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誘拐?

まさかの誘拐を決行。

 <<10:30・ディスティア総統府>>


「連絡はしたし、後はなるようしか成らないな」


 翌日、急変した士官を無事に引き取ったルドルフは帰国するなり、その足で総統府に向かう事になる。暗殺を実行できなかった事を思うと表情は暗く重くなるが、覚悟を決めて重厚な扉を押した。


「総統閣下、只今戻りました」


 総統の執務室に入ると、ヘルマン並びに上級将校らから無言の厳しい目線を向けられ、気まずい雰囲気漂うなか静かに席についた。


「士官を連れ帰っても失敗の言い訳には成らないぞ」


 労いより先に先制パンチを繰り出し、言い訳を聞くつもりの無いセオドールは、訝しげな表情を作り睨んできた。ルドルフが思うにアサシンらが暗殺失敗の責任押し付けたと考えたが、嘘偽りなくありのままを伝えようと真剣な眼差しを向けた。


「ステルスドロイドを確認したので、こちらとしては無駄な血を流さなかっただけです」

「それは報告で知っている、たが奴と打ち合わせしたんじゃないのか、手際が良すぎる」


 差し違える覚悟を決めて臨んだ交渉は斜め上を行くアーレイによって封じられ、ヒャンド攻略の事を秘匿していた手前、強く言えないセオドールはこれ以上責めるつもりは無いらしい。とはいえ芽生えた猜疑心はそう簡単に晴れることはなく、疑いの目を向けてくる。


「互いが裏読みした結果と考えており、決して通じてはおりません」

「そもそもが怪しいと言っているんだ、手土産の交換などすれば疑われても当然だ」


 真意を伝える為のあのやり方に後悔は無いが、結果的に反感を買ってしまう。となればルドルフは次に家族の事を心配をしなければならず、気合いを入れ直し歪んだ顔のセオドールと向き合う。


「相手を知らないと判断に困るので当然かと。事実、解放に関しては早急に解決したと自負しております」

「敵国軍人との交流は一切認めん、捕虜なんかより抹殺を優先しろルドルフ!」


 家族に火の粉が降りかからないよう、交流があったからこそ早期に捕虜解放を実現したと説明をする。たった2度の訪問で、数百名を連れて帰る偉業を達成したのは間違いない事実なので、他の士官の手前認めざる得ない。しかし総統はあくまでもアーレイ抹殺に拘りを見せていた。


「承知しました閣下、次こそは必ず仕留める所存です」

「そうだ、君の家族を総統府に招待しよう。父親の働く所を見せた方が良いだろう」

「閣下、それはどういう意味でしょうか」


 狡猾なセオドールはやはり家族を人質に取る考えだ。逃げ切れたと思っていたルドルフの顔は厳しくなるが、狼狽えれば疑いが深くなるだけなので、ムカつきながらも冷静に返す。


「他意はないぞ今からでいいぞ、遠慮するな。君の働く姿を間近で見せてやれ」

「承知しました。それでは次回出発の際にお連れします」

「諜報部が君に用事があるそうだ。そのまま出頭しろ」


 微妙に噛み合ってないにも関わらず、セオドールは異論を述べることはないが、代わりに不敵な笑みを浮かべている。諜報部に出頭させると言うことは、取り調べの間に家族を拉致するつもりだろう。反論すれば逆鱗に触れるのは間違いなく、内心で「ここまでやるのか」と思いつつ席を立つ。


「承知いたしました。それでは失礼致します」


 踵を返し部屋を出たルドルフは妻に連絡を取ろうとしたが、通信の類は盗聴されていると考え「とりあえず俺が帰るまで外にいなさい」と観測艦から送ったメッセージを思い出し、家を出ていてくれと心から願うしかなかった。


 <<ルドルフ退出後・執務室>>


「取り調べの合間にルドルフの家族を連れて来い、くれぐれも丁重にな」


 扉が閉まると同時に、剣呑な眼差しに変わったセオドールは諜報部長官を睨み拉致の指示を出す。アーレイに対する憎しみは想像以上に強く、国の為に頑張っているルドルフの思いなど切って捨てる構えだ。いきなり指示を出された長官は慌てることはないものの、ブワッと額に汗をかき緊張した面持ちに変わる。


「た、大変申し訳ありませんが、閣下直轄部隊の使用の許可を願います(汗」

「ああ好きにしなさい、逃げる相手ではないのでな」


 諜報部長官は命令された以上、従わなければならず、アーヴィン空爆後の調査のために、殆どの部員が出払っているとは口が裂けてもいえない。直轄部隊を向かわせることをギリギリに思いつき、承諾されホッと胸を撫で下ろす。訝しげな表情をする時のセオドーは、少しでも言い方を間違えると激昂することを知っているからだ。


