学生だったということもあり、彼の両親からの提供で自室を完全再現したワンルームが彼のこれからの居住場所となる。一通りの手続きが完了すると、晴れてこの世界の住人となる。


病院をでると上空で人工太陽が現実世界と何ら変わらないほどまばゆく輝き、風をきるようにAIの鳥がさえずりながら空中を旋回している。街中まで出てみると、現実の世界よりも広大な都会の喧騒が果てしなく続いている。皆生きていた頃と変わらずそれぞれが携帯をいじっていたり、カフェでお茶をしたりと様々で、死んでいるにも関わらず生き生きと生活しているように見える。ここは電脳の世界というよりは現実の延長線に近い。誰ももとの自分が死んでいるなんてことは気にも止めていなければ、この場でそれを気にしている人間は僕一人だけだった。しかし死んだばかり、というよりここに来たばかりで困惑してしまっているのか少し疲れてしまった。AIの身体だというのに疲れるなんて皮肉もいいところだが、それでもここまでの人口密度だと流石に疲れて当然だ。とりあえずどこか休憩できる墓所に行きたい。そう思い手持ちのこの世界で使える携帯電話で近くの飲食店を検索。ヒットしたのは営繕行ってみたかったファストフードの店だった。親の教育と日頃の学校生活のせいかこの手のたぐいの店にいたことがなかった。同じ年代の人達がファストフードの店で友達と楽しそうに会話をしながら勉強しているのをガラス越しに通り過ぎる一瞬の間だけ心の中で羨ましそうに見てしまう当時の自分が嫌いだった。勉強をいくら頑張ったところで普通に生きることは僕には難しかった。だけど今は違う。何者にも縛られない。縛られることもない。僕は初めて自由を手に入れたんだ。心の柵から開放された反動は相当なものだったようで急いでその店まで走って向かった。AIの身体とは便利なもので先程あまりの人の多さに気疲れしていたにも関わらず思いに呼応したかのように足はぐんぐんと進み、すぐ目的の場所まで到着してしまった。

「ここが憧れのNacか、、、」普通ただの大手ファストフード店を前にしてここまで思いにふける人間はいないだろう。だが裏腹にもこういう普通の人には当たり前のことに感動できる人間もいるということだ。

ガラスの自動ドアの奥には同じような目的で店を訪れている人たちで溢れかえっていた。人の多さに若干物怖じするも恐る恐るドアに近づき、初めてファストフード店の敷居を跨いだ。AIに搭載されている五感プログラムでは鼻に突き抜ける油と香ばしい肉の香り。油っぽいといえばそこまでだが、僕にはこの匂いが初めての感覚で本日二度目の感動を覚えた。

大人になって一人暮らしでも始めれば食べられると思っていたが、まさか死んでから食べることになるとはNacに強い憧れを持っていた幼い自分に見せたらどう思うだろうか?そんな事を考えると畦化くすっと笑えてくる。レジに向かうための行列のなかで変に笑ってしまったせいか前後に並ぶ男女にちらりとおかしな視線を浴びせられた。恥ずかしさもあったが今の心には目の前で提供されるハンバーガーに釘付けだった。前に並んでいた男女が買い終わると、ついに僕の晩が回ってきた。ようやく夢にまでみた食べ物が食べられる。

「いらっしゃいませ。店内で食べていかれますか?それともお持ち帰りですか?」

初めて聞かれるそお問いかけに一瞬戸惑ったが、そこは既にシュミレーション済み。

「あっ、お持ち帰りで。」店内で食べるとなればNac初心者だとしまう恐れがある。店内がいくら広いとはいえ、まだ店内で一人で食べる勇気は持ち合わせていなかった。

「では、記憶から味の創造を行いますので、しばらくお待ち下さい。」

え、記憶・・・?

この世界の食事にはとあるシステムが存在する。まず、電脳の世界での食事とはいわば味覚のデータを食すということ。つまり生前自分が食したことのある食べ物の記憶、そこに存在する味覚データのものしか食べられないのだ。故に今まで母が作る手料理しか食べたことのない記憶の場合、脳にNacのハンバーガーの味覚データがないと食べることは愚か、買うことすらできないのだ。だが、そんな食事システムにも追加措置は存在する。それは電脳通貨と呼ばれるいわゆる現実世界のゲームなどに課金をし、新たなアイテムを購入するのと同じシステムが導入されている。通称「use sense]と呼ばれるシステムである。これは購入する感覚によって金額が変わり、例えば生前全盲だった人間がこの世界に来た場合、電脳世界での視覚は取り戻すことはできるが、見えている景色は全てモノクロまたは枠組みだけしか見えていない無機質な世界が目を通して映し出されているこおになる。大半の障害や病気などは国の保険や保証で賄うことができるが、僕のように食や音、匂いなど見たこと、聞いたこと、味わったことなどnないものには国からの保証は受けられない。現実世界から現金を入金してもらうか、電脳世界で仕事をすることによって電脳通貨は取得し,様々な商材を購入することができる。

この時の僕は手持ちに千円以上の通貨の持ち合わせがなく、一時間以上長蛇の列に並んでいながらも泣く泣く店をあとにする他なかった。感覚をその店で直接購入する際、通常の金額に合わせて約10%から20%ほどの割増金を支払わなければいけない。僕にとっては外食チェーン店の料理はほとんど食べたことがないため食べようする度に割増金が発生してしまうのだ。

