【子語り怪談】かぞくのえ
子にせがまれて、毎日語る怖い話の一つです。
小学生の頃の話ですが。図工の授業で、「家族」をお題に絵を描くことになりまして。うちは母子家庭で弟が一人。他のみんなの絵には父親がいるのに、自分の絵にはそれがいないのを、イヤではありませんでしたが、なにやら違和感を覚えたものです。
さて。私のクラスには、もう一人、片親の女の子がおりました。その子のうちは父子家庭で、兄弟姉妹もいないはずなのですが、なぜか絵の中には四人も人がいる。
まず、一番目を引いたのが、スコップを高々とかかげる真っ赤な鬼のようなものでした。これを一人と勘定してよいものか、いささか悩むところではありますが、まあ概ね人の形をしているので、一人としましょう。
二人目は、画面の真ん中。下半身が茶色い地面に埋まった女性です。両手を挙げ、赤い口を大きく開けて、なにやら叫んでいるようにも見えます。
三人目は、地面に横たわる小さな男の子で、ハニワのように表情がなく、つま先から首の下あたりまで、茶色いクレヨンでぐじゃぐじゃと塗りつぶされています。
最後に、画面の左端。棒立ちになった女の子が、ぼろぼろと涙をこぼしている。
これらの人たちの背景には木々が並んでいて、その隙間は真っ黒に塗りつぶされていました。
当然、教師は立腹し、家族の絵を描けと言ったのに、なんでこんなものを描いたのかと詰問します。しかし女の子は、首を振るばかりで答えようとしません。教師はイライラしながら新しい画用紙を女の子に渡し、描き直せと言い付けました。
次の授業が始まっても、女の子だけは家族の絵を書かされていました。そうして出来上がったのは、確かに彼女と彼女の父親の絵ではありましたが、父娘は画面の端と端に離れて立っており、二人の間は空々しく開いていたのです。
ともかく、女の子に家族の絵を描かせた教師は、困惑しながらも彼女から絵を受け取りました。ほどなく教室の後ろの壁には、児童らの描いた家族の絵が貼られることになったのですが、女の子が最初に描いた絵は、どこにもありませんでした。
それからしばらく経って母が再婚し、私たちは新しい父親の、故郷に近い街へ引っ越すことになりました。件の女の子が、なぜあんな絵を描いたのか、もはや知るすべはありません。
ただ、今になって、ふと思うのです。
もし、あの不気味な絵が、本当に彼女の家族の絵だったとしたら?
たぶん、左端で泣いている女の子は、きっとあの子なのでしょう。胸まで土に埋められた男の子は、たぶん彼女の弟で、叫んでいる女性は母親。そして、スコップを振り上げる赤鬼は……それは、私の考えすぎなのでしょうか。