 ーー


 <<11:30・大型ショッピングモール上空>>


「目的地に到着したナノ」

「事前情報だとこの辺りでいいはずだ。後は連絡待ちだな」


 無事に首都上空へと潜入を果たしたアーレイ達は、早期警戒レーダーに探知されるのを避け超低空飛行をしつつ目的地に向かい、到着するとデルタ諜報部からの連絡をまっていた。そして数分後・・・。


 <アーレイ少佐、目標の親子はショッピングモール内に入りました>

 「ここまでの支援ありがとう、後は我々が引き受ける」


 ルドルフ親子の足取りを追わせていた影から連絡が入り、声質からして編集部に赴いた女性だろう。前回のお礼を言いたかったが暗号化通信と言えども、敵国のど真ん中で、ダラダラと通話することは避けなけれならず速やかに切る。


「そろそろ出番ですね、準備は整ってますよアーレイ様(笑」

「ビーコンを貼り付けてあるし、赤髪だから見失うことはないよ(汗」


 指示を出すために後部座席へと向かい、着替えを終えたフローレンスと向き合うと、仕立ての良い生地を使ったAラインの純白のワンピースが目に飛び込んでくる。


 目のやり場に困るな〜。


 短めの丈から美脚が顕になり、会食の時に見せた完璧メイクと相待って、美貌を再認識したアーレイは、思わず目線を逸らしてしまう。


「うふふ照れてますね、子供の誘導は任せましたよ(笑」

「ああもう誘導は任せてくれ、認識阻害膜を忘れるなよ(汗」


 敵国のど真ん中で親子の誘拐を実行する直前に微妙な空気が流れ、何とも締まらない雰囲気になってしまう。フローレンスは照れ隠しを見て、ウフフと笑いながら認識阻害膜を降ろすと、光の粒子になって消えてゆく。


 ーー


 <<ショッピングモール最上階・お菓子売り場>>


 モノトーンを基調にシンプルなデザインのショッピングモールは、質実剛健な考えを持つディスティアならではだ。モジュールを使い簡単に注文できるのが主流とはいえ、やはり現物を見ながらのお買い物が廃れることはない。平日とはいえ昼前ともなれば、ランチ目当ての客が押し寄せそれなりに混雑をしていた。


「ママお菓子買いたいの、良いでしょママ」


 母親に手を引かれている5歳くらいの赤髪の男の子は、店頭に並ぶカラフルなお菓子に目を奪われ、いても立ってもいられない様子だ。この場所は多くの子連れで賑わっていることもあり、早く宝探しに参戦したいらしい。


「選んできて良いわよ、けど買うのは一個だけだからね」

「はーいママ」


 入り口には屈強な警備員が立ち、武器探知機も備えてあるのでセキュリティーは万全だ。なので母親は甘いものを欲しがる息子の手を離したのだろう。解き放たれれた男の子はお目当ての品を欲し、一目散に店内へと消えてゆく。


「あらルワンダさんじゃない、この場所は子供ホイホイで嫌になっちゃいますね」

「ええ、屋上のレストランに行くつもりだったのですけど、仕方ないですよね」


 同じ学校に通うママ友と遭遇すれば、世間話に花を咲かせるのが普通だろう。安全性も高く吟味するのに時間は必要だし、決まれば勝手に戻ってくるのでつい目を離してしまう。


「確かご主人は今朝戻られましたよね、こんなとこにいていいの?」

「遅くなると連絡が入りましたから大丈夫ですよ」


 この辺りは将校向けの官舎が多く、ママ友の旦那はルドルフと同じ第6艦隊勤務らしく日程を知っていた。とりあえずお茶を濁すルワンダは、到着早々「とりあえず俺が帰るまで外にいなさい」のメッセージを思い出し、何か悪いことが起きているのではと、一抹の不安が胸を過ぎる。

 

 <<お菓子売り場・品定め中の男の子>>


「チョコかな、やっぱグミがいいかな」


 母親の心配をよそにカラフルな箱を見て、品定めしている子供の目はキラキラと輝き、可愛らしいマスコットを形どったグミを手に取ろうとしていた。


 「うわぁ、綺麗な虫みっけ!」


 目の前を何かがよぎり一瞬目を奪われ、手を伸ばす先の箱に小さな赤と黄色のテントウ虫が突然現れた。それはまるで捕まえてくれと言っているようだ。魅力的な餌に食いついた男の子は衝動を抑えきれず、摘みあげようとする。