僕は目の前で優しく微笑むAIロボットを相手に何故か急に恥ずかしくなり、長蛇の列を成す店内を意図を縫うように後にした。

「はぁ、この世界でも僕は未だハンバーガーすら食べられないのか・・・」自動ドアを抜け、歩きながらクレープや見たことのないスイーツを片手に歩く若い女性たちを見て深い溜めを一つつく。そういえば生前一度でも経験しておかなければならないとこの世界に訪れた際、管理人から目を通しておくようにと渡された注意書きにも書かれてあった。だが、まさか食事もそれらの対象に入っているとは思ってもいなかった。人生の経験値が他よりも足りていない僕にとってはこの世界は現実世界よりも生きづらいのではないのか?話に聞いていたよりも世界のシステムが複雑なことにこれからの生活に不安を覚えてしまう。せっかくこの世界では自由な暮らしができると心躍らせていたというのに空回り。この街に点在してある店の殆どは経験してないために利用できない。僕はそれらの店を横目に見ながら仕方なく家に戻ることにした。


家は中心街から少し離れた場所にあるマンションが用意されていた。鍵は故人ナンバーとAI網膜認証で開閉操作ができるようになっている。無駄にハイテクすぎてもはや驚く隙もない。ガチャという音を後に玄関の扉が開いた。説明にあったとおり部屋の中は現実世界で僕が使っていた部屋がそっくりそのまま再現されていた。家具の配置や匂い、勉強の途中で入院してしまったためにやりかけで終わっているノートまでも寸分の狂いもなく完璧だった。

「すご、、、ここまで完全再現だと電脳世界にいる実感わかなくなるな」僕は帰って早々パソコンの前に座り、メールボックスを確認する。すると数件のメールが僕宛に送られていた。家族からのメールが1件と管理人からの人権取得完了とこの世界についてのお知らせ、それと学校の数少ない友達からと、知らないメールアドレスからメールが1件送られていた。

家族からはこの世界はどうだ?とか死んだらまた皆で暮らそうねなど普通なら縁起でもないがここではジョークの一種だ。母からは僕が生前よく食べていた手料理の味覚データが送られていた。これでもとりあえずは何も食べられない生活は避けられた。

管理人からは病院で行った人権の申請やナンバーが受理されたことなど目を通すには気が遠くなりそうな難しい言葉が長々と記載されていた。雑に最初の数行だけを読み、友達のメールに切り替えた。

「よう!元気にしてるか?ってもう死んでるんだったな笑近々オンラインゲームの大会があるから見に来てくれよな~じゃあな~」ゲームの得意な友たちからのエールななんとも自分中心というか、はたまた死に対しての概念が薄くなってしまっているせいなのか、他の友達からのメールも確認したが、皆元気にしてるか?やオンラインでまた話そうななど現実世界に僕がいないことに対してはあまり気にもとめていないようだ。あまりに平和すぎてため気が出てしまう。そして最後、誰かから名前も無ければアドレスも適当、内容に関するタイトルもない。これが俗にいう迷惑メールなのか?と思いつつ今どきこんなものを送るやつがいるのかと、この時の僕はその物珍しさから何も考えずそのメールを開いてしまった。

開いた瞬間突然目の前が真っ暗になり動けなくなった。手足を動かそうにもまるで感覚がない。完全なる闇の中に突然閉じ込められ、僕は軽いパニックに陥った。いくら藻掻こうにも身体は一向に動く気配はなく、初めはウイルスにでも感染したのかと思った。しかしこの世界にやってきた時の説明でこの世界は現実世界と電脳世界の両方で超高性能なAIによって管理されており、ウイルス感染などの障害が起きた際はAIによって即時に対処がされる。もし今起きているこの現象がウイルスだとするならばもう既に復旧してるはず。

「この世界は完璧に管理されているんじゃなかったのか?!」暗闇の中で思わず叫んだ。無音の空間に誰に届くこともない己の声に絶望しかけていたときだった。聴覚を介してではなく、脳に直接何者かの声が流れ込んできた。

「本当にこの世界が完璧だと思っているのか?」

「だ、誰だ!?僕をどうするつもりだ!?」聞こえてきたその声を威圧するように大声で反応する。

「君がここで見てきた世界は本物か?現実か?」

「何が言いたい?僕をここから出せ!」

「今この世界で生きている君は、現実世界の君自身だと言えるのか?君は誰だ?」

「僕は、僕自身だ!僕は死んでいても僕は・・・・あれ?」ここで僕の頭の中にふと疑問が湧いてきた。人は死ぬとこの世界にやってきて第二の人生を送る。それが電脳世界。だけど現実世界の僕は既に死んでいるし、身体はAIによって作り出されたデータの身体。生前の記憶はあっても未来は想像することはできない。初戦はこの広い電脳世界でお金を出してからではないと追体験はできない。それも経験するのは僕自身の体ではなく、AIの身体がそれを学習して経験したと僕に思い込ませる。じゃあAIに生かされている僕、いやこの世界に住まう人間たちは本当に人間と言えるのか?

「僕は・・・・誰だ?」

「ようやく理解したか。」その言葉を合図に今まで暗闇だった世界がもとに戻った。突然霧が晴れたように感じた僕の目の前にはいつの間にか知らない男が仁王立ちで僕のことを見下ろしていた。



                     第一話入国、そして理解

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