「もう待ってよ、絶対に捕まえるぞー」


 捕まえようと手を伸ばすものの、寸前にするりと抜け出て飛んで行ってしまい、思わず追いかけ始めてしまう。夢中になり店内を出てはいけない約束を忘れ、気がつけば見知らぬ場所まで来ていた。


「ねぇここどこ、ママ・・」


 忽然と虫が消えてしまい周囲を見渡すと、広い廊下が交差する見慣れない所まで来ていた。いつも母親に手を引かれ帰り道など気にしていない彼は、引き返す自信がなくなると同時に不安に襲われ、泣きそうな顔になってしまう。


 <よし不安な顔をしているぞ、今だ>


 超小型虫ドローンは子供と母親を引き離すために、アーレイが操っていた。とはいえ直ぐに異変に気がつき後を追ってくるだろう。フローレンスの役目は”誘拐の了承”を得て転送ポイントまでの案内役だ。


「ラジャー、フローレンス行きます!」


 今まで物陰に身を潜めていた彼女はするりと姿を現すと、カツカツカツと軽快にヒールの音を奏でながら、不安で押し潰されそうな顔をする男の子の方に向かってゆく。


「どうしたのかな、帰り道がわからなくなったの」

「うん」


 子供と同じ目線までしゃがみ優しく声を掛け、不安を言い当てるフローレンスのことが救世主に思えたのか、少しだけ表情が和らぐ。若くて美人なお姉さんなので警戒することはないだろうけど、手を引けば不審に思われてしまうので、何もせず微笑みで返す。


「あらあらそれじゃあ、お姉ちゃんはママが来るまで一緒に待ってあげるね」

「お姉ちゃんありがと」


 一緒に待つという言葉で悪い事をする人じゃないと判断したこの子は、父親に似て冷静だ。返事をしつつ微笑みを返したので、少しは信頼を得られたのだろう。


 先ずは第一関門突破ね。じゃ次はこれでしょ。


 あとは母親が来るのを待つだけなのだが、更に印象を良くするために、ポシェットから子供が好きなアレを取り出すことにする。


「はいこれ、甘くて美味しいよ一緒に食べよっか、どれにする?」

「青いのを食べるます」

「それじゃお姉さんはピンク色にするね」


 手の上に転がる絢爛豪華な飴玉は王族御用達の品なのだろう。包み紙はキラキラと輝きそれは子供を惹きつけ、何ら躊躇うことなく好みの色を選び指差す。フローレンスは空色の飴を摘み上げ男の子に渡し、同時にピンク色の包装を解き一緒に口に含んだ。


「おいちいでしゅ、ありがとです」


 甘いものは緊張した心を解きほぐすには最強のアイテムだ。頬を丸く膨らませコロコロと音を鳴らし、甘味を堪能する男の子はニコニコと笑顔を溢す。


「でっしょ、これねお姉ちゃんのお気に入りなのよ(笑」


 向き合って飴を舐める微笑ましい姿は親子の触れ合いに見え、不審には思われないだろう。間も無く現れるであろう母親の事を想像しているのか、笑みの中に緊張感が混じっていた。


 ーー


 <<数分後・お菓子売り場>>


「ジョアンどこ、どこにいるの」


 ママ友との会話が一息つき、我が子の顔を確認したくなったルワンダは売り場へと急ぐ。いつもならいつもの場所で座り込んで、品定めをしている筈のジョアンの姿が見当たらず、胸の奥に仄暗い感覚が広がり始め、慌てて周囲を見渡す。


 いない、けどまだそんなに遠くに行けない筈よ、早く探さなきゃ。


 文明が進んだこの世界では迷子など一瞬で居場所はわかる。ルアンダはモジュールの機能を使いジョアンの位置を割り出し、店を出ると小走りで廊下が交差する地点へと急ぐ。


「もうジョアンここにいたのね、店からでちゃダメって言ったでしょ」

「ママ!」


 たった数分間とは言え、子供にとっては不安が永遠に続くと感じていたのだろう。ルワンダを見つけたジョアンは破顔するなり、大きく手を広げた母の胸に飛び込み安心を堪能していた。


 んっ?甘い香りがするこの匂いは飴よね。それにこのデルタの文字って・・。


 再会を果たし安心していると、息子からなんともいえない甘い香りが漂い、一瞬「店から勝手に持ち出した商品なの」と脳裏をよぎる。不安が増す中、ジョアンが持つ包み紙にデルタの文字を見つけ、星団側の商品を置かないあの店には無い品だと気がつく。次に誰に貰ったのかという疑問が湧き、反射的に疑いの目を向けてしまう。


「あにょね、お姉ちゃんにおいちいのを貰ったの」

「お姉ちゃん・・」


 厳しい目を向けられ、怒られると思ったジョアンはバツが悪そうに口を開き、青と白のマーブル模様の飴玉を見せてくれた。疑ったルワンダは「貰った」と聞かされ冷静さを取り戻し、やっと周囲に目を配る余裕が生まれる。次に正面に立つ真っ白なワンピースが目に入り、彼女が飴を渡したのだと理解して素顔を伺おうとするが・・。


 この子はだれよ、なんだか良く見えないわ。


 少し離れて立つフローレンスの素顔を確かめようとすると、大きな花の飾りがついた帽子から垂れ下がる薄いベールが邪魔をして、金髪を認識出来るものの顔ははっきりとは見えない。もちろんそれは認識阻害膜の効果だ。秘密裏に潜入したとはいえ素顔を晒せば顔認証に引っかかり、諜報部が放って置かないだろう。背筋を伸ばし静かに待つ彼女に、何かしら話さなければならないと考えたルワンダは立ち上がり向き合う。


「息子のジョアンが迷惑をおかけしたようで、すみませんでした。保護して頂きありがとうございます」


 はっきりと素顔は見えはしないが、とりあえず息子を保護してくれていたことに対し、礼を述べるルワンダは頭を下げた。ここから本番に入ると感じたフローレンスは、近寄れば認識阻害が薄くなると考え距離を詰める。


「ご子息は幼きにも関わらず、慟哭(どうこく)もせずに、お母様をお待ちになられていましたわ」


 王族を嫌う軍事国家の公共の場で、見惚れるようなカーテシーを披露すれば間違いなく怪しまれる。その代わり背筋をピンと伸ばし、手を腹部に重ね合わせ、凛とした立ち姿を披露しつつ笑顔で応えた。


 この喋り方、この立ち振る舞い、あの洋装は絶対一般人じゃないわ。金髪の美人に見えるけど誰なのかしら。


 立ち振る舞いや言動で品の良さを感じ、阻害が弱くなり朧げに美人だということだけは理解できた。しかしこの場には凄く不釣り合いに思えたルワンダは、少しだけ訝しげな表情に変わる。その刻一刻と変わる感情を読み取ったフローレンスは、自分が何者か気がつくまで会話を続けるつもりだ。


 普通の会話から切り込むと致しましょう。


 会話を重ねると性格や、人となりがわかるというものだ。手始めに「ご子息はお幾つですか」「昼食はこれからでしょうか」などと当たり障りのないやり取りを続け、そろそろお別れの雰囲気になり始める。


「強面のルドルフ様とは違い、ジョアン君は本当に可愛らしいですわね」

「主人のお知り合いの方でしたか、失礼ですがお名前を教えて頂けますか、私はルワンダと申します」


 頃合いを伺っていたフローレンスは、ルドルフの名を借りて一気に正体を明かし、星団側にご招待する旨を伝えるつもりだ。旦那の名前を聞いたルワンダの表情は明るくなったというか、猜疑心が晴れたような顔をする。


「《《ロ》》《《セ》》《《ッ》》《《テ》》《《ィ》》と申します。以後、お見知りおきください」

「ロセッティ様ですね、重ねてお礼を申し上げます」


 今の段階でファーストネーム(フローレンス)を名乗ってしまえば元も子もないので、態とセカンドネームを教え、様子見をする。ルワンダの表情は変わらず、こちら側の人間(ディスティア)で旦那の知り合いの認識だろう。


 今なら私の存在理由を考えてくれそうですわね。


 次に衝撃的なキーワードを放っても、冷静に考えてくれると判断したフローレンスは勝負に出る判断をした。


「ルワンダ奥様、私も早くアーレイ様のお子が欲しいですわ(笑」

「アーレイって、一体あなたは何者なの、敵なの!」


 旦那の知り合いと思いきや、敵国のアーレイのお子が欲しいとサラリと吐露すれば当然警戒をする。先ほどまでの表情を一変させ厳しい目線を向けてきた。とはいえルワンダは《《ロ》》《《セ》》《《ッ》》《《テ》》《《ィ》》という名を知らず、頭の中でフローレンスと繋がらず絶賛混乱中だ。


 ルワンダ:アーレイと親しくお子が欲しいといえる間柄で、金髪で旦那を知っているとなればフローレンスしかいないけど、何のために現れたのよ。


 フローレンス:既に私のことをわかっているようですし、存在理由を知りたくなっているのでもう大丈夫でしょう。


 混乱中の表情を伺うと既に答えを導きだし、認識阻害膜を外す段階だとフローレンスは考えベールに手をかけた。


「ねぇお姉ちゃん飴ちょうだい」

「ダメよジョアン、はしたないわよ」


 口の中が空になったジョアンは美味し過ぎる飴のお代わりをご所望だ。母親としてはこれ以上は手を煩わせる訳にもいかず断ろうとするが、すでにポシェットから取り出され目の前に差し出されていた。


「よろしいのですよ奥様、これはですねアン・プチ・デルタの《《献》》《《上》》《《品》》なのでお気になさらず(笑」

「献上品・・」


 咄嗟に献上品という言葉を使い、頭の中で確実に正解に導くように仕向けるフローレンスは、悩み顔のルワンダを無視してジョアンに飴玉を渡す。まぁ包み紙を開き口に入れる頃には気がつくはずだ。


 献上品、金髪、アーレイ、知り合い。やはり彼女はフローレンス王女だわ。けどなぜこんな場所にいるのよ、全然意味がわからない。


 断片的だったピースが頭の中で繋がり、目の前の女性はフローレンスだと正解を導き出す。しかし敵国のど真ん中に来てまで接触する意味が理解できない。得体の知れない不安を感じたルワンダは旦那のメッセージを思い出し、何か良からぬことが蠢いていることだけは確信していた。


「失礼ですが貴女様はデルタ王族の方ですよね」

「もうお気づきですね、フローレンス・ロセッティと申しますのよ(笑」


 七変化する表情が落ち着き、訝しげな表情で睨むルアンダを見たフローレンスは、もう正解を導いていると判断すると徐に認識阻害膜を捲り、素顔をちょっとだけ見せすぐさま隠す。


「何が目的で近付いたの、あなたがこの場所にいること自体あり得ないわ」

「奥様が見知った顔でそれなりの地位を持つ者であれば、アーレイ様の話を聞いて下さいますよね」


 今までの行いはルドルフの家族に接触するための行動だと遠回しに語り、あまりの斜め上の答えに呆れたルワンダは、旦那との会話の中で「あいつはとんでもない切れ者なんだよ。俺の部下になってくれたら最高なんだけどな」との褒め言葉を思い出していた。


 主人が認めるアーレイはなぜこんな面倒なことをするのよ。もしかしなくても彼女は案内役の為だけにここに来たの?


 旦那からアーレイは強かで正義感が強く、ユーモアに溢れ懐が深いと聞いていたので、無作法なことをする軍人ではないとの認識だ。となれば目の前の王女は信頼を得る為だけに姿を表したと、思わずにはいられなかった。


「どんな話かしら、簡潔に教えてくださらない」

「デルタ王族の名において身の安全を保証しますので、ご移動下さい」

「ここじゃ話せないなら行かないわ」


 まあ当然の拒否反応だろう。しかしフローレンスは動じる事なく凛とした立ち姿のまま、エスカレーターを走る黒服の男達を指差す。


「間も無く追っ手が現れます。ジェシカちゃんは既に保護されましたので、さぁ逃げましょう」

「えっ、追われているのは貴女の間違いじゃないの」


 ちなみに涼しい顔で会話を続けているフローレンスのモジュールには、お姉さんのジェシカの保護やら、セオドールが差し向けた諜報部が接近しているとの情報が逐一入っていた。しかし逃げようと言われたルワンダは自分が追われる意味がわからず、迷いが元で立ち竦んでしまう。


「私が追われるのであれば態々ここに来ませんよ奥様。逃げないとご主人は窮地に立たされますのよ」


 何が何だか分からない状況だけど、旦那の為だけに態々来た事だけは理解できる。しかし信じて良いのか判断を迷い、どうしても逃げの一歩が踏み出せない。


〈諜報部への出頭要請が届きました。速やかに指示に従って下さい〉


 判断に迷っているとモジュールにアラームが現れるとともに、赤い文字の緊急メッセージが強制的に表示される。これが動かぬ証拠になり、彼女が話す通り追われているのは自分だと認識せざるを得なかった。


「仰る通り私が追われているのですね、わかりましたお願いします」

「畏まりました。お子様はお任せ下さい」


 承諾を得れば後は屋上を目指すだけだ。幸いこのフロアーの上がそうなので、フローレンスは「お姉ちゃんと一緒に走りましょう」と言ってジョアンを抱え、一目散に階段を駆け上がる。

宜しければブクマ、評価お願いします。


何か気になる点が有れば教えてください!

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